サクラノ詩「The Happy Prince and Other Tales.(長山香奈)」の感想・レビュー

筆を折っていた主人公くんをして再び筆をとらしめた夏目圭が死亡するはなし。
歪んでるからこそ本物を知った当て馬ヒロイン長山香奈がメインヒロイン以上に大活躍。
長山香奈に刺激された主人公が稟の才能の結晶である吹と水彩画対決する場面は手に汗握る。
主人公は因果交流に喩えられヒロインたちを救済したからこそ、その芸術を深めたと描写されるのだが…
攻略ヒロインたちを救済したからこそ、夏目圭に無理をさせ死亡させてしまったというアンビバレンツ!
最後はイデア論を展開する稟に対し、主人公が人と共にある芸術の神を提唱して終わる。
主人公くんが他者に弱みを見せると藍√に入れるが正史ではない。グランドルートが藍エンドとなる。

主人公;草薙直哉の再生と挫折

  • 主人公くん再起の要因!それが夏目圭と長山香奈。
    • サブタイトルは幸福の王子であり、王子が主人公くんでツバメが夏目圭という配役。主人公が筆を折っていることを不満に思っていた圭だったが、「墓碑銘の素晴らしき混乱」の作者は主人公であると見抜く。その芸術性に喚起された夏目圭はお互い高めあおうとムーア展に向けて命を削って作品を描いていく。そんな圭を見て戸惑う主人公くんに対し、ここで長山香奈が登場だ。各攻略ヒロインの√にしばしば登場し、フラグ構築のための当て馬として消費されてきたキャラクターであったがここで大化けし、主人公くんの原動力へと昇華する。芸術にあてられ人生を破壊された凡人代表の長山香奈が歪みながらもそれでも高みを目指そうと演説するシーンはわりと心震える。一人の芸術家としての主人公を再生させたという意味では攻略ヒロインたちよりも重要なポジションであると言えよう。こうして主人公くんは、長山香奈に啖呵を切って、芸術の神に勝負を挑む。芸術の神とは稟の才能を呑み込んで具現化された死霊「吹」。水が抜かれたプールの底をキャンバスにして水彩画対決を行うのである。神がかった手法を見せる吹に対して、主人公くんは「因果交流の色彩」で挑む。つまりは吹の絵を元に自分の点描を重ねより高次元の作品を生み出したのである。こうして主人公くんは新たな芸術のスタイルを獲得し、夏目圭と競うためムーア展に応募する。
cf.長山香奈演説

本物が分かる目など、この世を生きていて苦痛でしかありません。他の連中みたいにクソみたいなものにはしゃいでいる方がよっぽど幸せです。世の中の連中、全員幸せそうじゃないですか。何故だと思いますか?やつらは偽物も本物も分からないからです。やつらに分かるのは他の大多数が喜んでいるかどうかだけ。空気を読む力だけ。でもそれが正しい。そんな奴らの方が私よりもずっと上等。そちらの方がハッピーに生きられる。それでも価値の無い物を作り出す人間どもにおもねることなんてできない。だから私は戦おうとする。

才能は凡人を裏切りますが、技術は凡人を裏切らない。努力で得た技術体系こそ、凡人の武器。凡人の刃だって、天才どもの のど元に届くことがある。才人は、天才を惑わす技を持っている。何故ならば才人は凡人であるからです…描くという行為、その無限とも思える様な反復。それだけが凡人が天才を凌駕できる方法です。

  • 夏目圭死亡
    • 夏目圭の期待に応え、長山香奈に刺激され、吹との戦いで芸術性を深めた主人公くんはムーア展でノミネートされる。夏目圭も同様にノミネートされ、二人の戦いは夏目圭に軍配が上がった。しかし、受賞会場に訪れない夏目圭。なんとバイクで事故って死んだのである。OPで真琴と圭が対比される際に圭の木が枯れ枝だったことから死が匂わされていましたが、本当に死んだとは。愕然とする主人公くんは、自分の右手が無事だったら圭を必要以上に駆り立てることもなく、死なせなかったかもしれないと自責の念に駆られる。つまり主人公くんはこれまでのシナリオにおいてその存在が「因果交流」とされヒロインたちを救済することによって芸術性を深めてきたのだが、それを全否定することになったのである。ここで選択肢が提示され弱さを見せると藍√に入るのだが、自分で立つと長山香奈エンドになる)。夏目圭の死は雫にも影響与え、夢呑みにより封じていた吹が稟に帰り、稟は芸術の神となる。最後のシーンでは主人公くんと稟が芸術の神について論じることとなる。稟が唱えたのは人間を超越した心理的存在としての芸術の神。人間が存在しなくても美のイデアは存在するとの考え。他方で主人公くんが唱えるのは人間の鑑賞に左右される弱き神。それでもその神は人と共にあると提唱。世界へと羽ばたいていく稟を見送った主人公くんは、長山香奈とともに、人生は短いようだが長くもあり、まだ高校を卒業した程度の自分らの戦いはこれからだとエンドを迎える。「世界は、どんなに悲しい瞬間でも美しく。そして、どんな幸福な瞬間でも醜い。だから、俺達が生きる世界には、意味と意義がある」。