サクラノ詩「櫻の森の下を歩む(夏目藍)」の感想・レビュー

最終章でもテーマは「因果交流」。人々との交わりの中で主人公は芸術を見出す。
人生の落伍者となり非常勤として燻っていた主人公でも胸に秘めた襖火は消えてはいない。
ヒロインたちが誰もいなくなった舞台で想い出を噛みしめながらも現在の仲間と立ち上がれ。
現代アートに上書きされた教会壁画を光彩によりアレンジし直し、新たな作品を創出せよ。
故郷という地に埋没した主人公は羽ばたいたヒロインたちが帰るための大地となったのだ!!
「一番うまくいってない時、一番クソな時が、一番生きてる時なんだよ」は名言。
挫折したオッサンたちにはより一層味わい深い作品となるでしょう。
そして正史グランド√は藍エンドで幕を閉じますよ!!あと早々に続編のお知らせがあり『サクラノ刻』が10年かからずに出るそうです。

そして攻略ヒロインたちはいなくなった

  • 教会壁画よもう一度
    • 夏目圭の死亡後、攻略ヒロインたちは故郷を出て後には主人公くんだけが残された。東京藝大を出たにもかかわらず母校の非常勤講師として糊口を凌ぐ毎日を送る主人公くんは、一見すると精根尽き果てたかのように見えた。同じような境遇で非正規雇用となり地元に残ったモブキャラと場末の飲み屋で酌み交わす安酒は哀愁をそそる。非常勤講師という不安定な立場で教員生活を送る主人公くんであったが、それでも新たな生徒たちは主人公くんを慕って集まってくる。生徒たちの質問をのらりくらりと交わしながらパッとしない生活を送る主人公くんは芸術の魂を忘れてしまったのであろうか?そんな折り、再び長山香奈が登場し勝負を仕掛けてくる。長山香奈は自分の力を示すため違法系現代アート集団のリーダーとなっていたのだ。そして主人公くんたちが仕上げた教会壁画に改変を施してしまう。かつて美術部のみんなで仕上げた教会壁画が台無しにされてしまった。この状況を受けて主人公くんはみたび立ち上がる!!主人公くんの特性は「因果交流」。そのため長山香奈たちの現代アートも否定するのではなく、交流の対象としてしまうのだ。教え子や攻略ヒロインの妹たちを率いて作戦開始。ステンドグラスの技法を応用し、色彩の変化により教会壁画を新たな価値観で描き直していく。この新・教会壁画作戦では主人公くんは若き日と同様に楽しんでいた。また普段は鬱屈した日常を過ごしてきた教え子たちも楽しんでいた。主人公くんは夏目圭の死後、地元に残りながらも日々鍛錬を欠かしていなかったのだ。主人公くんは最後に稟と別れた時に述べた、芸術には絶対的な神が存在するのではなく、人間の解釈とともにあるということを実践し続けていたのだ!!


…ある日、生徒に尋ねられて、美術教師として答えたことがあります。作品から楽しさを感じることがありえるだろうか?作品から作者の息づかいを感じることはあるだろうか?私はあると答えました。何故ならば絵画というものは、詩のようなものだからです。もし君が作品を目の前にして“重厚”だと思ったり、“高尚”そうだと思ったら、その芸術は死んでいる。もし君がその作品を目の前にして作品から意欲を感じたとしたら、その作品を生き返らせたのは他ならぬ君だと。絵画というものは、ただそれだけでは何も出来ない存在なのだと思います。それを見る人によって絵画は初めて生きるのです。だから作品は完成品ではないのかもしれません。もしかしたら作品は見る人によって初めて完成される。いや更新されるのかもしれません……


  • 地元へ残って巣立った者たちの寄る辺とならん
    • 主人公くんはその奉仕の精神から「幸福の王子」として例えられていました。しかしその結果としてツバメ(=圭)を死なせてしまいます。このことを踏まえた上で、主人公くんは自分がツバメたちの大地となることを決意します。つまりは地元に残って居場所を守ることにしたのですね。渡り鳥たちがまた帰ってくるように、故郷を離れた旧友たちも再び戻ってくることがあるかもしれない。その時にみんなが集まれるような場所を残しておきたい。故に主人公くんは夏目家の屋敷に留まり、地元を守り続けてきたのです。嗚呼郷土愛。
    • 最終的に6章のグランドルートは藍エンドとなる。新・教会壁画の完成後、主人公くんが孤独に耐えかねているシーンは印象的。藍に弱さをさらけ出すのだ。「人間はさ、俺達はさ。上手くいってない時、全てがデタラメな時に、鬱になって、酒飲んで、ゲロ吐いて、血吐いて。一番上手くいってない時、一番クソな時が一番生きてる時なんだよ」と述べる描写は酷く印象に残っている。藍は学園の姉妹校のゴタゴタを片付けるために一時転勤していたが戻ってくる。その転勤の条件が主人公くんを正規採用とすることだった。藍が主人公くんに夏目家を守ってくれたことへの感謝を述べる姿は涙を誘う。こうして藍と二人で歩んでいくよエンドで第6章グランドルートは幕を閉じるのであった。こう考えると藍との情交は6章に入れて欲しかったと思うのは私だけではないはず。