雑録

サクラノ詩「A Nice Derangement of Epitaphs(夏目雫)」シナリオの感想・レビュー

過去回想による伏線回収。主人公と父親の別離、稟と雫の関係、吹の存在が語られる。
「因果交流」がテーマとなっており、主人公が人々との想いを繋げたことが示唆されている。
父親が最後に残した作品は主人公が雫を救う金を捻出するために描いた贋作。
稟は絵画による感情の具現化能力があり死んだ母親を復活させようとしていた。
雫は夢を呑む込む巫女「伯奇」の末裔であり、稟の母親復活願望を防ぐ。
吹は稟の母親像であり、稟の願いが莫大であったため、雫が呑み込んだ後も具現化した。

伏線回収過去ばなし

  • 主人公くんと父親の別離
    • 主人公くんの地元では鎌倉時代より巫女の能力を利用して中村家が勢力を握っていた。しかし戦後の混乱期に物資輸送を掌握した夏目家が成長し、ゴロツキやヤクザをまとめ上げて台頭してきた。新旧二大勢力は武力抗争に発展し、激戦の末に痛み分けとなったのである。その際主人公くんの父親は中村家によって虐げられた女たちを救うために奔走する。中村家は巫女「伯奇」の血を薄めないため、妾に子どもを生ませ近親交配を繰り返させていたのである。その妾たちの子どもを住まわせるための屋敷が「埋木舎」であり、これが夏目家の屋敷となって買い取られたのである。多くの子どもたちはそれなりの値段で解放されたのだが、雫だけは伯奇の能力を有していたため、15億もの賠償金を要求される。以後主人公くんの父はその金を捻出するため雫を連れて渡米し、ニューヨークで金を稼ぐことになった。しかし目標の額に満たないまま、父には死が訪れる。死期を悟った父は雫を連れて帰国し、主人公くんに託すのであった。主人公くんは父のため雫のためと贋作を作ることを決意する。父親が母親の死を悼んで描いた「横たわる桜」。実はこれが連作であったという設定にし、「九相図」をモチーフにシリーズ物の贋作を描く作戦を練る。「九相図」とは「人が死んで腐敗していく様を描いた」ものであり「屋外にうち捨てられた死体が朽ちていく経過を九段階に分けて描いた仏教絵画」と説明されている。主人公くんは画商フリッドマン、美術部部長明石の協力を得て、複数の絵画を仕上げるのであった。これが冒頭の遺産放棄の描写と、明石による教会壁画の完成の伏線回収となっている。雫のために死力を尽くして描いた主人公くんの作品が父に認められ、銘が入れられていくシーンは皆さんが手に汗握ったのではないだろうか?死期を迎えた父のために主人公くんが捧げた墓碑。別離を迎える二人の交流は是非読んで欲しいものである。こうして主人公の贋作は見事高値で買い取られ、父が溜めていた金と合わせて完全に雫を解放することに成功したのであった。


  • 稟と雫の関係
    • 稟は主人公くんの幼なじみであるが、主人公くんには秘密裏に父親の弟子となっていた。なぜ秘されていたかというと、稟は絵画において天才的な能力を有していたからである。その能力はイメージの具現化。稟は自分の中に神を有しており、その内面の表象を現実世界に描き出すことが出来たのである。偶然そのことを知った主人公くんの父は、稟を放置していてはマズイと直感し育てることにしたのである。稟に必要だったのは、絵画は第三者に鑑賞されるものであるということを教えることだった。ここで主人公の父は凛と雫を引き合わせる。この時の雫は巫女「伯奇」の能力を色濃く引き継いでいたため、感情が欠落しフラットな人間だったのである。主人公の父は稟に雫を感動させるような絵を描くことを課題として与え、二人の交流が始まっていく。稟と雫は絵画の鑑賞を通じて仲良くなっていくのだが、ここで起こったのが稟の悲劇。稟√で語られた火災による母親の死であった。それ以来稟は人形を母に見立てるようになるのだが、自分の能力を持って千年桜を具現化し、死者の復活を試みようとしていたのである。この幼少期稟における千年桜の具現化が、里奈√において主人公くんが過去に千年桜を見た伏線の回収。結局、稟の野望は雫によって防がれることになる。雫の異能は悪夢を呑む込み「伯奇」としての能力。稟が願う母親を蘇らせる夢を呑み込んで浄化するのであった。こうして稟は記憶と共に天才的絵画能力を忘却したのである。一方、雫は「伯奇」としての能力を発動させたために中村家に追われることになり、主人公くんの父と共に渡米することになったのであった。

  • 吹の存在について
    • 稟√でも触れられたが、吹は稟の母親の死霊。しかし当初は雫しかその存在を認識できなかった。稟の死者の再生の夢を呑み込んだ雫であったが、その夢は膨大であったので、吹が具現化してしまった。主人公の父は認識できないものの、その存在に気づき、雫と吹を大切にするようになる。帰国の際にも当然吹は付いてくるが、稟が帰郷するとその影響力が強すぎ記憶リセット状態になる。吹の存在を認識たらしめているのが「千年桜の伝承」。主人公くんは雫経由で手にした稟のアルバムに挟まれていたかつての千年桜の花びらを稟の旧屋敷跡地に撒いたことから吹の存在を認識できるようになった。また吹の存在は教会壁画が千年桜をモチーフにしていたことから周囲に認識されるようになった。故に、教会壁画の話題が落ち着いてくれば、吹の存在はまた認識できなくなってしまう。そして雫が主人公くんと結ばれ「伯奇」としての能力を喪失し始めたため、雫にすら認識できなくなってしまう。そのため吹は、二人から綺麗さっぱり忘れられることを望むのであるが、主人公くんも雫も絆なめんなパワーを発動する。主人公くんは吹の存在が忘れられぬようにと再び筆をとる覚悟を示す。千年桜が人々から忘れられない限り吹の認識は残るのだとエンドを迎えます。

 

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