そして初恋が妹になる「田中√」の感想・レビュー

左派啓蒙シナリオ。赤までではなくともピンク的。個人は社会を変えられるか?というテーマを扱う。
田中先輩が取る社会変革の手段は、空想的社会主義チックであり、慈善による利潤追求の打破を目指す。
結果だけ見れば資本家の奴隷なわけだが、現場における高い労働意識が経済発展を支えているんだ。
最後は経営難の孤児院を守る為、主人公くんが経営を引き受けるというご都合主義エンドで終わる。

雑感


  • 資本主義社会に対する個人的反乱
    • 田中先輩は超バイト戦士。仕事に対して熱心であり滅私奉公・全力全開で取り組みます。しかし正社員ならまだしもバイトなど使い捨て。残業代も見込めず考課表の評価なども関係ないのに、どうして田中先輩は身をすり減らすほど熱心にバイトに打ち込むのでしょうか?(主人公くんは何事もほどほどにしておかないと身体を壊してしまい長く続かないと主張します)。それは田中先輩が、熱心に働くことを資本主義社会への反逆と捉えているからでした。つまりは賃金のためだけに労働するなんてナンセンスだと言うのです。自己満足かもしれないけれども「良い仕事をしたい」というQOL(生活の質)のために熱心に働くのです。田中先輩の根底にあるのは、自分が社会の善意の世話になったことでした。生活の困窮に耐え兼ね一家離散してしまった田中家において先輩は施設でたいそうよくしてもらったとのこと。そのため一銭のカネにもならないけれども、「カネにならない部分」を維持するために、全力全開で何事にも取り組むのだと述べます。労働者サイドの意識が低く、首になってもバイト先が潰れても次のバイトを探せばいいやという態度を全労働者が取ってしまえば、結局は雇用先がなくなってしまい、労働者も仕事を喪失してしまうのです。つまりはどんな労働においても等価交換以上に労働力を提供する必要があり、それを「搾取」と取るか「貢献」と取るかという差なのですね。



  • 福祉施設を守れ物語
    • 田中√のメインは経営難に陥った福祉施設を守ること。ある時主人公くんは田中先輩に連れられて孤児院を訪れるのですが、そこには自分と同じように親から虐待を受けた子供たちが数多く暮らしていました。そんな子供たちと接するうちに主人公くんの根底にあった親から捨てられたというトラウマが解消されていきます。母親から虐待を受けた傷が根強くで「結局は誰からも愛されない」と思っていた主人公くんでしたが、孤児たちから慕われることで、無垢な愛情を受け入れることができたのでした。こうして主人公くんは田中先輩に感化され、資本主義の奴隷にはならず、「賃金以外の部分」を大切にしていくことになります。そんな中生じたのが、福祉施設取り潰し問題であり、この施設を潰させないため、主人公くんたちは行動に出ます。具体的には行政への陳情。署名活動を行い世論を動かそうとするのですが、結局はご都合主義展開。土地と建物を接収しようとする地元ヤクザは主人公くんの親友の父親であり、その人物に主人公くんは気に入られるのです。自分が福祉施設を経営して財政を健全化し利益を出して見せると豪語するのでした。こうして接収は中止となり、主人公くんは福祉施設経営の道へと足を踏み入れるエンドを迎えます。