千恋*万花 体験版(HD)の感想・レビュー

周辺地域から排斥される田舎の村落共同体でモノノケ退治をする和ゴス風伝奇系バトルモノ。
最初は冷淡なメインヒロインの心情変化や細かな髪形立ち絵チェンジでコミカルな楽しみがある。
友情・努力・勝利!!共同体や女のためにへたれ主人公くんが立ち上がり鍛錬をする展開パターンは結構好き。
物語の根幹をなす伝奇設定がきちんと練られるかどうかで面白さが変わってきそう。
フローチャートもあるので各ヒロインの√をグランドエンドでどのようにシナリオを統合できるかがカギ。
体験版では3章のはじめ部分までプレイをすることができる。個人的には付喪神ババアのムラサメちゃんが良いと思う。

伝奇設定〜排斥される共同体・呪詛の怨念・選民思想付喪神刀剣〜

  • 排斥共同体の原理
    • 舞台は田舎で周辺地域から排斥されている村落共同体です。その理由は土地が呪詛の怨念を受けており災害が頻発するからでした。村の伝承を辿っていくと問題には「戦国時代における家督相続抗争」が背景にありました。典型的な兄弟モノプロットで「放埓な兄と優秀な弟」を元型としています。家督を弟が継ぎそうになると兄は敵対する隣国に踊らされて裏切り侵攻を重ねます。最終的に兄は討伐されるのですが、その際家系の血筋及び村落共同体に呪いをかけたとのことです。ゆえにメインヒロインの朝武家は早逝の女一子のみしか生まれなくなり、村落共同体の呪いを祓う宿命を義務付けられたのです。そのためメインヒロインは村落共同体で神聖視されることになり、幼少期から期待と重圧を背負いながら、一生懸命頑張ってきたのでした。


  • 異邦人の帰郷
    • そこへノコノコとやってきたのが我らが主人公くん。村落共同体の血筋を引き数年前まで現地で暮らしていたものの、母親と一緒に共同体の外部へ出ていたため、数年ぶりに帰郷したという設定です。周辺地域からは呪詛の地とみなされ嫌厭されている村落共同体でしたが、近年のユビキタス社会の影響により歴史的景観や温泉の湯治などが外国人観光客のSNSにおける口コミやステマで話題となり、観光産業が発展していたのでした。その観光の一つが神社の御神体である妖刀ムラサメイベント。聖剣伝説エクスカリバーよろしく「絶対に抜けない刀剣を引き抜こう大会」が行われていたのです。主人公補正によりあっさりとムラサメを折ってしまった主人公くんは付喪神ムラサメちゃんの主となってしまいます(折れた刀はムラサメちゃんの力であっさりと復活・ムラサメちゃんは人身御供になった設定もあるよ!)。こうして退魔の力を持った主人公くんはメインヒロインの許婚に任じられるのですが、ものすごい勢いで拒絶されることになります。

メインヒロインの心情変化がみどころ

  • (1)義務感に縛られる少女
    • これまで努力を重ねてきたメインヒロインにとって、ポッと出でへたれの主人公くんは、存在すら許せるはずがありませんでした。何をなすにつけても気に食わないことこのうえありません。そのため物語の最初の方では、かなり冷淡に接せられることになります。何とかして歩み寄ろうとする主人公くんですが、つっけんどんなメインヒロインの態度に心が折れそうになります。そんな折り、主人公くんを許婚に任じたメインヒロインのパパンから、親心を聞かされます。パパンは入り婿であり妻は呪詛により早逝。土地浄化の義務はメインヒロインの重責となってしまったとのこと。そのため心の底から人生を楽しんだのは幼少期くらいであり、それ以来は対等な友達もおらず、ただ粛々と強いられて敷かれた人生を歩むのみだったというわけです。そんな娘を不憫に思ったパパンは外部からきた主人公くんなら共同体内部の封建的な考えに縛られず接してくれると考え、許婚に任じたそうな(マレビト信仰)。


  • (2)主人公くんはクズムシ扱いされます
    • 最初のモノノケ退治の任務を終えた主人公くんは己の力の無さを実感。都会に出てから竹刀を握らず鍛錬を怠ったことを後悔するのです。主人公くんはヘタレな自分を「幼少期に育った故郷を守りたいという郷土愛」と「土地のために人生賭けて頑張ってる少女の力になりたいう想い」により奮い立たせます。こうして修行回鍛錬パートが始まり、祖父から稽古をつけてもらうことになったのです。朝は体力作り・放課後は剣道、と地道な作業をコツコツと繰り返し妖怪退治に備える主人公くん。しかし事情を知らないメインヒロインは主人公くんが朝食に遅れるのは寝坊をしているからであり、寝坊するのは放課後に遊びまわっているからだと思い込んでしまうのです。さらに主人公くんが授業中に居眠りをしてしまうと、メインヒロインは主人公くんのことをゴミムシを見るかのようになります。


  • (3)掌返しはあっさりと
    • このままツンツン状態が終局部まで続きツン8デレ2でいっても面白かったでしょうが、プレイヤがヒロインのことを見限ってしまわないような配慮が取られたのでしょう。メインヒロインはあっさり「DO☆GE☆ZA」。その事情は以下の通り。主人公くんのことを訝しむメインヒロインに対して御付きの忍者がアドバイス→主人公くんが鍛錬をしている様子を垣間見ることになります。主人公くんを遊び呆けているクズと決めつけていたメインヒロインには動揺が広がり、なおかつ二回目の妖魔退治の時に主人公くんの鍛錬の成果に直面することになるのです。忍者はメインヒロインに主人公くんが如何にして修行をするようになったか、その心情変化を解説しヨイショしてくれます。こうしてメインヒロインは自分が重責により周囲と壁を作ることでしか自我を保つことができず、それゆえに主人公くんのことをクズと決めつけることしかできなかった自分に気づくことになったのでした。以上によりメインヒロインは土下座を敢行。償いを求めるメインヒロインに対して、主人公くんは自分のことを排斥するのではなく認めてほしいと交友関係の構築を試みます。こうしてメインヒロインには初めて対等な関係の同年代のトモダチができたのです。主人公くんとメインヒロインは手を取り合い、村落共同体とメインヒロインの血統に課せられた呪いを解くため、退魔バトルを繰り広げながら、呪詛の怨念の根本的な解決に挑んでいくことになります。