千恋*万花「レナ=リヒテナウアー√(実質グランドエンド)」の感想・レビュー

夢見を通して過去の深淵に触れ「神と人の恋情慕情」を題材に伝奇パートの伏線を回収するはなし。
フィンランド地誌ネタや異文化との対比による日本の伝統の相対化などテキストgood!
またシナリオの構造も主人公くんとレナの恋情を描きつつ土地神の伝奇描写を巧みに組み込んでいます。
テーマ的にもキャラクター的にもレナ√がグランドエンドと言っても過言ではないでしょう。
レナ√はムラサメちゃん√と並んでシナリオ・テキストが良く、芳乃√と茉子√の失速を挽回できていたのではないかと思います。
茉子√はレナ√と犬神の題材が被ってしまい、レナ√で実質的な解決となるので、茉子√は構造的にはほぼ無意味に……
茉子が朝武(兄)の末裔であることを活かすなら、茉子√では家督相続争い編をやるべきだったかと。

レナ=リヒテナウアーのキャラクター表現とフラグ生成過程


  • レナの人物像の掘り下げ編
    • レナは日独の血を引くフィンランド人。非常に親日な家庭で育ち、一族から常々聞かされていた物語の舞台の地へとやってきます。明るく元気で前向きなレナでしたが、実は初めて訪れる異国に緊張しており不安をもまた感じていました。そんなレナでしたが、初めて日本で親しい仲となった主人公くんが、アレコレと良くしてくれたため、スムーズに日本に溶け込めたのです。以来、折に触れ主人公くんの優しさに触れたレナは好感度マックスとなり、主人公くんにゾッコンとなっていったのです(日常パートにおけるフィンランド地誌ネタと日本文化の相対化ネタはとても好き)。しかし主人公くんは呪詛のこともあるためレナは母国に戻った方が良いのではないかと思うようになり、関係を深めることに躊躇してしまうのでした。しかしそんな主人公くんに対して肉食系レナさんは積極的にアプローチを開始します。それを受けた主人公くんは自分がレナに踏む込もうとせず、相手の事を何も知らないことに気付くのでした。そんなわけでレナの人物像掘り下げタイムが始まります。
    • 祖先編
      • レナの母方の祖先は明治時代に鉄道敷設のために招聘されたお雇い外国人(ドイツ)の娘。父方の祖先は郷土愛に燃える男(日本人)であり、周辺地域から忌避される疎外された土地にインフラ整備を行おうと鉄道誘致に躍起になっていたのです。明治時代においても犬神と朝武家の攻防は続いており、これに巻き込まれた娘を男が助けためフラグ成立(この時「玉の欠片」を入手し、のちにリヒテナウアー家の家宝となります)。鉄道計画は頓挫したものの、この娘と男は結ばれて日独の血を引く子供が生まれます。さらに北欧へと渡ったため、フィンランド系リヒテナウアー家が爆誕したのでした。
    • 祖父・両親編
      • レナはホームシックの感情を刺激され家族に対する一抹の寂しさを感じます。「家族は一つであるもの」という感情を刺激されたのです。それはバラバラになった「玉の欠片」が一つになりたいと望んだため、レナに対して「一つの家族像」を想起させることになったのでした。ではレナの家族問題とはいったいどのようなものだったのでしょうか。それは北欧では一つの企業に長くとどまることはなく実績を積んだら次のステージへとステップアップするという労働観を原因とするものでした。レナの両親はお互いの仕事のためにはお互いを束縛しないようにと、結婚して仲が良くても、普段は別居というスタイルをとっていたのです。そのためレナは祖父に育てられました。主人公くんはその結婚観に対して色々と思うのですが、レナはインターネット技術を駆使して、離れていても繋がっていることを証明して見せるのです。対人通信ソフトを使って、祖父・父・母と同時交流を行い、主人公くんのことをご紹介。さらにフィンランド名物のオーロラを鑑賞します。こうして一つの家に棲まわなくとも家族なんだと絆を示したのでした。

伝奇パート回収編(真)

レナ√では「玉の欠片」を取り込んだレナが主人公くんと共に夢の中で過去を追体験しながら伝奇パートの謎を解明していきます。伝奇パートを時系列順に体系化すると以下の通り。(茉子√で伝奇パートをミスリードしてしまいお恥ずかしい限り)


  • 武士団の形成編(神と人との恋情慕情)
    • 時は平安末期〜鎌倉時代前後。地方有力農民が自らの土地を守る為、武装化していった時代。一人の田舎武士が山中で武技を磨くことに励んでいました。その様子をいつも見守っていたのが土地神姉弟の姉である「玉神;叢雲」。ここでようやく他ヒロイン√では姿を現さなかった犬神の姉君さまが参戦です。「玉神」は男の実直さに触れるたびに惚れていきました。そしてついに田舎武士の男にも召集がかかった際、「玉神」は自分の身を削って刀を授けるのでした。この刀は「玉神」の真名「叢雲」にちなんで「叢雨」と名付けられます(のちの「叢雨丸」の母体)。こうして宝刀「叢雨」のおかげで田舎武士の男はメキメキと名を挙げ、ついには有力者の娘の縁談を持ちかけられるまでになります。しかし男は「玉神」を好いていたため、「玉神」に気持ちを伝えるのですが、「玉神」は男のことを考え自らの気持ちを封印すると関係を断つのでした。振られた男は縁談を受けることになり子供をもうけます(朝武家の成立)。玉神は男の事をいつまでも見守っており、男の子どもが流産してしまう危機には、禁忌に反してまで子どもを救います。当然、「玉神」の行為は罰を受けることになり、文字通りただの「玉」とさせられてしまったのです。シスコンである「犬神」は姉である「玉神」の行為を諫めようとしたのですが「玉神」は「人を好きになれば分かる」と言ってとりあおうとはしませんでした(茉子√のテーマ)。そして「玉神」は「犬神」に朝武家を守護するように遺言を残すのでした。


  • 戦国編(朝武家家督相続争い)
    • 「犬神」は遺言に従い「玉」となった姉を奉じつつ朝武家を守ってきました。しかし、ここで朝武家のお家騒動が勃発します。家督を継いだ朝武(弟)に対して朝武(兄)が反旗を翻すのですね。朝武(兄)は守護神であった「犬神」を殺害してイケニエとし、「玉」を砕いて呪いをかけます。こうして朝武(兄)の呪詛と犬神の怨念の二種が混じり合い、朝武家の血族と地域共同体そのものが蝕まれることになったのです。
  • 人身御供編(詳細はムラサメちゃん√で) 
    • 朝武(兄)の呪詛と犬神の怨念により穢れた土地でも人々は生きていくしかありません。そんな中、呪いを鎮めるためのイケニエとなったのがムラサメちゃんでした。ムラサメちゃんは当時としては不治の病(肺炎及び合併症)を患っており、自ら共同体のために命を捧げることを望みます。こうしてムラサメちゃんの自己犠牲により、朝武家祖先が「玉神;叢雲」から授かった「叢雨」を母体として「叢雨丸」が作られたのでした。ムラサメちゃんは「叢雨丸」の管理者となり、朝武家の奉納の舞と共に呪詛に対抗するための装置となったのでした。


  • 現世編(グランドエンド)
    • 夢の中でこれまでのいきさつを知ったレナと主人公くんは犬神の呪縛を解決しようと試みます。犬神は人を守るのにも呪うのにも疲れきっていました。人間は愚かにも辛いときには神に縋るものの、喉元過ぎれば熱さを忘れる。時が経てば神への感謝など忘れてしまうと嘆くのです。これに対し、レナは犬神への感謝を示し、怨念をもたらすことになった悔恨を理解して手厚く祀ることを約束するのです。巫女ヒロイン芳乃は朝武家に課せられた呪いが裏を返せば朝武家を守るものでもあったことを知り涙し、忍者ヒロイン茉子は朝武(兄)の忌まわしき末裔であったことにも意味があったことにも気づかされまた涙します。こうして呪詛から逃れるために行われていた祭祀は、玉神と犬神への感謝を子孫に伝える祭礼へとカタチを変えることになりました。こうして全ての問題を解決し、実質的なグランドエンドを迎えます。