水葬銀貨のイストリア体験版の感想・レビュー

恩人の幼馴染の父親を殺してしまった主人公くんが贖罪のためにカジノで奮戦する話。
物語の冒頭の主人公くん像は気弱で学園生活に馴染めないアウトサイダーとして描かれる。
しかしそれは仮の姿であり裏社会ではドラッグ決めて辣腕を振るい賭博でカネを巻き上げる。
学校では評価されない項目ですから(キリッ)な俺TUEEE系。しかし基本シナリオは悲劇。
主人公くんは、資産家でもある令嬢の子飼いでもあり、愉悦のために懊悩を強いられるのだ。
煩悶に苦しむ主人公くん像もステキであり、それを救うファンタジー展開も用意されている。

物語の原動力となる主人公くんの懊悩や煩悶がたいへん素晴らしいと思う

  • 幼馴染に対する贖罪について
    • 主人公くんは学園生活に馴染めず苦悩するぼっち属性。学校クエストをソロプレイで送る労苦が巧みに表現されています。俺つば第1章のような灰色学園生活を描き出す作品カナーとも思って読んでいたのですが、実は俺TUEEE系。物語の序盤ではトランプバトル神経衰弱を通して、はぐれ学生である主人公くんが、実は凄腕の賭博師であることが紹介されます。俺TUEEE系の様式美でもある「学校では評価されない項目ですけどね」が発動します。
    • 主人公くんが学校生活で周囲に馴染めないのには理由があり、自罰意識が大きく働いていたのです。(1)実父:茅ヶ崎征士が幼馴染:煤ヶ谷小夜を誘拐した犯罪者であること(そのため周囲からドブネズミと呼ばれており疎外されている)、(2)家族として受け入れてくれた小夜の父;煤ヶ谷宗名から賭博でカネを巻き上げて借金漬けにしたこと、そして(3)最終的に主人公くんの手で煤ヶ谷宗名を殺したことなどが挙げられます。
    • 幼馴染の小夜は幼少期に病に侵されており、父:宗名は治療費のために賭博に手を出していました。小夜の病は治ったのですが、代償として父親は死に、莫大な借金が残ったのです。この借金を肩代わりしてくれたのが主人公くんのパトロンでもある資産家の八椚紅葉さん。こうして小夜は紅葉さんに借金を返済するためカジノのディーラーとして働くことになったのでした(最初は泡にでも沈められたのかと邪推してしまいました)。小夜は主人公くんに好感度マックスなのですが、真相を知りません。【自分の父から金を巻き上げた人物】=【実は主人公くんが賭博をする際の変装した姿】であることなど知る由もなく憎しみに染まっています。ゆえに主人公くんは罪の意識に苛まされながらも、せめてもの贖罪として小夜の借金を返済しようと試みていたのです。そして借金を完済して小夜を軛から解き放ったあかつきには全てを話して去るつもりでいたのです。
    • しかし主人公くんのパトロンである紅葉さんは、そう簡単には主人公くんを解放してくれたりはしません。紅葉さんは人間の悲劇や煩悶、懊悩、苦悩などを見ることに愉悦を見出すタイプの権力者でした。それゆえ、紅葉さんお気に入りである主人公くんが苦しむ姿を寵愛しているのであり、様々な無理難題を画策しているのです。主人公くんは果たして小夜を解放できるのでしょうか・・・という当面の物語の目的が提示され、体験版はお開きになります。


  • ファンタジー要素
    • 体験版の時点では小夜ゲーの印象が強いのですが、小夜と対照的に描かれるヒロインがツンドラヒロイン汐入玖々里の存在です。彼女はファンタジーパートを牽引する役割を担っています。物語の舞台には人魚伝説という背景が設定されています。その概要は以下の通り。人魚の涙はあらゆる病気を治すものであった→人魚も当初は善意で涙を提供していた→しかし人魚の涙は人魚自身の命を削っているものだと判明→人魚は余命幾ばくもない状態に陥ると涙の提供を拒むようになる→人間はそれでも涙を要求→悲劇→それ以来人魚以外は涙を流せなくなる(分かりやすいチャート方式)。なんと玖々里は地域唯一の医療施設久末家で意図的に生み出された人造人魚だったのです。そのため玖々里の涙は傷を癒す効果があったのですね。
    • 玖々里は紅葉さんによって主人公くんを苦しませる装置として引き合わさせられます。ポリバケツに嵌っている玖々里の姿をご堪能ください。主人公くんに助けを求める玖々里を一度は匿うのですが、それを見計らったかのように引き渡しを要求してくる紅葉さん。全ては主人公くんの煩悶を見て喜ぶための紅葉さんの茶番なのですが、小夜を救うことを第一義としている主人公くんが断腸の思いで玖々里を捨てる過程はついシナリオに引き込まれてしまいました。
    • 主人公くんは小夜に対して自罰の念でいっぱいであり、学校生活には馴染めず、飼い主からは無理難題を要求され、借金返済のための賭博に臨むときにはドラッグ決めていく。そのため反動は大きく、精神的にも肉体的にもボロボロとなっていたのです。そんな主人公くんの支えとしてファンタジー要素が挿入されており、玖々里による人魚の涙により主人公くんが癒されるシーンが伏線となっています。

メインヒロイン小夜

黒幕ヒロイン紅葉