水葬銀貨のイストリア「EPISODE04〜06」の感想・レビュー

不幸な境遇を共有した借金漬けのヒロインを主人公くんが賭博で救わんとするはなし。
主人公くんがイイ感じに歪んでいてとても面白い。あとヒロインの対比がみどころ。
物語の軸となるのは2本であり「人魚の涙伝承」と「主人公くんたちの凄惨な過去」。
前者のファンタジー物語のヒロインが汐入玖々里で自己の命を削って治癒の涙を流す。
後者のワケアリ過去話のヒロインが煤ヶ谷小夜であり、彼女の解放がシナリオの原動力。
で、サブヒロインたちのエピソードを通して伏線が回収されつつ物語が進んでいく。
そして必ずツッコミを入れなければならないのがスタッフはデバックしたんかいな!?

各エピソードメモ



  • EPISODE 04「Under the darkness
    • 主に進藤和奏の花火師の話を通して、小不動ゆるぎ・神峯灯・久末紫子の伏線が張られていきます。
    • 主軸の展開としては、病気で生きる気力を無くした和奏の祖父を励ますといった内容です。和奏の祖父は花火職人として仕事に打ち込んできたため、生き甲斐を亡くして自らの人生を悔いるようになります。今までプライドを持っていられたのは仕事があったからであり、仕事が無くなったら自分には何も残っていなかったと後悔するのです。「定年退職あるある」と同傾向が感じられますね。そんな和奏祖父は自分の孫が花火師に憧れているのを知り、反対します。辛く厳しい職人紙業を乗り越えたとしても、最終的には何も残らないのであると。そんな祖父に対して和奏の本気を教えてあげるのは主人公くんの役目。本人の意志は確固たるものであり主体的な意志決定の結果なのだと。たとえ、これからの人生で苦難の道を歩むことになるのだとしても、そこを歩ませろとと説くのです。そして花火タイム。和奏祖父は、和奏に固い意志を持たせるほど、自分の花火が心を揺り動かしたのだと知り、自分の人生は無駄ではなかったと悟り、否定してきた自分の人生を肯定できたのでした。
    • 以上が主軸となる話でしたが、シナリオの背景の部分でストーリーが進行しています。小不動ゆるぎが衛宮士郎ばりに正義のヒーローたろうとしている危うさとか、拉致監禁されていた主人公くんたちを救出してくれた灯さんとか、かつて主人公くんを子飼いにしていた主である久末紫子と灯さんの確執とか。そんな伏線が張られていきます。



  • EPISODE 05「Kill you」
    • 主人公くんが拉致監禁されていた時の話の回収及び、井土ヶ谷祈吏の性的マイノリティのはなし。
    • 井土ヶ谷祈吏は家父長制のような封建遺制が色濃く残る家系に生まれたため女児ながら男子として育成されました。その時、祈吏は自分が男だと思って育つのですが、祖母の死により封建遺制から解放されることになります。しかしもう既に自我が芽生えていた祈吏は、自分の複雑な性認識を受け入れることができなかったのです。男子として育った祈吏は小夜にべた惚れだったのですね。
    • その一方で小夜たちは拉致監禁にあいます。拉致監禁したのは主人公くんたちの父親である茅ヶ崎征士。彼は疑似家族という二重監禁を強います。つまりは主人公くんを監獄主とし、主人公くんの妹であるはずの夕桜をペット、小夜をイモウト(お人形さん)に見立てて牢屋にぶち込んだのです。もし夕桜や小夜が役割以外のしぐさをしてしまうと、見せしめに主人公くんが虐げられます。また食事は餌に見立てられ、夕桜は犬食いを強いられ、小夜は主人公くんから手掴みで与えられなければならなかったのです。こうした歪んだ拉致監禁事件の結果、小夜は主人公くんに対する愛情を植え付けられたのです。ゆえに主人公くんは小夜の愛情を歪んだものと知っているからこそ、それに応えることは絶対に出来ないのです(ここのテーマが『運命予報をお知らせします』と類似していますね)。
    • 時は流れ、拉致監禁事件の解放後、祈吏は小夜たちと再会します。祈吏は自分がもう既に男であることを諦め、女性として生きていました。それでも小夜は祈吏を性による区別ではなく個人として見てくれました。これにより祈吏は小夜に対する愛情を一層深めるのです(百合展開)。しかし、かつて祈吏が占めていた夜の隣というポジションには主人公くんがいました。そしてまた祈吏は主人公くんに対して尊崇の念を抱いているのです(複雑)。けれども主人公くんは上述の理由から小夜の好意に答えようともしないため、祈吏はアンビバレンツになってしまうのです(二律背反)。
    • 主人公くんは自分の手で借金漬けの小夜を救いたいと願っているのですが、それは単なるエゴであることに苦しめられるのです。そんな主人公くんを救済するのが、もう一人のメインヒロインである玖々里なわけで、弱っている主人公くんを肯定する大天使の様子が見られます。



  • EPISODE 06「Peper tiger
    • 拉致監禁事件、いわゆる「鳥籠事件」の詳細に関する話。次に小夜を救うための3つの障害。そして最後に飼い主である紅葉に掌で転がされ続ける主人公くんについて。
    • 第5章で拉致監禁事件の概要は知らされていましたが、第6章ではその詳細が語られます。「親によって牢獄に監禁」というと『スキマ桜』展開が思いこされますね。そんなわけで心が破壊されていく主人公くん・小夜・夕桜の様子をご覧ください。「お人形さん」として手錠足枷をつけられ「イモウト」の役割を与えられた小夜、「ペット」として言葉を発することを禁じられ四つ足で歩かされる夕桜、そしてことあるごとに父親に殴られる主人公くん。食料も充分ではなく地下牢に押し込まれた監禁生活は2年にも及びました。
    • そしてついにその時が訪れます。主人公くんと夕桜の母親が心労によって死んだとの告げられるのです。これを契機についに夕桜はブチ切れ、主人公くんも蜂起を試みます。しかし結局は子どもが大人に勝てるはずもなく・・・といったところで、神峯灯さんがヒーローのように参上し、主人公くんたちを救い出してくれたのでした。
    • このため主人公くんは灯さんに恩義があるのですが、主人公くんの飼い主;紅葉はその恩義を利用して灯をけしかけてくるのです。主人公くんは小夜の借金をもう少しで返済できるところまで来ていました。しかし紅葉が主人公くんを解放するはずがありません。主人公くんがある程度カネを貯めると、そのカネを巻き上げにくるのですね。作中ではこれが賽の河原に例えられています。灯さんを崇拝する主人公くんは甘さを見せ、勝手に期待を寄せてしまいます。なんと演技にまんまと騙され、灯さんが自分たちを解放するためわざと負けてくれると思い込んでしまうのです。哀れ主人公くんは持ち金を無くす嵌めに。
    • 打ちひしがれる主人公くんが描写される一方で、いよいよ主人公くんの父親:征士が牙を剥き、これがファンタジーパートと繋がるのです。小夜の母は玖々里と同じく涙により癒しの力を持つ人魚でした。ゆえに、小夜も人魚であろうと確信する征士は、その能力の覚醒を促すために襲い掛かってくるのです。