湯山英子「北海道で語られてきた「満洲」体験」(寺林伸明・劉含発・白木沢旭児編『日中両国からみた「満洲開拓」ー体験・記憶証言ー』御茶の水書房、2014年、pp.113-124)

文献紹介。北海道で発表された体験談を時代ごとに整理したもの。

  • 本稿の趣旨
    • 北海道と満洲との関係を明らかにするうえで、満洲体験がどう北海道で語られてきたのかを整理し、検討する。
    • 北海道は満洲への送出地域でもあり、引揚げ後の受け入れ地域でもあったので、北海道と満洲との関係把握に関して貢献する。

北海道大学卒業生の満洲体験者

  • 先行研究(1)
    • 北海道大学満洲に関しては、長岡新吉、田中愼一らが札幌農学校期の植民学、および北大における満蒙研究の特質を検討した。それを引き継ぐ形で竹野学が北大植民学と満洲移民論に至るまでの系譜を整理し、どのように継承されていったのかを明らかにした。
      • 長岡新吉「北大における満蒙研究」『北大百年史』北海道大学、1982年
      • 田中愼一「植民学の成立」『北大百年史』北海道大学、1982年
      • 竹野学「植民地開拓と北海道の経験」『北大百二十五年史』北海道大学、2003年
    • これらの研究は、植民学と満洲研究、移民論に至るまでの検討はなされているが、技術者あるいは別の形で渡満した卒業生が、どう植民学を現地で実践したかについての検討はなされていない。
  • 先行研究(2)
    • 蝦名賢造が、「満洲国建国当時の北大農学部卒業者の在満者は70〜80人程度と推測される」と述べている(『札幌農学校』図書出版社、1980年、265頁)が、その実態の把握は出来ていない。近年、北海道大学出身者の植民地体験に関する調査が始まったばかりで、渡満までの経緯やその目的の解明は、これからの課題となっている。
  • 新たな文献紹介(内容の詳しい検討はされていない)
    • 横田廉一『私の人生行路』(横田重彦)私家版、1998年
      • 横田廉一の子息、横田重彦らが父親の遺稿となった満洲での生活を綴ったものをまとめたもの。
      • 1912年、滋賀県彦根市生まれ。北大農学部在学中に公主嶺農事試験場で実習し、現地で卒論を書く。1936年に満鉄入社、37年に公主嶺農事試験場、1941年に克山農事試験場に転勤、その後に南満州工業専門学校勤務、終戦後は技術者として留用され、1948年に引揚げ。引揚げ後は、鳥取農業専門学校、鳥取大学を経て1959年に北大農学部に勤務し、1976年に退官した。1994年に死去。退官前に『満洲農業地理』を出版。
    • 須田政美『辺境農業の記録』(須田洵)、2008年
      • 『辺境農業の記録』(北海道農山漁村文化協会、1958年)から樺太満洲の部分を抜き出し部分復刻版として自費出版したもの。
      • 1914年生まれ。1934年に北大農学部を卒業し、樺太で移民指導員、1938年に満洲拓殖公社経営部に勤務し、北満日本人開拓移民の経営指導に当たる。終戦後は、岩手、青森県の農業研究部門で働き、1951年から北海道庁農地開拓部、農務部において開拓、農政の仕事に従事した。1990年死去。