グリザイア:ファントムトリガー(Volume5)の感想・レビュー

本文中の言葉を借りれば「ニンジャだって恋がしたい」というお話。
兄弟姉妹間のコンプレックスがテーマで劣等意識の強いニンジャが主従関係により自己受容願望を満たそうとする。
個人的に良かったのが、自己を無理やり変えるのではなく、自分にあった生き方を見つけろという説教。
グリザイアシリーズは説教ゲー風味が強いが、それがまたこの作品の魅力となっているのも過言ではない。
最終的に安易に死を選ぶのは責任を放棄しているとのことで、自分にできる精一杯をやろうという境地に至る。

狗駒邑裂(イゴマ=ムラサキ)のキャラクター表現とフラグ生成過程


  • 姉妹間のコンプレックスと自己の存在意義の喪失
    • ファントムトリガー分割商法第5弾のヒロインはロシアンニンジャのムラサキちん。ファントムトリガーシリーズはヒロイン1人につき、新キャラが登場し、その人物を巡って発生した事件を解決するというのがシナリオのパターンですが、今回はムラサキの姉がやってきます。ムラサキは有能な姉に対して幼い頃より劣等意識を抱いており、姉が周囲に馴染んでいく様を見せつけられ、自分の存在意義について悩んでしまうのです。アイデンティティクライシス。姉がいるんだったら自分なんて必要ないのでは!?そんな感情に駆られたムラサキは過去を想起し、かつてハルトさんに自分を肯定してもらえた記憶を呼び覚まします。レナ達ヒロインズにはハルトさんの口から、先生に対してはムラサキの口から、凄惨な過去を語るという形式で物語が綴られていきます。
    • 過去編の概要は以下の通り。ハルトさんは銃火器の取り扱いが上手くなく、近接戦の方が得意だったのですが、刀の取り扱いについては未だ不十分でした。そのため師匠に認めてもらうために、ニンジャの里に修行に行くという展開です。そのニンジャの里で秘伝を教わるまで居座り、ムラサキと仲良くなるという寸法さ。しかし、ニンジャの里ではかつて安易に秘伝を得ようとした男がおり、ハルトさんが教えを受けるには難しい様子。そんななか、上述の過去に秘伝を得ようとした当該人物が復讐にやってきて村人たちを斬殺、という流れです。
    • 戦闘描写に関してはとてもアッサリとしており拍子抜けしてしまうかもしれません。ニンジャの里の村人たちがいとも簡単に全滅するのですが、彼等に対してハルトさんたちはスゲーアッサリ勝っちゃいます。その後、犯人をハルトさんだと思い込むムラサキが秘伝を使ってバーサーカーと化すのですが、これまた風見流スーパー護身術を使ってわけもなくムラサキを倒します。逆恨みくんは噛ませ犬にもほどがあるし、バーサーカームラサキ戦もピンチかなーと思った束の間に一発逆転なので、もう少しきちんと書いて欲しかったのは私だけではないはず。皆さまは如何だったでしょうか?


  • 自分を変える必要もないし、逃げてもいいけど、死んではダメ
    • さて、戦闘描写はそれなりだったのですが、グリザイアシリーズ伝統の「説教」は相変わらずステキ。劣等意識が強く、ぐちゅぐちゅと悩むムラサキが自分を肯定できるようになる流れはお約束でもグッときますね。特に「自分を変える必要はない」「逃げても良いから安易に死ぬな」はおススメポイントとなっております。
    • 「自分を変える必要はない」
      • ムラサキは自分を社会に適応させるために努力をしました。しかし、結局は自分を変えられなかったのです。この無力感、お分かりになられるだろうか。私は共感せずにはいられません。自分がなぜ生きているかすらも分からない、この生きながらにして死んでいる状態は破壊力抜群です。そして、それを救ってくれたのがハルトさんという手法。自分を変えようと努力をしても、変えられなかったのだから仕方がない。だったら、そのままの自分で生きていける方法を見つけよう!と新たな価値観を提示してくれる場面は、死んでいていたムラサキを蘇生するのと同義だったといえるでしょう。こりゃームラサキがハルトさんを主にしたくなるわけがわかるよと。
    • 「逃げても良いから安易に死ぬな」
      • これはグリザイアシリーズを通じて何度も散見される「良い狙撃兵」の思想の焼き直しニンジャver.かもしれません。狙撃兵は戦場から生きて帰ってくることが重要。ニンジャも同じで、負けると分かっている戦いならさっさと逃げる。三十六計逃げるに如かず。(『素ば日々』ではシラノを引用しながら負けると分かっていても戦う心意気を説いていましたがね・・・)。そして、安易に死を選ぶことこそ、責任を放棄することなのだと説教されます。ムラサキは過去を語ることで、自分を支えていたものを取り戻していきます。「自分にできる精一杯」という言葉に対し、「これ以上何ができるのか」とウンザリしていたムラサキ。そんなムラサキが「精一杯できることをやる」の始原的な意味に回帰できた所はハラショーなことこの上ありません。
      • (で、以下超個人的ですごくどうでもいいことなんですが、このムラサキシナリオには、すごく励まされたのですよねー。誠にお恥ずかしい話なのですが、現実世界で過労死しかけた時に、割と深刻に過労自殺しようと思ったものです。その時、結局は死なないで生き恥をさらすことになったのですが、それは自己の尊厳をも失うことにもつながり、過去は呪縛となって現在に追い縋ってくるのです。最近はそのことで割と懊悩しており、オーノーとかなることもあったのですが、ちょうどムラサキちんが似たようなことでグチャグチャになっており、それを見て、結構救われたのです。)