【概要】今年のセンター試験国語(2019年1月19日実施)をざっくりと紹介!

センター国語の内容をざっくりと紹介するコーナーです。きちんとした情報を知りたい人は各種予備校のサイトを見ましょうね。2019年のセ試国語の出典は、評論:沼野充義「翻訳をめぐる七つの非実践的な断章」、小説:上林暁「花の精」、古文:『玉水物語』、漢文『杜詩詳註』でした。

  • 受験国語を説く際の注意:「出題者」の解釈を読み解くこと
    • 毎年書いていますが、受験国語は「文章の書き手のイイタイコト」を読み解くことでは「ない」ので注意してください。受験国語には、文章の書き手・出題者・問題を解く人の3者が存在します。本来ならば書かれたテキストに対し、読み手に応じて複数の解釈が出てくるのが当然です。しかし好き勝手に読んで良いかというとそうではなく、なぜそのように自分は解釈したのかを文章を踏まえて根拠をもって示すことが求められるのです。故に、受験国語の場合、「出題者」がそのテキストをどのように読解したのか、という「出題者の思考回路」を読み解かねばならないのです。言語はコミュニケーションですので、出題された文章を通して、受験生は出題者と対話するのです。
    • よくテレビのバラエティ番組やSNSにテキストの書き手である本人が降臨し、「そのような意図のことを言っていない」と述べて話題になり、受験国語を批判する展開が見られます。しかし、受験国語においてはテキストの書き手の意図など求められていないのです。実質的に、「筆者はどのように考えていますか?」という種類の問題は、読み替えると「筆者がどのように考えていると出題者は解釈していますか?」というのが受験国語なのです。

評論:沼野充義「翻訳をめぐる七つの非実践的な断章」

  • ざっくりとした内容
    • 外国語で書かれた文学作品を自国語で表現する際に生じる認識の差異性について
      • 外国語の原典を翻訳で読むことは、読者と著者の間に翻訳者という第三者が介在することになるので、原著を読むのと同じ体験とは言えない。だが「まったく違った文化的背景の中で、まったく違った言語によって書かれた文学作品を、別の言語に訳して、それがまがりなりにも理解される」ということを翻訳者たちは信じている。
      • 「翻訳不可能」の例として慣用句をあげ、その際に直訳ではなく「言い換え」が行われることを述べている。そして自然な日本語、こなれた日本語にする場合は、逐語訳を行うのではなく「言い換え」が多用されることになる。しかしそれには問題があり、「こなれた訳」が読者には求められているので、原文で非標準的な・変な表現が使われていたとしても、いい日本語に直してしまうという問題がある。
      • この出題文では取り上げられていないが、傍線C「正しいか、正しくないか、ということは、厳密に言えば、そもそも正確な翻訳とは何かという言語哲学の問題に行き着く」ということを、筆者(著者)は議論したいのではないかと思われる。

小説:上林暁「花の精」

  • ざっくりとした内容
    • 園芸による感傷の回復
      • 出題文はAパートとBパートに分かれる。Aパートでは主人公と同居している、寡婦となった妹が家庭菜園を通して精神的に回復していく姿が描かれている。主人公と妹はどちらも鬱々とした日々を過ごしていた。妹は前述した通り寡婦となって途方にくれている。主人公は妻が長期入院中で不在であることに加え、慰めとしていた月見草が庭師に全て抜かれてしまったのだった。そんな中、主人公が花畑を世話するのを見た妹が、家庭菜園を始める。従来、百姓をしていた妹は野菜を作ることが気質にあっていたので、生活に張りがでてイキイキとしてくるのであった。Aパートでは兄妹が園芸で心を慰める描写がグッとくる展開になっている。「小さな庭のなかに、兄が花畠をつくり、妹が菜園をつくるのも、皆それぞれ、遣り場のない思いを、慰め、紛らそうがためにほかならないのだ」。
      • Bパートは主人公の多摩川の川べりでの自然体験の描写が中心となる。川原に月見草が生えているというので、釣り目的の友人と共に出かけていく。そして、そこでの自然体験を通して、主人公は様々な心情変化をしていくのだ。サナトリウムを見て妻のことを思い出す主人公の心中が思わずジーンとくる描写であり、案の定、傍線が引かれて出題ポイントとなっている。そしてやはり後半メインとなるのは月見草イベント。妻の事を想い感傷的になった主人公の眼の前に広がる月見草の群落や帰りのガソリン・カアのヘッドライトに照らされる月見草の原の様子はまざまざとその光景が浮かんでくるかのよう。こうした自然体験を経て月見草を回収した主人公は、家の庭に新しい月見草が還ってきて、精神が回復してくるのであった。

古文:『玉水物語』

  • ざっくりとした内容
    • 狐の恋情慕情:姫君に惚れた狐が人間の娘に変化して侍女として仕えるはなし
      • いわゆる「人外」モノ。日本人が遺伝子的に人外大好きな事が古文から見ても先祖から脈々と伝わってきているものだと感じられる。問題を解きながら『Kanon』の真琴√が彷彿とされしょうがない。
      • 文章の内容は以下の通り。とある狐が高柳の宰相の14、5歳になる姫君に恋情慕情を抱く。かなわぬ恋に疲弊して、むなしく死んでいくのも残念だ。姫君に近づくためにはどうすればいい?まず狐はコネを作るために女性に変化し無縁の身となったと述べて、男子ばかりの家に置いてもらうことになる。そして同情を引いて宮仕えをしたいと申し出てツテを頼って惚れた姫君に仕えられることとなる。姫君のお気に入りとなった狐(変化ver)は、懇ろな侍女ライフを送るのだが・・・。狐が秘めている恋心を姫君は察してしまうのだが、姫君はそれがよもや自分へのものだと知らずに胸中を知りたいと戯れてしまう。狐は自分が惚れている姫君から打ち明けられない姫君への恋情慕情を問われてしまうという切ないエンドとなっている。センチメンタル狐'sラブストーリーである。

漢文:『杜詩詳註』

  • ざっくりとした内容
    • 儒教道徳イデオロギー忠孝悌恕
      • セ試漢文は思想で解けてしまうことが多く世界史・倫理選択者が点を稼ぐ分野なのは言うまでもない。今回も同様で、儒教思想の忠孝悌恕を知っていれば解けてしまう。
      • 話の内容としては、叔母-甥の関係にある血縁関係の徳の重視で、実の子よりも兄の子を優先したという事例。その恩義に報いるために、甥が叔母の死に際し思いやりを尽くすというもの。漢文の典型的パターンである現在の時間軸(杜甫の事例)→故事の引用(漢代の劉向『列女伝』の引用)→普遍化してオチ(叔母の死を偲び真心を捧げる)という構造。
      • 特に受験生舐めているのが問4の空欄【33】であり、書き下し文と解釈を問う問題なのに、選択肢が全部違うため、どちらかが分かれば両方できてしまい、しかも文脈から容易に解釈の正誤が判定してしまうので、点くれ問題となってしまっている。