ここでは例年のようにセンター試験国語のざっくりとした概要を紹介していきます。大まかな内容を知りたい人向けです。きちんとした内容を知りたい人は各予備校のサイトを読んでください。
【目次】
はじめに
- いわゆる「出題者の意図」について
cf.中学入試国語に文章を使われた研究者が、自分の考えを読み取れなかったことをSNSで拡散した事例
【悲報】筆者、筆者の考えを正確に読み取れずーー pic.twitter.com/6WhfJ2CrFr
— TOMINAGA, Kyoko (@nomikaishiyouze) February 22, 2020
- 各大問と全体の雑感
- それでは今年のセンター国語の各大問のテーマはどのようなものだったでしょうか。評論は変化に際しての自律性、小説は戦時下に磨り潰された青年、古文は仏教的隠棲、漢文は中国的隠棲がそれぞれのテーマとなっていたと読み取ることができます。全体を通しては「時代に翻弄される自己の境遇をどのように社会に位置付けるか」ということが背景にあると考えられるでしょう。
小説 原民喜「翳」
- 戦時下に磨り潰された青年
- 小説は原民喜の「翳」を加工した文章です。出題文の内容は「妻の死を悼む男性が、妻を回顧する際に、御用聞きとして家に出入りしていた魚屋の青年を思い出す」という形式になっています。この青年は明るく朗らかに魚屋の仕事に打ち込んできたのですが、戦時下の波に巻き込まれることとなります。善良だったからこそいいように扱われ磨り潰されてしまった悲哀が男性によって推測されているのです。そしてこういった魚屋の青年のような事例は個別具体の出来事ではなく一般普遍であり本文の末尾で「〔……〕郷里にただ死にに帰っていくらしい疲れはてた青年の姿を再三、汽車の中で見かけることがあった。……」と記されていることがそれを象徴していると言えます。大問1の評論では変化に際しての主体的な適応が論じられていましたが、大問2の小説では個人の力ではどうすることもできない大きな社会状況に適応できなかった事例が描写されており、対比的な構造になっています。
古文 『小夜衣』
- 仏教的隠棲
- 古文は『小夜衣』から切り取られた一場面です。ここでは仏教的隠棲生活を送る老婆の尼上と姫君の生活の様子が主体となっています。古文でありがちなパターンとして、隠棲生活を送る若い身空の女性のウワサが一種のステータスとなっていて、それを聞きつけた高貴な男性が訪問するという展開です。しかしながら本文における特徴的な部分として、姫君そのものは登場しないということが挙げられます。あくまでも中心は、宮の視点であり、仏教的な生活や女房、尼上とのやり取り、住居の寂しさなどが描かれます。住居の家具や装飾品から庵で仏教的な生活が営まれていることが描写されており、その暮らし自体について宮は好ましく思うものの、山里の生活は寂しかろうと同情し、姫君と引き合わせてほしいと願って立ち去るのです。ここでは若い身空にも関わらず仏教的隠棲生活を送る女性が題材となっており、なぜ女性がこのような生活を送ることになったのかという疑問を喚起させるような流れになっています(設問とは全く関係ありませんが)。「不幸な境遇に陥った時の社会的な適応として仏教的な隠棲生活を送る」というイメージ像が日本の古来からあったことを受験生に伝えようとしているのだと読み取ることができます。
漢文 『文選』
- 中国的隠棲
- 漢文は『文選』から謝霊運の漢詩の出題です。リード文の時点で「名門貴族の出身でありながら、都で志を果たせなかった彼は、疲れた心身を癒すため故郷に帰り、自分が暮らす住居を建てた」とあるように、漢詩文中では、中国的な隠棲生活の様子が描かれていきます。住居の様子を問う問題はビジュアル問題になっており絵図を選択するのですが、何の捻りもなくそのままの描写を選べばよく実質的に点くれ問題になってしまっています。そして漢文問題といえば、文章中の時代よりもさらに過去の時代の古典が引用されて教訓が述べられるというパターン。今回は、漢代の蔣詡が親友を自宅の庭に作った小道に招待する故事が挿入されて、友情の大切さが説かれ、新しく作った家に遊びに来てねと締められています。ここでは現代の受験生に対して過酷な競争社会に敗残し隠棲生活を送ることになった中国の知識階級の様相を提示することで、多様な生活の在り方を示していると考えられます。