Heritage tourism(004)【講演】「Indigenous tourismを扱う際の問題点」

文化遺産を観光資源にするヘリテージツーリズム。
近年の北海道の場合、アイヌ民族を観光対象とする政策を展開しています。
https://ainu-upopoy.jp/
つまりは先住民族観光「Indigenous tourism」と切っても切り離せないのです。
以上の理由により、今回は先住民族を観光資源にする際の問題点が扱われました。

今回の講義の要旨

  • 「ポジティブアイヌ」の問題点
    • 近年は『ゴー〇デンカムイ』の宣伝効果がバツグンであり、「アイヌ=カッコイイ」という価値観が創出され、拡散しています。そのため「カッコイイアイヌ像」だけを提示する事例が多くなっており、「ポジティブアイヌ」と呼称するのだそうです。しかし、「ポジティブアイヌ」の見せ方は一面的なものであり、差別問題に目を瞑る偏向的なものであるという危険性をはらんでいるとのことです。先住民族を観光資源とする際に、必ず問題となるのが民族差別の問題なのです。(『シャーマンキング』におけるホロホロとダム子の悲恋も、民族差別がテーマになっていましたしね)。アイヌ民族の負の歴史と現状を知らずして、「カッコイイアイヌ像」だけを観光資源として見せようとするのは、偏っており、大変危ういものなのです。以上により、今回はアイヌ民族の負の現状に関する講演が行われました。
  • 今を生きるアイヌが、どんなことに直面して何を考えているか。
    • 現在でもアイヌ差別は無くならず酷いものだそうです。今を生きているアイヌがどんな新しいイジメや差別を受けているのかが語られました。日本人は他者の優位に立ちたいという性質を持っており、自分より下位の存在をイジメの対象とする傾向があります。民族問題に限らず、様々なケースにおいて社会的弱者はイジメられて当然という風潮があり、自分たちが優位な立場であることを確認するために、社会的弱者を排斥します。3.11の時、サッポロでもフクシマからの避難者に対して様々な酷いことが行われた事例が挙げられました。日本人は社会的マイノリティの人々は非難されて当然という意識を持っているのです。差別の構造は、人が社会集団を形成する中で、なかなか解消しにくい問題だということでした。
  • 「サイレントアイヌ」とアイヌ民族意識の目覚め
    • アイヌの方たちの中には、自分がアイヌであるとバレるので、アイヌであることを隠そうとします。しかし結局、自分の民族意識からは逃れられず、自問自答することになるとのこと。そして女性は40歳くらいになると「カムイから呼ばれ」てアイヌ民族意識に目覚めるそうです。
    • その時にまた問題となるのが「サイレントアイヌ」だそうです。アイヌ民族として活動すると、親戚縁者も巻き込むことになり、迷惑が掛かってしまう・・・特にアイヌであることを意識的に/無意識的に隠そうとしている層が一定数おり、彼等は民族差別の酷い現状を知っているからこそ、「サイレント」になってしまうとのことでした。
  • アイヌ民族差別史
    • アイヌ差別の直接のルーツとして、商場知行制と場所請負制と説明がなされました。江戸時代に松前藩は米を栽培しない領知が多かったので、他藩のような俸禄制を実施できず、家臣には米の代わりに「商場」というアイヌとの交易権を知行として与えていました。当初、地行主は交易船を送り、入手した交易品を売却して収入を得ていたのです。これを商場知行制」といいます。しかし、18世紀からは交易を商人に委ね運上金を得るという方法に変わります。これが場所請負制です。この場所請負制のもとでは、アイヌが労働者として酷使されます。また明治期の開拓当時には、圧倒的に和人は男性が多かったので、性的欲求を満たすためにアイヌ民族の女性を慰め物にしていました。こうしてアイヌは下等人種という扱いを受け酷い差別が行われるようになっていったのでした。
    • 明治期に入り、国民国家が創出されると、アイヌ民族は包摂と排除の原理が働きました。日本人として組み込む一方で旧土人として差別したのでした。講話者の方は、当初この旧土人という意識による差別は、労働者の人々だから抱いているものだと思っていたそうなのですが、現在、高等教育を受けたホワイトカラー層のなかにも根強く残っているという現実に直面しているとのことでした。