拓銀経営破綻後、深刻な不況に陥った北海道経済を立て直すために行われた運動が「MOVE ON 北海道」。コンテンツツーリズム論的に重要なテーマであり、98年の時点でコンテンツによる観光振興と地域活性化を、企業と提携して目指したことに歴史的な意義があります。
ネット上の言説では、様々なコラボ商品が開発されたり、声優との北海道旅行が実施されたりしたことなどを垣間見ることができますが、具体的にどのような企画が展開されたのかについては、謎のヴェールに包まれたままでした。そのため今回は、当時の地方紙の広告をもとに「MOVE ON 北海道」において展開された『北へ。』に関する事業を明らかにしたいと思います。
「MOVE ON 北海道」とは何か?
「MOVE ON 北海道」とは1998年夏頃から行われた観光振興事業で、企画協力として「北海道新聞社、北海道文化放送、FM北海道、道新スポーツ、道新オントナ」を仰いでいます。具体的には道民から観光振興のためのアイディアを募り、それを新聞で紹介するというもの。テーマは料理・名所名物・祭りイベント・オリジナルアイデアの4つに分れており、1998年10月13日の誌面上では「引き続きアイデア大募集」と銘打ち、以下の様に呼びかけを行っています。「北海道に活力を取り戻すために、私たちは「北からの声かけ運動」を道民のみなさまに提唱してまいります。みんなが声をかけあい、励ましあいながら、北海道が元気を取り戻していくアイデアを大募集します。ご応募いただいた貴重なご意見、アイデアは北海道新聞紙上でご紹介をしてまいります」(『北海道新聞』1998年10月13日(火)14頁)
この募集の結果は、以下の3回(1998年10月13日(火)14頁、1998年12月16日(水)26頁、1999年3月18日(木)26頁)において紹介されており、『北へ。』による観光振興も掲載されています。以下では、①ゲーム開発、②イベント企画、③タイアップ商品の3つに分類し、『北へ。』と連動した観光振興を見ていきます。
「MOVE ON 北海道」で展開された『北へ。』による観光振興
『北へ。』の観光への影響
観光振興のために作られたゲームがコンテンツツーリズムを生んだ!
コンテンツツーリズムの学術的な通説では、聖地巡礼及びコンテンツによる地域振興の起源が一般的に認知されるようになったのは京アニ版『らき☆すた』が契機であるとされています。しかしながら、『北海道新聞』(2004年8月3日、23頁)にはテレビやゲームや漫画に登場した舞台を観光に訪れる様子が特集されています。テレビは『水曜どうでしょう』のHTB社屋、漫画は『最終兵器彼女』の小樽、そしてゲームでは『北へ。White Illumination』の春野琴梨が取り上げられています。1999年に観光振興を目指して発売されたゲームが、見事に後に「コンテンツツーリズム」と呼ばれる現象を引き起こしていることが分かります。まさに『北へ。』の観光振興策は効果を発揮した、いえ、発揮し続けていると言えるでしょう。
「テレビやゲーム、漫画に登場… 札幌圏の意外な名所に 全国からファン続々」(『北海道新聞』、2004年8月3日、23頁)