『9-nine-はるいろはるこいはるのかぜ』の感想・レビュー 

他者に依存し救済してもらうことを願っていた少女が自力救済に目覚める話。
百合友情パワーでシンデレラコンプレックスを打破するシーンが一番の見所。
お互いにオタクでぼっちだった希亜と春風の関係性が良い味出しています。
主人公が身体を張って戦う中、希亜が春風を叱咤激励する場面がおススメです。
中二パートでは世界観設定とラスボスの目的が明らかになりました。
最後はプレイヤー自身をシナリオに参入させる『古色迷宮輪舞』的なオチになります。

異世界から流れ込んだ異能発動装置であるアーティファクトの回収を巡る攻防戦

f:id:r20115:20200524120024j:plain

  • 異端者「与一」勢力
    • シナリオの冒頭は善悪二元論の勢力争いとなっています。異能の力で他者を殺すのも厭わない「与一」サイドと異能を「正しく」使おうとする主人公サイドに分かれています。シナリオ前半ではこの異端者「与一」がピックアップされ、日常世界と倫理観が適応できない苦しみなどが描かれていきます。一匹狼系ぼっちであった主人公にとって、何かにつけ絡んできてくれた与一はかけがえのない友人でした。与一がいたからこそ主人公は孤立することは無かったのです。そんな与一が自分を騙し、しかも平然と人を殺すことに躊躇わないことを知って愕然とします。友人を失いショックを受ける主人公の支えとなるのが、3作目のヒロインである春風というわけです。
    • 当初春風は敵勢力に属していましたが、その思想に疑義を呈するようになり、主人公サイドに接触してきます。主人公はそれを利用し、春風に魅了されたと称して偽装恋人作戦で敵サイドに近づきます。しかし敵勢力が本当に異能を用いた殺人を企てていることが明らかにされると、勢力図が塗り替えられていきます。春風が主人公側につき、与一たちの勢力と抗争することになったのです。しかし、この勢力争いも長くは続かず、シナリオは第二の側面に移行していきます。

 
f:id:r20115:20200524120030j:plain

  • 闇堕ち研究者「イーリス」
    • シナリオの第二段階は異世界の干渉者イーリス編です。ここでは世界観設定の謎が明らかになります。ラスボスのイーリスは異世界における異能発動装置「アーティファクト」の管理者でしたが、闇堕ちしてしまったのです。もともと1000年前には主人公たちの世界Aと異能が使われる世界Bは自由に行き来ができていたそうです。世界Bにおいて異能は修行の末に身につけるものでしたが、異能発動装置アーティファクトが発明されたため、その行使が容易になります。そんなアーティファクトが世界Aに流れ込んだため大混乱となったのです。1000年前にアーティファクトを回収し、混乱を鎮めたのがイーリスでした。しかし魔術の才能の無かったイーリスは大量のアーティファクトを手に入れたことで、その莫大な力に誘惑されるのです。ここで世界Bの世界線が分岐し、イーリスが闇落ちした世界線B1と闇堕ちしなかった世界線B2に分かれてしまったのです。
    • 1000年前の混乱が収まった際、世界A、世界線B1、世界線B2は分断されそれぞれが相互不干渉になっていました。しかし第1作冒頭で世界を分かつ境界が壊れアーティファクトが再び流出すると、各世界が接続されて再びイーリスは覇権の掌握を目指して動き出したのでした。イーリスがまず望んだのは相手を瞬殺できる魔眼の異能の回収。主人公たちはイーリスの指示の下、魔眼保持者である与一からアーティファクトを切り離すことに成功します。しかし意図せず与一を殺すことになってしまい、魔眼を取り戻したイーリスによって主人公のパーティーは抹殺されてしまうのです。ここで主人公は「死に戻り」の異能に覚醒し、記憶を保持したまま何度でもやり直しをすることになったのです。スマガ・シュタゲ・まどマギと同じようなノリ。

 
f:id:r20115:20200524120035j:plain

  • 死に戻りループバトルと百合友情
    • 死に戻りを発動した主人公たちは、イーリスとのバトルに挑むことになります。ここで鍵を握るのが空想具現化能力を持つ春風の存在。春風は自己が望む結果を引き寄せることができるというハイパーチート級の異能を持っていました。これを使いこなせるかどうかが問題となるわけです。春風は小学校高学年の時にいじめを受けており自分に自信が持てず自己肯定感も低く目立たずひっそりと生きてきました。そのため辛いことがあると意識を手放し自らが生み出した第二人格に主導権を譲り渡して難事を切り抜けてきたのです。『俺つば』的なノリ。しかしそれは自らが主体的に問題に取り組もうとせず、誰かに依存して助けてもらうことを前提としていたのです。イーリスとのバトルでも春風は第二人格で戦闘に臨んでいました。しかし第二人格を使えばそれだけ異能の力が分散してしまいます。イーリスに勝つためには春風が自分の意志で空想具現化能力を使わねばならないのです。
    • ここで百合友情パワー炸裂。希亜の叱咤激励イベントが発生します。主人公がボロボロになってまで戦っているのに、いつまでも救済をこいねがうだけでいいのかと。この希亜演説は春風の心を打ち、シンデレラコンプレックスを打破するのです。いつかきっと白馬の王子様が来て自分を救ってくれる?そんな幻想を打ち砕く!!・・・ということで救済されるのを待っているのではなく自らが救済するのだと空想具現化能力を発動、イーリスを倒すことに成功したのでした。
    • 『9-nine-』第3シリーズの世界線では見事イーリスの野望を阻止しました。しかしまだ与一問題や残りのアーティファクトが残っています。別の世界線で逢いましょうということで4作目に続く!ちなみにイーリス撃破後には春風先輩とのフラグ構築タイムとなりイチャラブ展開となります。異能を手にした主人公も闇落ちしかけるのですが、そういう状況になったら春風が止めてくれると心の絆を結ぶのです。

 
f:id:r20115:20200524120042j:plain

  • プレイヤー自身が世界線の統合者というオチ
    • エンディング後のエピローグでソフィーティアからタイトルの解題が行われます。異能が使用される世界Bは、イーリスが闇落ちした世界線B1と闇落ちしなかった世界線B2に分岐しました。主人公を導くアドバイザー的存在であったソフィーティアは、世界線B2の「イーリスの闇落ちしなかった形態」であることを本人から告げられることになります。そして作中の主人公の異能は「オーバーロード(死に戻り)」ではなく、私たちプレイヤーと接続する能力であったことが明かされるのです。主人公に死に戻りの異能を発動させていたのは、世界の統合者でもある物語を読んでいる我々プレイヤー!!・・・ということで、9番目の異能保持者は読者自身であるのでタイトルが『9-nine-』になるわけです。
    • このようにプレイヤー自身を物語に参入させる作品は幾つかありますが、個人的におススメなのは『古色迷宮輪舞』でしょうか。あらゆる場面で死にまくり、様々なキーワード選択を通して物語を読み進めて悲劇を回避するゲームなのですが、最後に「観測者の視点としての我々プレイヤー」が強く意識される展開になります。『9-nine-』の2作目は『One』の「存在忘却」をテーマとしていましたが、ある程度ネタが被るのは致し方ないのでしょう。

 
f:id:r20115:20200524120049j:plain

関連






参考