ゴールデンカムイ「尾形百之助の本当の目的は何だったのか」

尾形の死では、結局人間には役割や大義など無く、ごく個人的な私怨で動くということが描かれた。

ゴルカムでカルト的人気を誇っていた尾形百之助上等兵。シナリオ的にはトリックスターの位置付けで金塊争奪戦を引っ掻き回し、その動機が注目されていた。だが蓋を明けて見れば何のことは無く、認知されない私娼の子であるというコンプレックスからくる私怨で動いていただけであった。

尾形の本当の目的をあばく鶴見中尉


尾形は娼婦の子として生まれるが、父から認知されることはなく、母方の家族に育てられた。母は尾形を愛することなどなく、いつまでも父のことを想い続けていた。尾形が猟銃を覚え獲物を取ってきても褒めてくれず、父のように立派な将校になることを求めていた。尾形の家の出自ではなれるわけもないのに。尾形は父親が母親を今でも愛しているのか疑念に思った。もし愛があるならば母の葬式にくるであろうと思い、母を殺害。しかし父は葬式に来なかった。

ほどなくして尾形は軍に入るが、そこで異母弟であり嫡子として認められている勇作と邂逅する。勇作は尾形によく懐き、本当に尾形を愛してくれたのである。だが尾形にとって勇作は許しがたい存在であった。勇作は軍隊にありながら旗手として清い立場にいることで殺しや女に手を染めないイノセントさを保持していた。そんな勇作を尾形は堕としたかったのだが、女遊びもロシア兵殺しも勇作は拒否した。勇作がいなくなれば父の愛は自分に向くかもしれない。こうして尾形は戦場の混乱に乗じて勇作をも射殺したのであった。

しかしここでも尾形の目論見は失敗に終わる。勇作を殺しても父の愛が尾形に向くことは無かったのである。この尾形の心の寂しさを利用しようとしたのが鶴見中尉であり、満洲進出に反対していた尾形の父を殺させる。その見返りとして尾形の軍隊における出世を約束したのであった。

母を殺し、異母弟を殺し、父を殺した尾形にとって、残された存在証明の手段は自分が亡き父の地位である第七師団の団長になることであった。父に認知されない娼婦の子である自分が師団長になることで、「母君を捨てた男も選ばれたその息子もたいして立派なものではなかった」と「欲しくても手に入らなかったものは価値などなかったと確かめ」たかったのである。これを鶴見中尉は端的に「百之助つまりお前は……「第七師団長なんぞ偽物でも成り上がれる」と証明したいのだろう」と表現している。

尾形は父の殺害の見返りに出世を約束してくれた鶴見中尉に縋るのであるが、鶴見中尉は自己に忠誠を誓う部下を増やすため尾形をほっぽりがちであった。尾形との約束は履行されなかったため、尾形は鶴見中尉のもとを去ることになる。鶴見中尉に対する中央の監視役となったのも尾形にとってはさして重要なことではなく、鶴見中尉を表舞台から消し去り自分の出世に尽力させるためであった。

金塊争奪戦における尾形の本当の目的は私怨により自己を見返えしてやるための出世。「反乱分子を全滅させおまけに土地の権利書も手に入れる。大手柄の見返りとして奥田閣下には士官学校への入学…陸軍大学校の卒業だって安いものでしょう。鶴見中尉殿は今日この列車事故で死亡を偽装。私が第七師団長へ駆け上がるために暗躍してください」と述べる。

そんな尾形の目論見は杉元とアシㇼパによって阻止される。尾形は勇作と重なるアシㇼパのイノセントさを汚すことに固執していたわけだが、そのアシㇼパのイノセントが尾形に罪悪感を呼び起こすのである。これまで殺しを厭ってきたアシㇼパは杉元と共に地獄へ堕ちる覚悟をしたわけだが、それが発動したのが奇しくも尾形であったのだ。アシㇼパの放った毒矢は尾形を錯乱状態にし、罪悪感を呼び起こす。これまで勇作と向き合ってこなかった尾形に罪悪感を呼び起こしたのである。尾形は半ば自滅する形で自問自答を繰り返し、最後には自分が勇作にだけは愛されていたのだと確信する。こうして尾形は刀でハラキリならぬ、銃で自殺し、勇作の幻影とともに落ちていくのであった。

尾形の最期集

出世を見返りに花沢中将(尾形父)を殺害させる
尾形が鶴見中尉から離れた理由
母親は尾形に将校になることを求めた
尾形が金塊争奪戦に参加した目論見
勇作に愛されていたことを確信する尾形
アシㇼパに救済される尾形
尾形の最期~銃で自殺~
死に際し両親からの愛を確信する尾形