ウマ娘「アストンマーチャン」シナリオの感想・レビュー

死を強く意識し忘れられる事を極度に恐れる少女が、それを克服すべく生きた証を残そうとする話。
アストンマーチャンは一見すると不思議系電波ガールでありマスコットになりたいとかのたまう。
だがそれは世界中の人に自分の事を忘れないで欲しいという願いの表象だったのである。
死に囚われるマーチャンと"海に流れ続ける"覚悟を示せばフラグは成立!思い出を刻むことになる。
マーチャンの最初の生きた証である「香り袋」は彼女をして"ムズムズ"させることになる。
人々に自分を忘れさせたくないと願ったマーチャンは鮮烈な想いをトレーナーに焼き付けていく。
ウマ娘ゼロ年代泣きゲーを彷彿とさせることは指摘されるが本作もアルダン√に比肩する泣きゲーだ。

アストンマーチャンのキャラクター表現とフラグ生成過程

死とそれによる忘れられる恐怖を乗り越えるべく自分が生きた跡を世界に残す。
  • 死生観。生きた証を残そうとするのは死を受け入れるための代償行為
    • アストンマーチャンは死を強く意識する女の子。その背景には病院育ちであったことがあり、死を誰にでも訪れるものであると認識しており、命は流れ行くものであると悟っている。だが本当に悟っているかと言われればそうではなく、やはり死の恐怖、自分が忘れられることの怖さはどうしても消すことはできない。ではマーチャンが死の恐怖を克服するために取った方法とは何か。それは自分の姿を世界に刻むことであった。それをマーチャンは「マスコットになりたい」と表現するのだが、自分の想いをきちんと言語化せず喋るので、一見すると不思議系電波ガールのように思われてしまうのである。マーチャンとのフラグを生成するために必要なのは、マーチャンの死生観を受け入れる事。「鳩の葬儀」をマーチャンと一緒に行うことで、彼女が何を求めているのかを知れ。全ての生き物は海へと流れ着く。輪廻転生。その海まで一緒に流れてくれますかと要求してくる重たすぎるマーチャンに我らがトレーナーさんは一緒に流れることを誓うのである。

  • 香り袋は死の香り
    • マーチャンとトレーナーさんを深く繋ぐことになるのが、トレーナーさんが手作りした「香り袋」。フラグ成立後にマーチャンのグッズの発売状況を調査するためにデートに行く二人。だがそんなにすぐにはグッズ化されるわけもなく、またグッズ化されたとしても第一線に陳列されるのはとても難しい。それを踏まえた上でトレーナーさんはマーチャンの初めての"うつしみ"として、マーチャンをモチーフとした香り袋を作るのである。マーチャンをイメージした布と糸を使って手芸タイム。マーチャンは、トレーナーさんが自分のことを想って真剣に手作りするという真剣な表情を目の当たりにし、思い入れを深めることになる。マーチャンは最初のグッズである香り袋をおねだりした上で、ムズムズするとか言い出すのであった。

  • 香り袋と海へと流れ着く過程・マーチャンが死んだ後のこと
    • マーチャンが香り袋に入れるのは日々を過ごした思い出。これマーチャンが死ぬ間際に一緒に過ごした過去を想起するために香り袋を開けるやつやん。またマーチャンはこのままでは思い出袋になってしまうので香りも入れようと言うのだが、その伏線はクリスマスに香水で回収される。すなわち香りを嗅ぐことでマーチャンのことを思い出さずにはいられない条件付けを植え付けているのだ。こうしてマーチャンを映す専属の「レンズ」となったトレーナーさんは、マーチャンと一緒に海(=死)まで流れていく。海からも花火が見えることを語るマーチャンは自分が死んだ後も、トレーナーさんは陸から、自分は海(=死後の世界)から一緒に花火を見られることを説いているのである。マーチャンは世界中のヒトに自分の跡を残したいと願うがそれより以上にトレーナーさんに自分を刻み付けたいのである。
マーチャンのことを忘れさせたくないと願い、マーチャンの"レンズ"に就任する
マーチャンとの思い出を入れる香り袋
マーチャンの生きた証を香り袋に入れるのです
自分が死んだ後もトレーナーさんを束縛してくる重い女
自分と共に生きて死に際を看取って欲しいとねだるマーチャン
様々な香りを自分に結び付けさせ脳裏に焼き付かせようとするマーチャン