【感想】ダンジョン飯(全14巻)を読んだ~食事と生命と欲望の根源的意味~

レッドドラゴンに食われた妹を助けるためにダンジョンで魔物を食べながら深層を目指す話。
物語は主に前半と後半に分かれる。前半はダンジョン探索がメインのRPG的ゲテモノ料理モノ。
後半は死生観を題材にした世界設定考察モノとなり食事と生命と欲望の根源的意味が問われる。
最終的に主人公が迷宮の王となり生きることは食べることであるとの結論に達する。
睡眠・運動・食事こそが全ての人間にとって大切なことであると壮大な世界観を持って説いて来る。

前半と後半で作風や雰囲気がガラッと変わるが世界設定考察モノを上手く処理することに成功した作品

主人公ライオスの目的

ダンジョン飯は前半と後半で作風が異なる。前半は魔物を殺して食べながらダンジョンの深層を目指すというタイトル通りのゲテモノ料理をメインとするダンジョン飯である。それこそグルグルやフリーレンのようにテンプレ的RPGを基盤としながら独自の魅力で味付けという感じ。主人公はダンジョン探索を生業にしている青年だが、迷宮攻略中に遭遇したレッドドラゴンに妹が食われてしまう。全滅必至になる中で妹はリレミトを唱えパーティーは地上へ脱出するが、その妹だけドラゴンの体内に取り残されてしまった。このままではドラゴンに消化されてしまいザオリクできなくなってしまう。身一つでリレミトしてしまったため路銀は心もとなくアイテムも欠乏し食料も無い。その上パーティーからサムライとタンクが離脱してしまった。早く妹を助けなければならないが瓦解したパーティーを立て直す時間は無い。と、言うことで道中で出会うモンスターをぶっ殺してその血肉を食らい自給自足しながら深層を目指すことになる。魔物の知識が豊富な主人公、妹の親友でハーフエルフの魔術師であるマルシル、前金を支払っていたためパーティーに残ってくれたシーフ・スカウト系のチル、道中で出会い仲間に加わるドワーフの魔物料理人センシらがダンジョンで様々な魔物を美味しく食べるゲテモノ料理ファンタジーが展開される。彼らがレッドドラゴンの体内から妹を助け出しめでたしめでたし☆となるところまでが前半である。
 

魔物を殺して食べながら妹を救え!
ライオスの性格

後半は妹を助けたと思いきや、ダンジョンマスター狂乱の魔術師により、妹が半人半龍となってしまう。妹を助けるためにはダンジョンマスターを倒し、龍化した下半身を食べて消化するしかない。本作は食べて消化することで生命が循環するという設定だからだ。そんなわけでダンジョンそのものの謎を解き明かす世界設定考察モノとなる。大抵の作品だと世界設定考察モノに走り始めると途端につまらなくなるのがありがちなパターンなのだが、本作は寧ろ逆で死生観や欲望を上手く処理し深みのある味わい深い作品に昇華されている。多分前半だけだったら単なるゲテモノ料理モノで終わっていたが、後半の人間の欲望編と生きる事の根源的意味が普遍的なテーマなり成功したのだと思われる。

最初のダンジョンマスターである半狂乱の魔術師は永遠の幸せを現出するため全て自分が管理する箱庭の中での永遠の不死を現出した。次にダンジョンマスターとなったのは仲間だったマルシル。彼女は種族間による寿命の違いにより悲しい思いをしてきたハーフエルフであり、大好きな主人公やその妹と一緒に人生を歩むため寿命の改変に手を染めようとする。最後にダンジョンマスターとなるのが主人公。封建的な村で白眼視され育ち逃げ出した先の軍隊でも馴染めなかったことから人類に興味が薄く魔物に傾倒するという危うい本性を持つことが明らかになる。ダンジョンマスターに力を与えていたのは異次元からやってきた人間の欲望を食うことで快楽を得る存在で、力を与えて人間に欲望を叶えさせることでエネルギーを吸い取りつつ徐々に錯乱させていたのであった。主人公は生きることは食べることであり、その中に生命の循環を見い出すに至り、最後は異次元の根源的存在まで食べて消化してしまうことに成功する。

ラストは大団円となり主人公がダンジョンマスターとして皆を幸せにすることを決意し、それが飢餓に苦しむことなく食えるセカイを現出する。まずは半人半龍となっていた妹を救うため、上半身の妹と下半身のドラゴンの部位を切断。下半身のドラゴンの部分をひとつ残らず調理して皆で食べる。どうしても残ってしまった骨などは出来るだけ細かく砕いて堆肥とし植物による消化に委ねた。こうして消化による浄化を経てザオリクを決行!見事に足が生え蘇生に成功するのだが、妹はドラゴンの魂も尊重したため、脚に龍の鱗などが多少残存した。マルシルの寿命問題については、運動・睡眠・食事によって健やかに寿命を延ばすぞ!という結論に達する。こうして生きる事は食べる事であるという根源的なテーマを基盤として見事ファンタジーRPGを上手く処理したオモシロイ作品となった。

人間も生態系の一種
長命種と短命種の寿命差を乗り越えるには
人間は飢えるために生きている
死を受け容れること
生きることは食べる事エンド