『遥かに仰ぎ、麗しの』本校系ヒロインず編の感想

主人公の滝沢司は就職浪人の一歩手前で、凰華女学院分校に拾われた歴史教師。『ゆのはな』といい、ここのメーカーの主人公は歴史専攻が多いですな。司は幼少のみぎりに両親に騙され孤児院に捨てられ、排他的になり荒れて、人を信じられなかったという過去を持っていた。引き取られた滝川家にも反抗ばかりしていたが、長年の末、滝沢家の愛情を理解するようになる。そのとき滝沢家から決して見捨てられなかったため、滝川の名に恥じない人物になろうという強靭な意志を持つようになり、その思いを実行していく。彼はそのために教師という職を選んだのだ。だが、両親に捨てられたトラウマにより、愛する人にも同様に捨てられてしまうのでないかと疑ってしまう欠陥を持ち、一線を越えることを無意識的に怖れている。

 

凰華女学院分校は良家のお嬢さまが世間的または社会的に問題がある場合にぶち込まれる監獄といっても構わない場所だった。なんせ正門にダンテ『神曲』地獄篇第三歌の「此処に入る者よ!一切の望みを捨てよ」と謳っているという地獄の果て。主に在籍するのは、本校で問題を起こして分校に回されてくる凰華女学院本校の生徒と元々問題があって世間から隔離するために収容された分校の生徒。本校系の生徒と分校系の生徒は寮や制服、性格も違う。学園のシステムは単位履修制のため講義には分校・本校の区別はない。

鷹月殿子

太古の昔より政治を操ってきた一族:鷹月家の一人娘。個人としての人格は一切認められず、鷹月家の娘としての価値しか求められてこなかったため親に反発。家に従うまで分校に隔離されることとなった。司の担任の生徒で、司に父性を見出し親の愛情の欠落を求めるようになる。


殿子シナリオでは、司は大戦中の飛行機を修理して飛ばそうとする。殿子とはその修理の過程で情交を深めていく。殿子はその修理の過程プロセスは面白いと感じていたものの、心の中では飛行機は絶対に飛ばせる筈はないと思わずにはいられなかった。そう飛行機は彼女のメタファーであり、殿子は森鴎外の『雁』よろしく自分自身をすっかり諦めていたのだ。


だが、それにもかかわらず司は着々と飛行機を完成させていき、周りの人物も巻き込んでいく。殿子は決して一人ではなく支えてくれる仲間が出来ていたのだ。飛行機が飛べば運命に立ち向かえるかもしれないと淡い期待を持つようになるが、失敗。期待して裏切られればどんなに辛いことか分かっていたのにすがり付いてしまったその希望・・・。だがしかし、墜落した司が言い放ったのは飛行機を改良しようという強い意思。曰く「お前はいつだって諦めが良すぎるんだ。どうしてそんなに簡単に諦める?そんなことじゃ何一つ上手くいきゃしないだろうに。だからなんでそんなに諦めがいいんだ、お前は。ライト兄弟がフライヤー号に至るまでに一体何機作ったと思っているんだ?」。


失敗しても無尽蔵に這い上がってくるその姿に自分の人生を諦めるにはまだ早いと決意した殿子は鷹月家と戦うことを決意のだった。

八乙女梓乃

対人恐怖症で、幼少の頃から家族ぐるみで仲が良かった殿子以外には心を開かない。殿子が司と仲良くなっていく姿を見て、殿子から捨てられないように司を放逐することを決意。憎悪とはいえ、他人になにがしか感情を抱いたのはこのときが初めてだった。


箱入りのお嬢様であったため嫌がらせの方法など殆ど知らず、逆に司に助けられてばかり。決死の覚悟で行ったセクハラでっち上げ事件でも、教頭に犯されかけたところを司に救われる。自分が襲われて初めてその罪を意識し、又、司にほのかな愛情を抱くようになる。


だが梓乃の対人恐怖症は容易には治らなかった。また司も両親に捨てられたトラウマから人に愛されることを怖れたため梓乃と触れ合おうとしなかった。どちらも本当にギリギリのところで他人を内側へ招くことが出来なかったのだ。かといってぬくもりが欲しくないわけもない。すれ違う二人。


だが梓乃に決心は強く、司のトラウマを看破する。人に愛されることから逃げていることを指摘し、自分の体を縛ってまでして司に貞操を捧げる。自分は決して梓乃から見捨てられないことを悟った司は梓乃と共に歩んでいくことを決意してハッピーエンド。

風祭みやび

学院生兼理事長、その姿勢は横暴であり滅茶苦茶だった。だが、それは『つよきす』の"蟹"の如く、優秀すぎる兄姉にばかり親の感心が向いてしまい必要のない子として育てられてしまったがためだった。初めて親に期待されたのが学園の理事長としての役職。落ち着いて虚栄心に囚われなければかなりの有能な人材だったのだが、功名を急いて失敗ばかり。その懸命さを知った司は秘書としてみやびのフォローをするようになる。そのおかげでみやびの評価は上がり学院生だけでなく教職員や警備員などまで学院全体の信頼を得るに至る。だが、その理事長のイスも単なる名目であり政略結婚のためのお飾りでしかなかったのだ・・・


みやびは損得勘定家柄役割役職抜きで個人としての"みやび"と扱ってもらったことで司への思いは増していく。司が過去語りをすると両親の愛情の欠落という傷の舐めあいにより益々懇ろな仲になる。だがここで司の愛情トラウマが発生し、家柄を理由にみやびとそのメイド長リーダを疎んじようとする。司に愛情を示しながらもそれとなく冷たくされて寂寥を感じる姿はなかなかの描写。好感を持った相手にそれとなく冷たくされる女の子ってのは中々味わい深いものがあるね。先にあげた『つよきす』の"蟹"や『東鳩2』の"このみ"、『こなかな』の"佳苗"なんかも冷たくされちゃう有名所か?


結局、リーダさんに貴方は愛情から逃げているだけと叱咤されみやびの愛情を受け入れる。そして3人は懇ろな仲になり学院中を巻き込んで風祭本家と戦い抜くぞとハッピーエンド。