今枝由郎『ブータンに魅せられて』(岩波新書) の感想

ブータンという国は、チベット文化圏のなかで政治的独立を守りぬき、社会的・経済的にも外部からの影響に押し流されず今に至っている唯一の例外であるそうだ。国王が自ら親政を放棄したことで有名で、2008年に議会制民主主義に移行する。人生の充足を目標とする「国民総幸福」という理念を掲げている仏教国家である。


この話は、チベット仏教の研究者である今枝氏がチベットと関係するまでの過程やブータン滞在期における社会文化風習などの描写、仏教国としての近代化政策やブータンのモットーである「国民総幸福」について、今枝氏の視点で書かれている。読み物として結構面白い。基本的にはブータンべた褒めで、チベット仏教の伝統に基づいたカタチでの調和の取れた近代化と第四代ドゥク・ギェルポ(ブータン国王):ジクメ・センゲ・ワンチュックに対する賛美で綴られている。だが、あくまでチベット仏教におけるブータンの占める重要性のために興味関心があるというスタンスを取っており、盲目的なブータンマニアではないことがうかがわれる。


人生の充足が目標であり、ブータン国民のひとりひとりが、ブータン人として生きることを誇りに思い、自分の人生に充足を持つことが大切であるとか。だがその一方で、国王親政の廃止や議会制民主主義は上からの民主化であり、ブータン国民は王様が大好きでどうして辞めちゃうのか分からないそうな。このことはブータン国民の政治的未成熟を表しており、西欧的な近代化システムがきちんと作用するのかが問題である。