この論文の趣旨
- 主題学習を根本的に検討する
- いかなる視点に立ったら良いか
- どのようにアプローチすべきか
はじめに
一.世界史の学習になにを望みうるか―主題学習の存在意義について―
高校における歴史教育
- 歴史は何の役にたちますか?
- 世界史授業の第一時間目にいかに明快に世界史学習の目標を掲げようとも、いつしか色褪せ生徒の思考を働かせることができなくなってしまう。
- 戦後の歴史学習における一貫した教育目標=「歴史的思考力の養成」
- 歴史意識
- 高校における歴史的思考力の養成は、中学校とは別個の独自のやり方が追及されなければならない。
- 酒井忠雄氏の提言
- 「要するに、中学校では、歴史認識の育成では、小学校での融合的・具体的な事実の知り方、発見を比較・対比、因果関係など、認識の方法のの分類に従って、一つ一つ試してみるという方向で、外界認識をひろげることが中心になる
- 「高校では、いろいろの方法論を習得した生徒が、具体的な問題、(中略)……を、中学校で得た、比較・対比・因果関係・関連・時代間のそれぞれの方法を総合的に駆使するとともに、さらに政治・経済・倫理などの他の領域で得た概論まで利用して、その問題について納得のいくまで追及する姿勢を作り上げる」
- 高校における歴史教育の結論
- 中学校時代に、一応身につけたが、まだ充分実際的に陶冶されていない、これらの思考の可能性に、真の統一を与え、"生きた力"として確立させることこそ、最後の完成を目指す高校の課題である
- 歴史的思考力啓培の失敗要因
- 1.高校を歴史的思考力の発達段階の上に正当に位置づけなかった
- 2.世界史Bの主題学習に対し、明確な根拠を持たなかった
- 3.知識注入=最高の受容的学習=通史学習
米・西独・ソ連の後期中等教育における歴史教育と世界史B
- アメリカ
- 西ドイツ
- 範例方式
- 範例学習が日本の歴史教育に示唆するもの
- 1.ギンナジウム問題;大学入試のために生じた教材過剰と学力の質的低下に対する高校・大学における根本的改革
- 2.「基本的教材の精選」について、理論的根拠が確立されている。
- 3.自主的活動な発見的方法をとり、既成知識の単なるドグマ化、固定化を避けている
- ソ連
- 学習内容の選択基準
- 「祖国史を深く理解することにとって、近代および現代の人間社会の発展を規定している世界史の主要な諸要因について、基本的な表象を作り出すことにとり、ならびに現代の国際生活を生徒に理解させることにとり、不可欠の諸外国の歴史的事件」
- 学習内容の選択基準
- 三国共通の考え方が世界史Bに示唆するもの
- 1.知識の系統性を前提としながらも、教材の精選により、最も本質的なもの、根源的なもの、不可欠なものを重点的に取り上げる
- 2.生徒の自主的活動を重視し、真の学力(認識力・思考力など)育成を目指している
- 3.教材は系統的配列とともに重点とする歴史上の事件、または事象をテーマ風に取り上げている
二.主題学習をめぐる諸問題
(1)主題学習の意義
(2)系統学習との関連
- 系統学習の意義
- 1.既成の学問成果の伝達、文化の保持
- 2.歴史を発展の相において、全体として捉えうるという点
- 系統学習の限界
- 既成の知識体系の伝達という本質的性格の通史学習は、その性格の故に、やがては次第に薄れてゆくものであり、さらにこの学習のみでは、不統一の思考力を刺激し、活動させ、真の統一性ある思考力にまで高める点で不充分である。
- 通史学習に歴史教育の全ての目標達成を期待することは間違っている。
- 系統学習(通史学習)と主題学習の関連
- A形態:小中高と一貫した歴史教育の最後を飾るものとして、最後の一年間に重点的に主題学習
- 時間的に無理
- B形態:通史学習が一本の流れとして独立し、その学習と並行して、適宜主題学習が行われる
- 主題学習が、単に外から付加されたものとしての意味しかなく、通史学習との有機的関連の中で、主題学習それ自身としての存在理由を主張しているのではない。
- C形態:通史学習の全体的な流れの中に、有機的に主題がくりこまれているもの
- 世界史の系統性に欠如したまま、高校へ進学してきた生徒に、世界史の通史的把握を充分可能ならしめる長所をもつ
- 単調に陥りやすく、知識偏重に走る危険のある通史学習に、適切な主題をおりこむことによって、年間計画に変化をもたせ、生徒の学習心理に好ましい緊張感を与えることが期待される
- A形態:小中高と一貫した歴史教育の最後を飾るものとして、最後の一年間に重点的に主題学習
- C形態における主題学習と系統学習
- B類型・D類型は主題学習からは取り除くべき
- C形態-A類型:「東西交渉」など
- 通史学習との重複も比較的少なく、また通史学習のみでは充分学習されない領域でもあり、かつ、異なった文化圏を統一的に取り扱うため、真の世界史の統一的把握もできるので、主題として取り上げるにふさわしい
- 適切な通史学習の区切りのつくところで取り上げればよいので、もっとも容易な部類に属する
- 非常にしばしば異質文化圏相互の、たまたま類似の歴史的事象をとりあげ、たんに平板な、皮相的比較に終わってしまう安易な主題学習を派生させる危険がある。
-
- C形態-C類型:「イギリス議会政治の発達」など政治史、税制史、官制史、文字の歴史、美術史、技術史
- 系統学習のくみいれの点で、系統学習と内容的に重複する面が多く、かつ、いくつかの時代にわたっているため、とくに、無益な学習の重複をさけるということ、さらに、系統学習のどの段階でとりいれるべきか、その時期をどこに決めるか、ということなどを考慮して、年間指導計画が立案されなければならない。
- 批判点1:主題設定の根底が単なる知的好奇心を満足させるに過ぎない「百科全書的主題学習」=主題学習の存在理由はたんにこれらの主題のもとに、知識を集め、生徒はそのままの形で受容するという以上に新しい陶冶的価値観を見出すことはできない
- 批判点2:世界史教育そのものを否定=各分野・領域・民族・地域を超えて、これら全ての動きを統一的な発展の相において、すなわち、諸要素の有機的関連のもとに把握されてこそ、初めて世界史は成立するのであり、それを再びこのように細分化することは、少なくとも、専門的な学問的要請を受けていない中等教育の社会科の一翼を担う「世界史B」
- C形態-C類型:「イギリス議会政治の発達」など政治史、税制史、官制史、文字の歴史、美術史、技術史
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- C形態-E類型:特定テーマを諸々の観点から考慮し、充分な検討によって選び出し、主題として学習するもの
- そのテーマについて、比較的生徒が問題意識を持っており、その周辺についてある程度の認識を持っていることのみならず、そのテーマを主題として扱った方が、総合的な歴史的思考力を働かせることができ、かつ現代の諸問題を考える上で、示唆に富んだものであることなどの諸条件から、主題として設定されるべき
- 主題学習の本質に応えるのはC形態-E類型。
- C形態-E類型:特定テーマを諸々の観点から考慮し、充分な検討によって選び出し、主題として学習するもの
(3)主題選定の問題
- A類型とC類型については(2)参照
- C類型「イギリス議会政治の発達」における主題選定
- 文部省教科調査官平田嘉三氏
- 「戦後さかんにいわれている、観念論的な民主主義を否定し、真の民主主義が決して他から与えられたり、既成のものをそのまま模倣すべきでないことを、生徒に理解させるためであって、この学習を通じて、それがどのようにして生まれて来たのか、その多くの試練に耐えながら、磨き上げられてきた、その現実の困難な歴史的道程を理解させたい。要するに、『民主主義は一日にしてならず』ということを史実のなかから、生徒に直接体験させることによって、いままでややもすれば、等閑視されがちだった民主主義の"きびしさ"を明確に把握させたい」
- 文部省教科調査官平田嘉三氏
- 客観視的史実のみにとらわれて、"生徒に訴えるもの"、"生徒の感動を揺り起こすもの"のない単なる知識の伝達にとどまるものであっては、歴史教育の生命を枯渇させることともなる。
(4)主題学習指導上の問題
- (4)-1:年間取り上げる主題数は、一学期一主題
- (4)-2:主題の性質・生徒の能力・その他の諸条件によって、流動的にいろいろな学習形態が巧みにその都度、組み合わされるべき。
- (4)-3:全て教師の解説に終わってしまっては、生徒の思考は働かず、既成の思考パターンを単に受容するにとどまり、知識の伝達を本質とする系統学習の範疇に属する。
- (4)-4:その主題をどのように究明していくべきか、どのように学習問題に分析し、どのようにアプローチすべきか、の学習のすすめ方を共同討議させる。
- (4)-5:教科書での望ましい叙述
- (4)-5-a:学習への関心、問題意識が高まること
- (4)-5-b:ある程度、全体を概観しうること
- (4)-5-c:研究方法を模索しうること
- (4)-5-d:よく検討された史・資料を学習に活用できること等を挙げることができる、
- 留意すべき点
- 主題学習の流れの中のどの段階において、どう生徒の思考に訴えてゆくのか、予めチェックしておくべきで、のちの評価の対象として考慮されなければならない。
おわりに
- 歴史的思考力を養成するとはなにか
- 歴史的なものの見方を確立する
- 自分なりの史観、すなわち外界への接し方を正しく確立し、主体的な生活の基本的な原理の把握にまで至る
- いわゆる「民主的な社会の発展に寄与する態度とそれに必要な能力を養う」まで高められるものでなければならない。