この大空に、翼をひろげて 羽々根小鳥ルートの感想・レビュー

この大空に、翼をひろげて』の羽々根小鳥ルートは、挫折した若者が生きる目的を見出すおはなし。
テーマとなるのが、身体障害者の「自己否定」と「家族問題」です。
社会不適合者の少女を救済することで、プレイヤァの自己肯定をはかろうというモノですね。

羽々根小鳥のキャラクター表現とフラグ生成過程

羽々根小鳥は車椅子少女。事故で怪我して歩けなくなっちゃった。黒髪ロングで意地っ張りだけど内面が脆くて誰もいないところでは寂しがって涙を流す。怪我により、周囲に対して孤高を気取って世界を敵に回すことでしか自我を保てなくなってしまったの。そんな少女の心を解きほぐしオープンハートさせるまでが体験版(→体験版の感想)でしたが、製品版ではどのように展開するのでしょうか。製品版では、身体障害者の「自己否定」と「家族問題」がテーマになります。グライダーを駆り、夏季限定の気候減少である「モーニンググローリー」という種類の雲に到達することを目的に、青春群像劇が描かれます。


まず身体障害者の「自己否定」ですが、これはヒロインである小鳥の「障害を負っている自分なんて誰も好きになんかなってくれない」という思い込みを把握することが心情読解のポイントとなります。ここでは古来より用いられている「第三者からの好意の明示により自分の好意の対象に気づく」という表現技法が使われます。具体的には小鳥ちんがラブレーターをもらうことにより、「自分なんかを好きになってくれるなんて!」と嬉しく思う一方で、主人公くんへの想いを自覚するに至るのですね。これに「家族問題」の第一段階である「家族崩壊からの和解」が付け加わります。小鳥ちんは、自分が障害を負ったことにより家族関係がギクシャクしたことに耐えきれなくなり、バリアフリーの学校へ転校するとして逃げてきたのでした。この家族崩壊に対し、いつもは味方をしてくれた主人公くんが「和解したほうがいい」との正論を吐いたことにより、二人の関係は気まずくなってしまったのでした。しかしながら小鳥ちんは、ヒロインBのあげはらの支えで精神的成長を遂げ、主人公くんの正論をもっともだと受け入れられるようになって、家族と和解でき、フラグが成立したのでした。



そして「家族問題」の二つ目ですが「身体障害者の自立」というテーマが扱われます。これは作中ではインコを比喩として語られ、「インコは家庭で飼育する場合安全のため羽を切るが、それは生物の生存意義として正しいのであろうか」と問われます。主人公くんは、「そんなものの答えは分からず、自分で決めるしかない」という結論に達するのですが、哀れヒロインは父親によって実家で保護されることになり連れ戻されかけます。小鳥の父親ですが、「常識」を具現化させるための人物像として描かれ、実にまっとうな紳士的性格として描写されています。ですが、主人公くんは「娘を思う親の固定観念による価値観の押しつけ」であると意義を唱えるのです。「確かに裕福な家庭環境の元で安寧に生きることも可能であろう。しかしそのような生き方に生きる意味はあるのであろうか」という趣旨の疑問を投げかけ、颯爽とヒロインをさらっていくのでした。ヒロインの小鳥は自我に目覚め、親に諾々と従うのではなく、障害を負うことで失った未来を取り戻すことを決意します。そして周囲の支えもあり、見事!!グライダーを操り、気候現象「モーニンググローリー」に到達することができたのでしたと大団円でハッピーエンド。