蒼の彼方のフォーリズム(体験版)の感想・レビュー

挫折系主人公くんが教導官として再び立ち上がるはなし。
ガンスリやロウキューブのように指導者の視点に立つということで自分が肯定される展開。
一度挫折し砕け散った主人公くんが少女の力になるために立ち上がるパターンは大好物だ。
それに加えて本作独自の近未来SFの空中遊泳スポーツをどう絡めるかが見物です。
少しくらいの敗北でもう挫折か!?十年早いんだよォォォォォ!!!

面白かった所とかとか

  • 近未来SF 〜飛行靴を利用したスポーツアクション〜
    • 挫折系主人公くんが再び立ち上がるという構図を利用して描き出すのが近未来SF。主人公くんの世界には反重力装置が創出されており、それがフライングシューズとして実用化されているという設定。このシューズを利用したスポーツとしてフライングサーカスなるものが流行しているのだとか。主人公くんはかつてその競技で馴らした第一人者だったのですが、調子扱いてたら手痛い敗北を経験し、天狗になってた鼻っ柱を叩きおられて崩壊感覚という流れになっています。挫折の理由が軽すぎじゃね!?いや、きっと過去語り編ではもっと壮大な煩悶を見られることに期待しています。そんなわけで戦うことから背を向けた主人公くんは二度と飛ぶことはせず、地べたを歩いていくことに決めたのでした。それもまた勇気です。そんな主人公くんを変えるきっかけになるのが少女の存在。
    • 主人公くんは教員に頼まれて転校生の飛行靴の教導を行うことになるのですが、そのうちに転校生少女の明るさに喚起されてくるのです。そしてチャレンジ欲に溢れる転校生が自分もフライングサーカスをやってみたいと言いだし、野試合で格上の強豪相手にフルボッコにされつつも主人公くんの指示と持ち前の天性で一矢報いることに成功します。転校生はこの快感を忘れられず飛行スポーツに興味を示していき、主人公くんの周囲のメンバーも続々と参加していきます。その様子を複雑な思いを抱きながら影でこっそり見ていた主人公くんは適切な指導が行われないのを歯がゆくみていたのでした。そんな主人公くんに対して転校生が手を差し伸べるのです。指導者になってくださいと。こうして我らが挫折系主人公くんは再び立ち上がっていくのでした。これから主人公くんが過去のトラウマと戦い、それを受け入れていく様子が期待されますね!!


  • なぜ挫折系主人公くんは面白いのか?
    • 主人公くんはかつて歴戦の勇士だったものの戦いに敗れた敗残兵。自分の安っぽいプライドに拘り安寧のために戦うことを辞めた人生の落伍者なわけですね。中島敦でいうところの「臆病な自尊心」と「尊大な羞恥心」。別に逃げることが悪いわけではありません。人間の一生には色々な目的があるのです。『火の鳥』の「黎明編」でも猿田彦がこう述べています。「俺はな三十年間仕えてきた…ただ一心に忠節を尽くすことで…三十年も人生を棒にふってきたんだ…そして…なにが残ったと思う?俺の馬鹿さ加減だったよ…だから…お前だけは俺のような青春をおくらせたくないのだ」と。一つの価値観に囚われるのではなく、別の人生の意義を見つければ良いのです。
    • しかしながら人間はそんなに簡単に自分の想いを変えることはできないので煩悶や苦悩に苛まされるのです。違う道を選ぶことも出来ず、だからといって立ち上がることもできないもどかしさ。ここで燻り続けながら堕ちていくことが主人公くんには架せられていくのです。『堕落論』タイムですね。「…人間だから堕ちるのであり、生きているから堕ちるだけだ。だが人間は永遠に堕ち抜くことはできないだろう…人間は可憐であり脆弱であり、それ故愚かなものであるが、堕ち抜くためには弱すぎる…堕ちる道を堕ちきることによって、自分自身を発見し、救わなければならない」と坂口安吾は述べています。ここで自己救済のきっかけとなるのが、少女の存在。『紅の豚』『ガンスリ』『ロウキューブ』『ころげて』など少女の存在が敗残兵を鼓舞し再び銃を握らせるのです。ここで主人公くんがオッサンで歳を重ねていたり、屈折していれば屈折しているほどそれが味となって出てきます。トラウマはそれを克服するものではなく受け入れるものなのです。