月に寄りそう乙女の作法2「銀条春心」シナリオの感想・レビュー

仕事が楽しみなら、人生は極楽だ!仕事が義務なら、人生は地獄だ!(ゴーリキイ『どん底』より)
自分が選んだ専攻の根源は何だったか!?楽しいからだろ?
そんなわけで銀条春心ことパル子さんの生き様を通して仕事の根源にある楽しさが描かれます。
他者が満足してくれることが自分の満足にもつながり楽しさを感じることができるという展開。
才華さんも両親へのコンプレックスを両親と違う道を選ぶことで克服し、人生を楽しむことに。
シナリオの背景にブルジョワジープロレタリアートの階級対立があるが途中でどっかすっ飛ぶ。

銀条春心のキャラクター表現とフラグ生成過程


  • 大玉転がしの玉に潰されたとかいう割とシリアスなはなし
    • パル子は平民出身の大衆系デザイナー。ネット上に店を開いて服を売ってる服飾科一般クラスの学生です。類い希なるパル子の服飾センスが主人公くんの琴線に触れ交流が始まります。言動からパル子は結構ぶっどんだキャラ表現なのですが単なるノーテンキなギャル枠ではありません。パル子は身体上二つの爆弾を抱えていたのです。幼少の頃、パル子は大玉転がしの玉から落ちて潰されるという事故に遭いました。笑い話のようですが事態は結構深刻で、「朝に一人で起床するとPTSDが発動してしまう」という障害と、「ストレスを感じると内蔵が破裂してしまう」障害を負ったのでした。それ故にパル子は勝負ごとや誰かに嫌われることを極端に嫌っており、コンテストでトップを狙って誰かと対立したり嫌みを言われたりするよりも、心安らかに暮らすことを選んだのでした。才華とは「朝」に対して恐怖があるという共感で繋がりフラグ成立。しかしパル子にストレスを与え続けるシステムが存在していました。それは一般クラスと特別クラスの対立です。一般クラスのパル子がデザインでグッドな評価を受けると特別クラスによる言われなき非難の集中砲火がパル子に向き、ストレス大爆発という寸法さ。そんなワケでアイルランド貴族のエストは才華を引き連れ特別クラスから一般クラスへと編入を望み、階級対立を解決しようと試みるのでした。



  • 階級対立と才華の価値観の転換
    • パル子が文化祭のショーで活躍すると特別クラスの先輩からヤキを入れられます。才華は未然にパル子への悪意を防げなかったことを後悔し、トイレでパル子をシメる上級生を成敗してしまいます。ここで才華に価値観の転換が訪れます。才華は自己が抱える三重のトラウマを解消すべく、輝かしい自己を周囲に認めさせることを目的としていました。しかし、パル子を助けるためとはいえ「暴力を振るった」という事実は、才華をして輝かしい自分を否定させしめるものでした。故に価値観を転換させて、パル子の信念に感化されていきます。階級対立からストレスに悩んでいたパル子でしたが超然としたフランス貴族ジャス子の影響を受け、何のために服飾に携わるのかの根源に辿り着きます。それはつまり他人が自分の作った服で満足してもらえると楽しいからという素朴な感情。才華もパル子の価値観を共有し、他者に満足してもらうことを知ったのでした。こうして階級対立を解消するための作戦がスタートします。それは年末のショーを参観しにくる特別クラスの保護者・家族に手作り衣服をプレゼントすることでした。ご都合主義的ですが関係者からの評価は上々で対立を解消させるとっかかりとなったのです。こうして才華は輝かしい両親の道からは外れたものの、自分で新たな価値観を作り上げて自立し、ハッピーエンドを迎えます。