罪ノ光ランデヴー(体験版)の感想・レビュー

メインヒロインの孤児が施設の解体に伴う別離に際し、放火事件を起こすことで罪の鎖で繋がろうとしたはなし。
しかしメインヒロインの哀(あい)が再会を望んで故郷に帰ると主人公くんはさっぱりと哀のことを忘れてしまっていた。
哀はショックを受けながらも、贖罪の念を抱く主人公くんに近づき、自罰意識で相互依存しようと歪んだ関係を求める。
この歪んだ愛憎エンドでも私は充分好きなのだが、主人公くんは哀を解放するため関係を解消する。
【中核となるメインヒロインとフラグ→一度は関係性が解消される→主人公くんがサブヒロインとの交流で成長→メインヒロインと再構築】
このメーカーの作品は同じシナリオ構造パターンに非常に拘りがあるようでペルセウスや前奏詩を想起させる。
既にセカイ系からは脱却して「人との繋がり」の社会性により主人公くんは成長していくようだ。
体験版では哀が全ての罪を被っていますが、主人公くんもまた罪を犯している可能性が示唆されている。

優人くんは結局、自分の罪を償いたいだけなんですよ。わたしの気持ちではなく、わたしの罪と過去との繋がりに興味があるんです。

体験版概要

  • メインヒロイン真澄哀(あい)の過去と帰郷
    • 真澄哀は主人公くんとの呪われた絆を確かめるために、過去に罪を犯した土地に帰郷してきます。哀の罪とは主人公くんの父親が経営する孤児院に放火したこと。かつて哀は孤児であり収容者の一人でもありました。その時、哀は、孤児院経営者の息子である幼少期の主人公くんと、一緒に絵本を読んだり遊んだりしながら淡い想いを重ねてきました。しかし哀は自分が思慕する一方で、主人公くんの優しさは特定の個人に向けた愛ではなく万人に向けた無償の愛だったことに気づきます。その証拠として哀は自分の名前を主人公くんに覚えてもらえていなかったことが分かったのです。。そんな折り、施設が解体されるはなしがでていたようです。このままでは主人公くんに自分の存在を忘れられてしまう。そう思った哀は、孤児院に火を付け主人公くんの父を焼き殺し、罪の意識で主人公くんと絆を結ぼうとしていたのです。こうして哀は自己の存在を主人公くんに刻んだと思っていたのですが・・・。
    • 冒頭での偶然の再会において、主人公くんはさっぱり哀のことを覚えて居ないことが判明します。衝撃を受ける哀。それでも哀は、主人公くんの意識の根底には女の子への贖罪の念がはびこっており、その象徴となる理想像の女の子を、常にモチーフとして描き続けていたことを知るに至ります。主人公くんが描く絵を垣間見た哀は、その女の子が自分であると意識したのでしょう(おそらく)。主人公くんに接近し、再び罪の鎖で繋がろうとします。ですが、ここで哀がとった行動は「自己満足の償い」。主人公くんに気づかれなくとも良いというものでした。この暗喩となっているのが「ごんぎつね」トーク。ここの描写すごく面白いと感じるのでオススメ。哀は「ごんぎつね」をモチーフにしながら、狐が罪を犯したからこそ、その他大勢の村人の中の一人から個人的関係が生まれ、「自己満足の償い」のなかにも、絆が芽生えたのだと唱えます。ここで主人公くんが「だけど自己憐憫のために最後の最後まで食べ物を届けたりしないだろう」とキツネの中の愛情を理解したことで、歪んだ関係が始まりを告げるのです。


  • 主人公くんの贖罪意識
    • 主人公くんは自分にはしなければならない二つの贖罪があると信じ込んでいます。一つ目は哀に関して。孤児院放火事件の時、主人公くんは確かな確証もないのに、蝋燭を手にしていた哀を放火犯だと宣告してしまうのです。「根拠もない決めつけ」を主人公くんはずっと悔いており、少女を傷つけたと思っていたのです。哀はこの罪の宣告を糧に以後の生活を送るのですが、ここで問題となるのは本当に放火したのが哀であるかどうかという点です。体験版では哀が罪の意識による絆を求めていたため、歓喜して放火犯であることを認めるのですが、ミスリードを誘ってるっぽい気もするんですよねー。実は放火したのは主人公くんであり、主人公くんはその記憶を封印しているだけで、実質は哀に罪をなすりつけ、罪を受けたい哀がそれを認めた!とか予想するのは深読みしすぎですかね?まぁ楽しみではある。
    • 主人公くんの贖罪意識の二つ目は母と姉に対して。主人公くんの父母が経営していた孤児院は、閉鎖的な村内において忌避されており、父を溺愛する祖母はそれを好ましく思っていなかったのです。それ故、火災で父が焼死すると祖母の怒りは母に向かったようで、村にはいられなくなってしまいます。こうして母は追い出されるかのように村から姉を連れて出て行ったのです。主人公くん自身は父親の残り胤ということで祖母から溺愛されており地主の子として何不自由なく育ちました。そのため主人公くんは追放処分を受けた母と姉に関して無意識な自責の念があるのでした。多分その姉が転校生その2の風香だと予想できます。風香が自分の半生を語ったとしても、とても今の主人公くんには受け入れられないと述べていることからよほど凄惨な過去があるのだと伏線が張られています。


  • 社会的連帯と歪んだ関係性の解消
    • 主人公くんは哀との歪んだ関係に自問自答していきます。【哀が自己満足の償いに幸せを見出し主人公くんとの埋没した日常の中に仄暗い幸福を掴んだ】ことに主人公くんは納得ができなかったのです。哀の日常の様子はたいへん幸せそうなものなのですが、どうしても時折影を見せていきます。ここで背中を押すのが村長の役割。おじさんが活躍する作品は結構好き。どうやら村長は孤児院放火事件の真相も哀と風香の正体も全て知っているようでした。苦悩する主人公くんに対し戦え!そして挫折し失敗しろと鼓舞します。挫折しても主人公くんは一人ではなく周囲に支えてくれる人々がいるではないか!!!社会的連帯、アンガージュマンサルトルもびっくりだ!!と唱えるのです。主人公くんは自分の贖罪の念に挑みます。
    • こうして自罰する二人が交差します。幼い日、少女に無根拠の断罪をしたと煩悶する主人公くん。一方で放火犯の罪にすがるメインヒロインの哀。二人が二人とも自分のことを罪人だと思い込んでいるところが面白いですよね。主人公くんは愛するメインヒロインのために全てを受け入れますが、ここでようやく哀から罪の告白を受けるのです。罪の意識に主人公くんとの繋がりを求め、その贖罪として将来の絆を求める哀。そんな哀を本当の意味で解放し、罪の鎖がなくとも向き合えるようにしたいと願う主人公くんは、哀との関係を解消するのでした。しかしここで関係を解消したことで本当の意味で「罪の鎖」が発動。何故かというと、今まで主人公くんが哀との過去を忘れていたために、二人の関係性は哀からの一方通行に過ぎなかったからです。こうしてペルセウスや前奏詩と同じ構図が成立しました。
    • さてさてここから主人公くんはどのようにしてサブヒロインズと情交を交わし、精神的に成長していくのでしょうか?サブヒロインたちはメインヒロインを攻略するためのパーツに過ぎないのがこのシナリオ構造の特徴なのですが、だからこそプレイヤーの記憶に残るようなシナリオ展開を炸裂させて欲しいものです。頑張れサブヒロインのライターたち!!


 

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