月に寄りそう乙女の作法0(ゼロ)「衣遠お兄様√」の感想・レビュー

衣遠お兄様の学生時代のはなし。衣遠お兄様は服飾専攻の価値を頭首に問われることになる。
服飾を続けるためにはコンクールで名を響かせ実績を示さねばならない。
そこに立ち塞がるのは衣遠お兄様の親友かつライバルのジャン=ピエール・スタンレー。
強大な才能を前に、歪んでいるが故に尊い愛情恋情友情パワーが総動員されて勝利する。
八千代、アルタ、ラフォーレと一癖も二癖もある衣遠お兄様のお友達をご覧ください。

衣遠お兄様、一世一代の大勝負の時


  • 服飾の道を続けるためには
    • 衣遠お兄様は試されていました。なぜなら大蔵家の総裁は衣遠お兄様が経営の道に専念するように仕向けたかったからです。総裁の意向まで退けて自己の選択を貫くためには、結果を示さねばなりません。芸術を目に見えるカタチで評価すること自体が間違っているのですが、即物的実用主義な大蔵家の皆さまには通じません。衣遠お兄様は自己のデザインでコンクールの賞を勝ち取らねばならなかったのです。そんなわけで、衣遠お兄様はアントワープの服飾学園のクリスマスデザインショーで1位になることを目的にして衣装作成に望んでいきます。


  • 衣遠お兄様√におけるヒロインその1:山吹八千代
      • つり乙ではルナ様付きのメイドとして登場する八千代の過去話です。八千代は衣遠お兄様と同じく東洋人ながらも異国の地で頑張ってきました。服飾にかけるその熱情とデザインを衣装にする際の卓越したセンスは衣遠お兄様の目に留まるには充分なものでした。八千代もまた衣遠お兄様の何ものも寄せ付けず邁進していく姿が留学生活の支えとなっていたのです。二人は会話を交わす前からナショナリズム的な同胞意識もありお互いの存在を意識していたのです。そんな八千代をジャンが研究チームに引っ張ってきたことから交流がスタート。この研究チームのメンバーは様々なコンクールで賞を総なめにしてきましたが、長らく受賞できていなかった八千代もついに受賞することができたのです。
      • 飲み屋でハイになる八千代と衣遠お兄様ですが、ここで八千代に問題が発生します。なんと八千代の両親が事故の加害者となり、自らも怪我を負ったため、保険金と貯金だけでは賄いきれなくなってしまったのです。八千代はメイドとして働くことになります。人身売買。これを知った衣遠お兄様は八千代の才能を買おうと自社に引き入れようとするのですが、八千代はこれを拒否。何も知らない状態だったら衣遠お兄様の力を借りたもしれないが、衣遠お兄様がヒトには言えない覇道を歩んでいることを感じ取ってしまっていたのです。衣遠お兄様は大蔵家の嫡男とされているものの実は奥様が前の夫との間に孕んだ子であり、大蔵家の血をひいていなかったのです。故に衣遠お兄様は安寧を得るためには大蔵家を打ち負かして独立することが求められていたのですね。当然、衣遠お兄様はそのことを誰にも言えず内密にしており、八千代はその覇道の際に自分が邪魔になると思って身を引いたのでした。こうして八千代は桜小路家の仕えるルナ様付きのメイドとなり、ルナ様に服飾を仕込み、それがつり乙における衣遠お兄様との対決に繋がるのですね。


  • 衣遠お兄様√におけるヒロインその2:アルタ・アルジェンタ
    • 宝石加工技術を持つアルバニア人。国家的な経済破綻による既存の価値観が崩壊していく様を目の当たりにしたアルタは、拝金主義者となっていました。そのため資産家である衣遠お兄様に接近してきます。しかしその実態は資産に釣られたのではなかったのです。アルタは経済破綻を経験する中で、従来権力を握ってきた政治家や教父や教師や警察などが絶望し無価値の人間であるかのように放心する様子を見て、それが自己を突き動かす欲求となっていきます。「力への意志」を持つ人間が絶望する様子を見ることがアルタを形作るものとなったのです。
    • そのため衣遠お兄様はアルタにとって最適な人材でした。自らの覇道を歩まんとする強い目を持ちながらも寄る辺を持たずに漂泊に苦しむその姿。アルタは経済破綻を経験した際、家や家族を拠り所として生きながらえることができたので、衣遠お兄様に対して帰れる家はありますかと問うのです。この問いは深く衣遠お兄様に突き刺さることになりました。アルタに対しては大蔵家を誇るのですが、大蔵家には衣遠お兄様の居場所などどこにもなかったのです。マンチェスターの屋敷でそれを実感する衣遠お兄様。ここで久方ぶりに遊星さんがちらっと登場し、衣遠お兄様の心を少しだけ揺り動かしています。
    • アルタは衣遠お兄様を評して「いかなる苦境に立たされようとも、どれほどの困難をぶつけられようとも、屈するのを拒否しそうな驚くほど黒い傲岸不遜な二つの目」と述べています。アルタはこの衣遠お兄様が挫折する瞬間を見たいがために衣遠お兄様を愛するという歪んだ愛情を抱きます。衣遠お兄様が挫折したら愛情はマックスとなりその後は捨て去られるのですが、だったら挫折しなければいいだけのこととアルタは衣遠お兄様に愛を囁くのです。アルタは衣遠お兄様を屈せさせるためにライバルであるジャンのもとへ走り衣装に自らの宝石加工技術を注ぎ込みます。一方で、衣遠お兄様はそんなアルタにコンクールのモデルをやるように依頼するのでした。


  • 衣遠お兄様√におけるヒロイン?その3:ラフォーレ・ハンデルスバンケン
    • 自らの進退がかかったコンクールで孤独となった衣遠お兄様。ここで友情パワーが発動し、つりおつ2のラスボス:ラフォーレが助けに来るところが見どころです。ラフォーレはジャンの信奉者なわけですが、それはジャンという才能を凡人たちが凌駕するためのロジックを組み上げるためなのです。ゆえにジャンの世界を見ようとして崇拝しているだけであって、その実はジャンを倒す気マンマンなのです。寝落ちする衣遠お兄様の所へやってきて縫製作業を手伝ってくれるのでした。こうしてラフォーレの下支えもあり、衣遠お兄様は衣装を完成させます。衣遠お兄様の勝利の決めてとなったのは、男性自らが着る衣装を輝かせるためだけの女性モデルの存在。つまりは衣遠お兄様に愛を捧げるアルタを完全に自己の作品の一部に組み込んだのです。女性モデルが完全に自我を殺せねば成し遂げられないことであり、アルタが衣遠お兄様に捧げる愛情がジャンという才能を打ち負かしたのでした。
    • こうして世界有数の学院で1位になるということは、大蔵家の頭首を満足させるのに充分であり、尚且つ頭首が溺愛するりそなにそれを語らせることによって、衣遠お兄様は信頼度をグッと上げるのでした。こうして危機を乗り越えた衣遠お兄様は覇道進撃を続けていくことになりました!というところでつりおつ1に続く裏話が回収されたのでした。

個人的名場面集

  • 芸術の原始的な感動
  • 孤独な衣遠お兄様
  • アルタの歪んだ愛
  • 衣遠お兄様の強き意志
  • つりおつ2の将来像〜衣遠お兄様の立ち位置〜
  • つりおつ2ラスボスの伏線
  • 衣遠お兄様とその友人たち