はじめに
1.1990年代の歴史教科書
2.愛国主義と現代史教育:2000年代の歴史教育改革
- モロゾフによる政府介入の必要の主張
- 90年代当時の授業は教師の能力と教科書の質によって大きく左右される問題があった。
- ドルツキーの教科書は対象年齢の生徒にとって難解。参考文献や資料の提示も不十分。
- 政府は教科書の多様性を維持しながらも、その質を保障するために一定の「枠」を定める必要があると主張。
- 一般の人々に共有される教科書への政府の介入を求める見解
- 2007年7月の世論調査→多くのロシア人が歴史解釈の多様性と、政府による教科書の質の保障が必要だと考えていることを示す。
3.第二次世界大戦の評価をめぐる論争の国際化と教師用教科書の出版
4.ロシア歴史協会の創設と「祖国史教科書の概念」の作成
- 「連邦構成、地方政策、地方自治、北方問題に関する連邦委員会」会議(2012年11月開催)
- 「歴史の歪曲」との対抗について審議。この問題は依然として重要な政治的課題であることをアピール。
- ロシア歴史協会(2012年創設)
- 目的
- 歴史の歪曲との対抗
- 国民的記憶を保存することでロシアの社会と政府、知識人、芸術家、歴史家を統合する。
- 目的
- 民族間関係委員会(2013年2月開催)
- プーチンの言及
- 連邦内の諸民族の相互理解を深める手段として、ロシア語教育とともにロシア史教育に言及
- 生徒の多様な年齢に対応すると同時に「単一の枠組み」に基づく歴史教科書が必要だと述べる
- 歴史教科書はロシアのあらゆる歴史を敬い、内容に矛盾が無く、ロシアの運命が多様な民族や伝統、文化によって形成されたことを示すものでなければならないと主張
- プーチンの言及
- 「新たな祖国史教科書・教育法参考書の概念(祖国史教科書の概念)」
- 2013年10月に開催されたロシア歴史協会会議で草案が正式に承認
- 目的:ロシア史に関する「社会的コンセンサス」の形成。
- 記述:古代から現代までのロシア史の概説を時系列的に記述。
- 教科書に描かれるべき重要な史実と人物、年表が記されている。
- 特定の歴史解釈を提示したというよりも教科書に書くべき史実を列挙したもの
- 巻末には「ロシア史の困難な問題」、つまり「激しい論争が存在し、教育が困難である」問題のリストが添付される。
- 現在のロシア社会に自国史に対する共通見解が存在しないことを示す。
5.9年生用ロシア史教科書の第二次世界大戦の描写
1)スターリン時代の描写
- 概観
- すべての教科書が最先端の研究成果を取り入れて当時の政治や経済、社会、文化の多面性を示そうとしている。
- 問題解決学習的な
- それぞれの教科書の節や章の末尾には生徒への課題が掲載されており、生徒自身に史実の意味を考えさせようとする工夫がみられる。
- 生徒自身に史実を調べさせ、その意味を考えさせようとする工夫は、それぞれの教科書が写真や政治指導者の演説、内務人民委員部の報告、日記や回想、手紙など豊富な一次史料を掲載している点にも見て取れる。
2)第二次世界大戦期の描写
論文をよんで
- 歴史教科書による「解釈」の重視と現場での実践の実態
- 本稿では歴史教科書の分析が行われ、20世紀ロシア教科書では歴史解釈の多様性や史実の意味を生徒に考えさせる工夫がなされていると紹介された。これは近年の日本の歴史教育でも求められていることであり、2017年現在における現行の学習指導要領(平成21年版学習指導要領)では各内容の大項目の末尾に主題学習が設定されていて、教科書にも配列されている。しかし実際に解釈や史実の意味を考えさせる実践がなされているかといえばそうではない。故に教科書と実践が乖離しているのだ。このような日本の状況を鑑みた上で、ロシアの歴史教育では果たして歴史解釈の多様性を考えさせる授業はまともに行われているのだろうか。もしきちんと行われているとするならば、日本の歴史教育の参考になるのではないか?