2020 KOTY in novel game.

斜陽産業となって久しいノベルゲーム業界ですが、今年はどのようなクソゲー・ネタゲー・地雷ゲーが登場したのでしょうか。ノベルゲー史の証言として個人的な雑感を書き残しておきたいと思います。私は基本的にはあまりkuso-gameだと感じることは少ないのですが、それでも思わずkusoと思ってしまった作品をご紹介いたします。体験版をやった時点でこりゃヤヴェーなと思ったゲームも含めて紹介していますので、もしかしたら製品版では大逆転してとても面白くなっているケースがあるかもしれません。また私の感性が異常なだけで一般的には良作という場合もあるかもしれません。その時はぜひ、このゲームはKusoではなく良ゲーだよと教えてくださいね!

【ノミネート作品】

『LOVE・デスティネーション』 (JADE)

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  • 既存の社会体制に対する怨恨が凄まじく、さらに漢字総ルビという破天荒っぷり
    • なろう系転生チート、人生再チャレンジモノです。主人公は低カースト身分の下層階級に甘んじる中年独身男性であり、その怨嗟が凄まじいものとなっています。特に近代社会を支える基盤である自由主義・民主主義・資本主義に対する怨恨が書きなぐられておりキツいものがあります。上級国民・政党・官僚・ブルジョワジーフェミニストジェンダーに対する一方的な逆恨みが綴られており、読み進めるのに多大なエネルギーを必要とします。
    • 転生した後でも女性へのルサンチマンがものすごいため、登場ヒロインたちが1ミリも可愛いと思えず、攻略する気が全く起きないようなキャラクター表現となっています。唯一カワイイのが主人公の親友ポジションの男友達であり、ひょっとすると男装ヒロインかなと思わせるような雰囲気が出ているのですが、男性器がついていることが明示されています。(もしかしたら製品版ではTSするのかもしれない)。
    • そして何より漢字に総ルビという怒涛のメッセージウィンドウ。小学校低学年で習うような漢字にもルビが振っており煩雑で読みにくいこと仕方がありません。オン/オフの切り替え機能もついていません。私が幼少の頃、ゲームの漢字にルビが振ってなくて一生懸命漢字を覚えたものでしたが、レーティング指定のノベルゲームで漢字総ルビとはどのような読者層を想定しているのかとツッコミを入れたくなってしまう作品でした。


 

『神様のしっぽ 〜干支神さまたちの恩返し〜』 (DESSERT Soft)

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  • フラグ生成のために構造が同じイベントパターンを12キャラ分繰り返すしんどさ
    • サブタイに干支神とあるように攻略ヒロインが12キャラもいます。また正妻メインヒロインは幼馴染の巫女であり、彼女を合わせると13キャラもいます。各ヒロインを個別ルートで攻略していくのならまだ負担が少ないのでしょうが、同じルートの一本道のまま12キャラ分攻略していくのでとてもしんどいです。
    • 体験版の流れとしては、みんなで一緒に食事をすることが目的として掲げられ、各キャラを攻略して食卓についてもらわなければならない、というものになっています。ヒロイン攻略のためのイベントは一定のパターンを踏んでおり、問題発生→トラウマ解放→好感度上昇→フラグ構築の繰り返しです。内容は変われど構造そのものは同じなので、何人分同じことをやらせるんじゃい!?と脳が死んできます。
    • さらにとってつけたかのような動物愛護問題でお涙頂戴展開になり白けてしまうこと請け合い。またギャグシーンがネットスラングやパロディの連発。多少入るくらいなら面白みもあるのですが、あまりにも多用されるので食傷気味になり、面白くなくなるという結果に陥ってしまっています。ひょっとするとライターがテキストのキロバイト数を稼ぐためだけにやってるのか?と思われても仕方がないシーンもチラホラ。体験版をやり抜くだけでものすごく根気が鍛えられることでしょう。


 

『墓多DYINGZOMBIES 〜Second Chance for BEAUTIFULLIVE〜』 (あかべぇそふとすりぃ)

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  • あまりにもゾンビランドサガの丸パクリである
    • もともとフランス書院などのエロラノベにおいて、流行している作品のテーマをオマージュすることはよく見られるものでした。また本作がパクっているゾンビランドサガそのものが、ノベルゲームと同様の構造を持つ(共通√→個別√→グランドエンドという流れになっている)ことが指摘されていました。だから別にゾンビがアイドルになるノベルゲームが作られてもおかしくはないのですが・・・本作は設定もキャラクター表現もあまりにもゾンサガ。佐賀が博多になっているだけ。寧ろよくこんな作品の企画が通って予算がついて制作されて世に出されたよなと感心することしきり。クソゲーというよりもネタゲーかもしれません。こういったイロモノ系ノベルゲーは予想に反して良作となり高評価を獲得することが稀に良くあるので、チェックだけはしていたのですが……やはり花開かず凡作となったようです。まぁ体験版をやった感触と同じような感じ。


 

『Re CATION 〜Melty Healing〜』 (hibiki works(暁WORKS響SIDE))

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  • 主人公クソ部門第1位
    • ノベルゲーでは読者の分身ともなるべき主人公のキャラクター造形もまた重要になってきます。物語性が重視された作品ではある程度主人公を客観視できるのでぶっ飛んだキャラでもいいとして、キャラゲーの場合は主人公があまりにもKUSOだと辟易してしまいます。本作品はキャラゲーである上に、主人公があまりにもKUSOっぷりを発揮するので少々ドン引きしてしまうのです。
    • 主人公はIT関係の仕事に従事する社会人なのですが、転勤後の地方勤務1年目にしてチームリーダーになり意気揚々。ここで主人公は自分の功績作りのために社畜っぷりをアピールしていくことになります。なんとクライアントからの無理な要求を自己判断で請け負ってしまうのです。上司は受ける必要はないし蹴っていいと助言してくれるし、後輩たちは受けたくない意思表明するのですが、主人公はそれらを無視して自分で仕事を抱え込み、頑張っている俺カッコいいとガンバリズムを見せつけて来るのです。ガンバリズムは決して否定されるものではなく、目標に向かって努力する姿勢は尊いものです。しかし頑張ることが評価されるので頑張るために頑張るという訳の分からない日本の労働環境の暗黒面を賛美するような主人公はちょっと遠慮したい。
  • ヒロインたちとのフラグ構築が粗雑
    • 主人公に言い寄ってくるヒロインたちも特に攻略したいと思うようには設計されていません。ライターがさっさとフラグ構築後のイチャラブイベントに持っていきたいのは分かりますが、好感度上昇イベントが粗雑であるため、ヒロインたちが主人公を利用するためにすり寄ってくるように感じられてしまいます。何の脈絡もなくご飯のおすそ分け攻勢を仕掛けてくる大家、コンプラ無視したアルハラを仕掛けてくる契約先の事務員、偏差値の高い有名国立大学の学生なのにタブレット端末すらろくに使えず主人公に教えてと頼んで来るJDなどより取り見取りです。また人気がある原画師としておりょう先生を起用した結果、既存のおりょう作品とヒロインのキャラデザが似たり寄ったりになってしまうという問題も発生してしまいました。(この後、原画師のおりょう先生は『アイベヤ2』でこれまでとは異なる新たなキャラ表現の境地を開くのですが、それはまた別メーカーでのお話)。


『まいてつ Last Run!!』 (Lose)

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  • メーカーによるレビュー投稿サイトへのデータ削除圧力から始まった一連の騒動
    • 満場一致で『まいてつLR』が2020年クソゲー大賞受賞作品といっても過言ではないでしょう。どうしてこのような結果になってしまったのでしょうか?全てのきっかけは11.22事件に遡ります。この日、まいてつのメーカーによりレビュー投稿サイトのデータが削除されました。一応の説明では、ユーザーが評価を巡って対立をしていることにその原因を求めていました。ではメーカーや作品そのものに原因は無かったのかと言うと、そうではありませんでした。
    • まず阿漕な商法・仕様について。『LR』にはアフターだけでなく前作無印も入っており事実上水増しになっていたこと、稀咲と真闇のアフターが無いと明示されていなかったこと、内容とはあまり関係のないVtuberの音楽ディスクが実質的に抱き合わせになっていたことなどが挙げられます。この時点でユーザーの不信感が醸成されていたといえるでしょう。
    • 次に肝心かなめのシナリオについて。どんな状態で販売されても、シナリオが良ければここまで炎上しなかったでしょう。しかしシナリオについても、ハチロクの主題すげ替え、オリヴィのテーマ性踏みにじり、グランドと中華におけるハイパーご都合主義など多くの欠陥を孕んでいました。つまり理由なくユーザーから低評価をつけられたのではなく、その下地は十分にあったのです。
    • それにも関わらず、レビュー投稿サイトのデータ削除圧力をユーザーの対立のためだとしてしまったため、一部のユーザーからは低評価の隠蔽工作だと受け取られ、あっという間に火が燃え広がってしまったのでした。最後にダメ押しになってしまったのが、修正パッチ乱舞です。メーカー側は11.22事件後に修正パッチ攻勢を発動しましたが、その内容を見てみると、メーカー自ら作りこみが十全ではなかったと認めたようなものです。最初からこの状態で売れよと多くのユーザーは思ったのではないでしょうか。
    • 『まいてつ Last Run!!』がクソゲー化してしまったその他の要因として現実世界における肥大化が関係しています。ゲームメーカーの本分はゲームを作ることだと思われますが、まいてつのコンテンツは町おこし・地域振興事業に深く関わりすぎてしまったのです。まいてつそのものの題材が鉄道を活用した観光振興による地域の活性化なので致し方が無いのかもしれません。しかしレーティング作品を公共性の高いコンテンツツーリズムに利用することには無理がありました。これを象徴する事件が第一次まいてつ炎上事件です。これは、まいてつのキャラクターIPを用いたグッズ(応援切符)が発売中止となったという事件です。この事件を受けて、まいてつはプレステ4のコンシュマー版を出し一般ゲーに擬態することで地域振興イベントまいてつ祭を成功させました。この時点でもうレーティング作品に戻ることは困難であり、一般ゲーとして羽化すべきだったのかもしれません。しかしそうすることはできなかったので『まいてつ Last Run!!』はどっちつかずの中途半端な出来になってしまったと言えます(それ故、修正パッチ乱舞でレーティング描写が大量に追加されることとなった)。
    • そしてまいてつがレーティング作品に戻ってしまったため、一般作として生み出されたのが『レヱル・ロマネスク』です。この作品はまいてつと同じ世界観を共有した別作品という名目で住み分けを狙ったものだと考えられます。しかしながら辿ればすぐレーティング作品に行き着いてしまうという懸念も孕んでいます。また、メディアミックス展開として『まいてつ Last Run!!』の発売に合わせ『レヱル・ロマネスク』を放映したかったのかもしれません。しかし『レヱル・ロマネスク』に力を割くくらいなら『LR』をもっとちゃんと作って欲しかったというのがユーザーたちの率直な想いなのではないでしょうか。