雑録

ぼくの一人戦争の感想・レビュー

友情や家族などの人間関係の尊さを「異界バトル」を利用して描いた作品。
人間関係を平然と切ってきた主人公くんが絆の恢復を結ぶという展開がポイント。
自分の固定観念による思い込みで見ようとしなかった関係性を見出す所はグッと来る。
しかし「絆モノ」のテーマは散々語り尽くされて同工異曲の作品が飽和状態であり少し食傷気味。
特に「家族の無条件信頼」は家族仲が悪いプレイヤァさんたちには説教されてる気分になること請け合い。
ちなみに選択肢は無く一本道で攻略ヒロインは犬塚るみオンリーである。

永治帰郷編


  • 兄の蓮司は弟の永治を見捨てて人間関係を切る
    • 永治が帰郷するプロローグ。基本は弟の永治視点ですが視点操作ギミックで永治と蓮司の視点を混同させるようにしミスリードを誘います。里見家は離婚後、父が蓮司を、母が永治を引き取りました。母と永治は故郷を棄てて都会へと移り住み、そこで下層階級として底辺な生活を送ることになります。母は水商売で働いたのち死亡し、永治もチーマーとなります。そしてとうとう永治はホームレス狩りでオッサンを殺して臭いメシを喰うことになるのでした。永治の釈放後、田舎に残った蓮司は不憫に思ったのか、弟を引き取ることになります。交通事故で片足を失い、父を癌で亡くした蓮司は兄弟二人で生きようとしたのです。しかし永治と蓮司は価値観の違いからか相容れることはできませんでした。蓮司は永治に学校生活や温かいメシ、友人などを与えるのですが、イキナリの押しつけに過ぎずフラストレーションが溜まっていきます。永治は医者の息子であり自称不良の徹から財布とケータイを巻き上げ、ついには蓮司の婚約者のるみを強姦しようとします。このことにブチ切れた蓮司は肉体言語で鉄拳制裁。自分で故郷に呼び寄せながら3日と待たず弟を見切り、東京の慈善団体の身元引受人に送り返したのでした。この蓮司の「人間関係の見切りの早さ」が物語を動かしていく伏線になっていきます。また永治は、蓮司がどうしようもない危機に陥った時「家族の無条件信頼」の装置として「蓮司に救いをもたらす」存在の役割を担って再登場します。

蓮司の一人戦争編


  • 異界バトルについて
    • 蓮司はいきなり異界バトルに巻き込まれます。他者および自分に対してマイナス感情を露わにしたとき異界が発生し怪異スタート。蓮司は王となり、自分と関係深い人間を手駒として召還し、敵から自分を守らせるタワーディフェンス型のバトルを行うことになります。敵を殲滅すると異界は終了し、現実に舞い戻るという寸法です。蓮司は自分の仲間達を召還しながらバトルを続けていくのですが、そのうちに恐ろしいことが判明します。バトルにおいて手駒の仲間が敵に殺されると、現実世界において関係性が断絶されてしまうということです。またバトルの中で王自身が死ぬと、現実世界において自分本位な振る舞いをするようになり人間関係を崩壊させてしまいます。こうして蓮司には現実において仲間との人間関係を深めながら異界でバトルを繰り広げる日々が幕を開けたのでした。蓮司は人間関係を消費するかのようにバトルを進めなくてはならず、この戦いを通して仲間との関係性を見つめ直していくことになるのです。



  • 工藤命の教職人生
    • 蓮司が自分の意志で初めて召還したのが工藤先生です(※一人目のるみは無条件召還される)。工藤先生は蓮司の学校の日本史担当の教諭。比較的年齢も若く、学生に近い価値観を持っているので、生徒たちからの信頼関係も厚いです。工藤先生は蓮司が片足を亡くし辛い思いをした時に、陰に日向に支えてくれた存在でした。強がりで自分の弱さを他者に見せない蓮司にとって、先生だけは自分の弱さをさらけ出すことのできるお姉ちゃんでもあったのです。蓮司はバトルを通して工藤先生と繋がりを強めていきますが、現実世界においても工藤先生の悩みを分かち合いたく思うようになるのです。工藤先生が教職になった理由は幼少期のトラウマが原因であり、それ即ち兄を階段から突き落として殺したという罪悪感によるものでした。教職人生を送る中で贖罪を果たそうとする工藤先生は、夜回り先生よろしく生徒の悩み相談なども請け負うのですが、それが原因で自分の立場を悪くすることもしばしば。生徒の色恋沙汰に巻き込まれて中途退職を迫られます。これに対し蓮司は工藤先生の「兄を階段から落として殺した」罪悪感をサクッと解決。工藤先生は階段の上を寝床にしていたのですが、それは兄が夜中に1階にいかないようにするため。なぜ1階に行かせないようにしたかというと、両親が知的障害者である息子をめぐって夜な夜な夫婦ゲンカを繰り広げていたから。これは蓮司の解釈の域をでるものではありませんでしたが、工藤先生の救いとなりました。以上により蓮司は工藤先生との関係性を強化したのですが、油断によってバトルで工藤先生を死なせてしまったのです。異界バトルで死なせてしまうと現実での関係が断絶してしまうという実証の第一弾となるのでした。



  • スクールカーストの覇者!前脇しのぶ
    • 前脇しのぶは知識労働担当の軍師タイプ。学校生活の人間関係を掌握しスクールカーストの上位として立ち回っています。そんなしのぶと蓮司が関係を持ったのは、足を失い復学した蓮司が学校生活でしのぶを凌ぐ評価を得るようになったからでした。蓮司はハンディキャップを感じさせないため、義足でも平然と振る舞い、成績でも上位を叩き出し、体育にも参加して学校生活に馴染むように必死に努力をしていきます。その様子を見たしのぶが調子こいている蓮司にヤキをいれようとしたことから関係性がスタートするのです。家に花壇を作ろうとした蓮司は父親の許しが得られず学校の裏山に花の種を植えようとします。そこへしのぶがやってきて蓮司に牽制をいれるのですが、蓮司はしのぶとの知的会話を大いに楽しみ、人からの評価を気にしてばかりのしのぶに対し「花は咲くでしょ?毎日見てなくたってそのうちさ。僕らのために咲いているんじゃないんだから」と会心の一撃。こうして裏山の花壇は二人の交流場所となり人間関係が育まれていきます。学校の生徒の相関図を掌握しているしのぶは、るみのイジメ解決にも大いに役立ち、蓮司がイジメの首謀者をとっちめることにも貢献します。また、根暗で引っ込み思案で流されやすい錦戸結花を引っ張り回し、自立を促したのでした。軍師しのぶは異界バトルでも大いに活躍したのですが錦戸結花を庇って死亡し、現実での関係が断絶するのでした。



  • 根暗ヒロイン錦戸結花の人生再建
    • 錦戸結花は地方豪族の娘で良いところのお嬢様です。しかしながら主体的な意志には乏しく両親の顔色を窺いながら生きてきました。両親の期待に応えるべく習い事や勉強を頑張るのですが、引っ込み思案な性格が災いして両親の失望を買ってしまいます。英会話教室では積極的に発言できず、高校入試の時には頭が真っ白になり第一志望校に落ちてしまいました。また学園生活でもイジメ集団グループに目をつけられてしまい言いように命令されてばかり。最終的にイジメグループからも追放され、今はぼっちとして学園生活を過ごし、ついには両親からカナダへ留学するように命じられてしまうのです。異界バトルにおいて召還されても、結花は最初は戦おうとせず膝を抱えてばかりであり、ついには結花を庇ってしのぶが死亡してしまいます。自棄になって異界バトルに敗れた主人公くんはペナルティとして自分本位となり友人関係を無くしていくのですが、ここから結花の人生再建が始まったのです。結花は記念式典の実行委員長に立候補し、しのぶから託された「個人情報&相関図ノート」を利用して、委員会を引っ張っていきます。そこにはかつての引っ込み思案で根暗だった姿はどこにも見られません。当初は反感を買っていた結花でしたが、懸命に頑張る姿は周囲の心を打ち、徐々に雰囲気を変えていきます。蓮司も結花の姿勢を垣間見ることで自分本位ペナルティから恢復し、式典準備の手伝いに励んでいきます。異界バトルにおいても結花は札束の入ったスーツケースで殴るファイターと化し覚醒成功。結局、結花は途中退場してしまうのですが、蓮司に異界バトルと戦うことを決意させたり、崩壊しかけた友情を再建させたりする装置の役割を果たしました。


  • 弓道少女岡部沙代の煩悶
    • 蓮司に恋心を抱いていたことをポロッと言ってしまったがために関係を断絶されてしまった少女。蓮司の「人間関係の見切りの早さ」を浮き彫りにする装置としての役割を担っています。沙代イベントで中心となるのが、箱根旅行での人間関係再構築。るみと沙代の出会いも語られます。沙代は一見すると元気系少女として片付けられてしまいそうですが、内面には複雑な感情を抱いていました。それが部活問題で発露することになります。沙代は弓道の腕前もピカイチで部活に熱心に取り組んでいたのですが、顧問が引き抜かれ部活が弱体化すると周囲の人々からやっかみをうけることになってしまいます。沙代がホントウに弓道が好きでそのために練習をしていればさほど問題は無かったのですが、沙代は弓道よりも「部活をみんなですること」の方が重要だったのです。何とか部活を立て直そうと沙代は奮闘したのですが、親友のるみにまで肉体的イジメの被害が及ぶとさすがに堪えることはできませんでした。先輩やチームメイトに啖呵を切ると、個人戦で関東優勝を飾り退部したのでした。沙代がいなくなった弓道部は当然空中分解。沙代はいつまでもそのことを気にしており、また弓道を辞めてしまったために自分のアイデンティティが崩壊してしまったのです。蓮司は沙代の複雑な心境を理解することで新しい側面を発見し、それを承認することで人間関係を再構築していきます。ウジウジとしている沙代に対して、それでもいいじゃないか、人間だもの的な承認欲求を満たしてあげるのです。作中では「いまの沙代のように高コストで戦えない人を認め、新しい人間関係を切り開き、ともに困難を乗り越えていく」と表現され、沙代は覚醒。主砲として遠距離攻撃の役割を果たします。

るみの一人戦争編


  • 異界バトルの「王」がるみにチェンジされていた
    • 異界バトルが一段落ついた頃、メインヒロインのるみの様子がおかしくなります。なんと今まで蓮司が王として異界バトルを戦っていたのに、今度はるみが王として仲間達を使役して戦うことになっていたのです。しかも蓮司は一度異界バトルに召還されて死んでいたとのこと。異界バトルでの死は王との関係断絶を意味し、蓮司はるみの存在を忘れていたのだといいます。それでもるみは蓮司との人間界を一からやり直していったのです。そこまで蓮司のことを想っていたるみですが、蓮司が意識を復活させると、こんどはるみが蓮司のことを忘れるようになっていきます。それはなぜでしょうか?るみは異界バトルにおいて仲間を召還せず、自らの死を選んでいたのです。異界バトルにおける死は現実世界における人間関係の崩壊、つまりは自己本位的な人間になることを意味します。るみにとって自己本位に振る舞うということは、蓮司よりも家族を大切にし、故郷の田舎で家族と暮らしていくことだったのです。さらにるみに悲劇が襲いかかります。るみにとっての異界バトルでの無条件召還の相手は実母だったので、異界バトルで母を死亡させてしまったことは現実世界において母から忘れられてしまったことを意味していたのです。蓮司のことを忘れ、実家に帰ろうとするるみでしたが、実家に帰っても母親はるみのことを認識できないというわけです。蓮司は自分がるみの兄の友人で姉の知り合いであると身分を偽り、優しい嘘をつきながらるみをなだめつつ生活を送ることになったのです。


  • 家族の無条件承認〜るみの家族編〜
    • るみ問題の最大の争点は蓮司の存在と家族を天秤にかけていたことに起因しています。つまり、蓮司はるみの家族をカスだと見なしていたのですが、るみにとって家族はかけがえのないものだったのです。確かにるみの家庭は世間一般にとって良いものではありませんでした。寝たきり老人の祖母、水商売で荒れている母、不良の姉、デブでニートの兄と勢揃い。さらにるみがイジメを受けていても放任し、その孤独を理解しようとはしませんでした。蓮司は足を失って苦しい時にるみに助けられて以来、るみのイジメ問題を潰してきたのですが、その際に母親に談判しにいった折り、その態度に失望し、るみの家族を見切ってしまったのです。ここでも蓮司の「人間関係における見切りの早さ」が根本的原因となっていました。るみの家族たちの対応は、るみ家にとってはフツーの距離感であり、るみのためにネットを引いてやったり習い事をさせてやったり気さくに話してやったりと良い感じな側面もまた持っていたのです。蓮司がるみ家に対して嫌悪感を持っていたことが、るみにとっての最大の軛となっていたのでした。家族はどんなになっても家族であり絆が存在する。そのことにようやっと気づいた蓮司はるみの家族と和解します。するとどうでしょう!?蓮司と家族を天秤にかけるというるみの苦しみはあっさり解決し、るみは蓮司のことを思い出すのでした。

長門大地とのラスボスバトル


  • 仲間の絆で総力戦 → 失敗
    • 蓮司がるみの家族と和解し、るみは蓮司を思い出してハッピーエンド!かと思いきや、シナリオはもう一捻り残されていました。それがラスボス長門大地との戦いです。長門大地はこれまで異界バトルの経験者として蓮司に様々なアドバイスを与えてきたのですが、それは全て罠にしかすぎなかったのです。るみは攫われ、蓮司は長門大地の弟子となるように強要されます。長門大地との繋がりを絶つにはどうすればいいでしょうか?蓮司はここで異界バトルを利用することを思いつきます。異界バトルでの死は王との人間関係の断絶を意味します。すなわち異界バトルに長門大地を召還して敵に殺させせば長門大地との関係も切れるというものです。蓮司は覚醒し、仲間達を再び集め、異界バトルを主宰して長門大地を召還します。蓮司たちの作戦は良い感じに敵を間引きながら、長門大地を殺させるというものでした、しかし長門大地はいくらたっても召還されず、他の仲間が殺されて異界バトルが閉じてしまいます。それはなぜでしょうか?なんと長門大地という人格と呼称は数多ある人格と呼称のうちの一部にしか過ぎず、長門大地はいくつものアイデンティティを内包していたため、異界バトルに召還できなかったのでした。蓮司は絶望に打ちひしがれ、長門大地は弟子にしてやるから明日迎えに来ると言い去っていきます。



  • 自分ではなく他人の世界と認識が、ぼくを、作る〜蓮司と永治編〜
    • 絶望にひしがれた蓮司を救ったのは、自分が見切った永治の存在でした。ご都合主義的にタイミング良く永治が故郷に舞い戻ってきます。価値観の違いから蓮司は永治を見切っていましたが、ここで家族の無条件承認が発動します。永治が兄の蓮司をスゲーと尊敬する認識が、蓮司を復活させたのです。蓮司のやり方では更正できなかった永治でしたが、東京では肉体労働をやりながら頑張っているとの話を聞かされます。また、永治の話から両親の離婚の真相が判明します。もともと母親は精神障害者であり、父親はそれを承知で結婚したものの、結局は上手くいかなくなり別れたのだと。そして永治から御守りが差し出されます。母と蓮司と永治の三人で神社に行った時、蓮司が欲しそうにしていたけれどもねだらなかったあの御守りです。この永治の行動により、長門大地が蓮司についていた嘘が判明したのですね。母親は“会”の王となったので離婚したのではないということ。また長門大地からもたらされた御守りは偽物だったということです。ここで伏線回収タイム。工藤先生の調査により“会”の王となる条件は先代の王の遺骨を所持していることが条件であると分かっていました。長門大地から渡された御守りには先王の遺骨が入れられていたというわけです。それを母親からの贈り物として所持していた蓮司が王になったと。るみが王になったのは、蓮司が御守りを入れていた財布を買い物などで使用していたからだと。これらのことが、永治によって本物の御守りを渡された事によって分かったのでした。



  • 車輪でいうところのとっつあんを嵌めたのと同じパターン
    • 永治のおかげで真相を知った蓮司の逆襲が始まります。蓮司を弟子にするため家に迎えに来て勝手に上がり込んでいた長門大地の靴の中に先王の遺骨を忍ばせておいたのです。そして長門大地に殺意を見せながら上手い具合に異界バトルが開かれる空間まで誘導し、“会”を発動させたのです。当然、先王の遺骨を所持している長門大地が王である“会”として異界バトルが展開されます。召還されるのは近年最も執着していた人物として蓮司が選ばれるのもまた当然でした。そして「異界バトルで裏切りにあい王が手駒に殺されてしまうと王の存在は完全に消滅させられてしまう」という伏線も回収されるのですね。手駒となった蓮司は異界バトルで王としての長門大地を殺害、その存在を消滅させたのでした。長門大地との戦いに勝利した蓮司ですが、その命は風前の灯火。また、1回目の総力戦の時に断絶されていた仲間との絆を無理に戻したことからの反動も襲いかかってきます。途切れゆく意識の中で、初めて蓮司は他者に自分の弱みを口にすることになります。するとどうでしょう!今までの仲間達が次々と集結し蓮司を支え大団円を迎えたのでした。エンドロールが流れ、蓮司が意識を覚醒させると、そこには蓮司の世話を焼くるみの姿が!!るみは蓮司が意識を飛ばして精神崩壊している間、蓮司の自己本位の願いであった「アメリカでデザインの仕事をしている」というフリを続けてくれていたのです。るみを支えて支えられて人間の絆を知った蓮司はハッピーエンドを迎えます。以上により、「人間関係を早々に見切ってしまっていた少年が友情や家族などの人間の絆の強さを知る」というテーマが描かれたのでした。