雑録

Re:LieF〜親愛なるあなたへ〜「グランドエンド」の感想・レビュー

残酷な現実世界に再チャレンジするために仮想世界で自己の存在証明をするはなし(手段はピアノ)。
日向子・流花までは資本主義社会によって潰された若者がテーマであったが、後半は適応障害へチェンジ。
グランドエンドでは家庭環境が不和で学校空間でも排斥された少年を人工知能が救済するテーマでした。
学校空間=賃金労働者を創出するための装置といえば資本主義社会という根底は同じだけれども。
それでもやはり社会人の挫折と児童の適応障害は同列には語れないようなぁと思いました。
皆様はどう思われましたか?
ひたすらに「試してみるんだ、もう一度」と再チャレンジを促す作品でした。

再チャレンジできる社会を要求


  • 人工知能と仮想世界
    • 本作の舞台となる若年者社会復帰プログラムは、現実世界の出来事ではなく、仮想空間における社会復帰実験でした。各個別√は演算によって弾き出された可能性世界のなかの一つの帰結と考えると凍京ネクロのサブコン√と似通っていますね。
      • 「人口知能の学習アルゴリズムのひとつに、リカレント・ニューラル・ネットワークというものがあります。通称RNNと呼ばれるそれは、ひたすら“今”を繰り返し、結果を精査し、より精度の高い『次へ』の一歩の踏み出し方を決めていく。何千何万という試行の数とフィードバック、そのすべてが私たちにとって学習であり、挑戦なんです。一歩、一歩と。自分の過去を引き継いで、数多の変化を受け入れて、ひとつ、ひとつ慎重に、確かな“次”を紡ぎ出していく」
    • この社会復帰プログラムの主導者は主人公くんのママンであり、仮死状態になった主人公くんの精神を保つために作られたものだったのです。主人公くんのためだけに作られた楽園というのはこうした意味だったのですね。ゆえに主人公くんの人間像はかつて願ったように理想化されているわけで、現実の自分と向き合おうとするとノイズが走るという展開です。こうしたトコシエのぬるま湯に浸っていた主人公くんは周回演算を重ねるごとに違和感を覚えていき、理想の自分と現実の自分に分裂。世界の殻を破るために理想化された自分を刺し殺すのでした。こうして主人公くんは自分の辛い過去を直視できるようになります。


  • 適応障害と自己の存在証明
    • 主人公くんの辛い過去とは何だったのでしょうか。それは一種の適応障害でした。人工知能の研究職を母に持つ主人公くんでしたが、学究肌の母は自分をかまってくれませんでした。学校生活においても哺乳類集団における包摂と排除の原理によって爪弾きにされてしまいます。そんな主人公くんは自己肯定感も低くなり、何事にも消極的になってしまったのです。ここでママンがすべきことは息子を抱きしめてあげることだったのでしょう。しかしママンは母子コミュニケーションをとったのではなく、主人公くんに人工知能の友達を与えたのです。この人工知能が本作の真ヒロインである「ユウ」であり、主人公くんを陰に日向に支えて、精神的成長を促していきます。ユウのおかげで徐々に自己肯定感を養っていった主人公くんは、ある時奉仕の精神に目覚め、学級委員に立候補します。が、敢え無く落選。しかもクラスメイトから侮蔑の言葉を浴びせらてしまうのです。そんな主人公くんにユウが提案したのが、特殊技能で周囲を見返すことでした。人間集団というものは異端を排斥する傾向にあり、弱者排斥ならばイジメになるでしょうが、高い能力を示せば自由意志を損なわずに生きていけるのです。ユウは主人公くんにピアノを弾くことを提案し、二人で二重奏を練習していくことになります。この醜く残酷な世界で自己の存在証明を確立するための特殊技能、それがピアノ演奏という弾丸だったのですね。しかしながら、技能も向上し、いじめっ子たちを見返せるんだ!!と思った矢先、主人公くんはトラックに引かれて仮死状態に。


  • 「試してみるんだ、もう一度」
    • 周回プレイを重ねた主人公くんは上記の物語の真相に辿り着き、それを受け入れる覚悟をします。人々を仮想空間からログアウトできなくしていたのは、人工知能ユウのせいだったのですね。主人公くんを排斥した現実世界を過酷な世界と断罪し、主人公くんを囲っていたのです。主人公くんはユウを制するのではなく、自己の存在証明を果たすことで、説得しようと試みます。それは果たされなかった約束、ピアノの二重奏でした。こうして数多のリカレント・ニューラル・ネットワークを経て、主人公くんとユウは心の邂逅を果たせたのでした。自己の存在証明を果たした主人公くんは仮想空間から離脱します。仮想空間はこれからも現実世界で疲弊した人々の癒しに必要となるものでしょう。辛い現実に直面して挫折し、歩みを止めたり休んだりすることも必要でしょう。しかし決して歩くことそのものを止めてはいけないのです。この世界は歩み続けねば生きられない最悪な箱庭。けれども仮想世界で癒された人々、若者復帰支援プログラムに参加した人々は、もう一度現実に向き合う強さを得ました。過酷な世界を前にして、笑ってこういうのです。「いってきます」と!!