アイヌのハッサムコタン、入植と屯田兵村、近代工業(缶詰工場)、京アニ版『Kanon』の美坂栞ルートを題材にしたツアーコースです。
目次
- 1-1「琴似」の地名の由来
- 琴似の地名の由来はアイヌ語の「コッ・ネイ」であり、「低くくぼんだところ」という意味。1871年開拓使が尊名をつける時、この附近に住むアイヌが呼んでいた地名を当てた。
- 1-2屯田兵村発祥の地
- 1874年7月に屯田兵制度が発足。開拓使は1874年12月までに208戸の兵屋を建設、翌75年5月に青森県、酒田県、宮城県、道内から入植が始まり、琴似兵村と呼ばれた。琴似への入植は本道開拓と北方警備のテストケースであり、これを契機として道内未開発地へ次々と兵村を建設し、1904年の屯田兵条例廃止まで約30年間続いた。
- 1-3.屯田兵以前の琴似地区
- 1854年、箱館奉行村垣範正などがこの地域を視察。将来性を認め、翌55年に500石以下の旗本の次男三男を発寒在住として開拓と警備にあたらせた。
- 参考文献・サイト
- 2-1.札幌景観資産第1号
- 札幌市は「札幌景観資産」の指定を行っており、地域の良好な景観を生み出そうとしている。景観形成上価値のあるもの、意匠や様式が特徴的なもの、将来のまち造りに活かせるものを対象としているが、その第1号が日本食品製造合資会社旧工場なのである。
- 2-2.缶詰工場
- 昭和初期に建てられたスイートコーンなどの野菜缶詰工場。モデルはカリフォルニア州サクラメント。れんが造りとノコギリ歯の屋根が特徴的。蔦で覆われているが、煉瓦にオーツ(オート)・ミールという白い文字が書かれているのだとか。現在は札幌のローカルFM放送局である「三角山放送局」のスタジオとして使われている。
- 参考サイト
3.八軒会館
- 3-1.旧琴似村・町役場跡
- JR琴似駅の北側にある八軒会館に、札幌軟石で作られた役場正門の柱の遺構が残され、プレートの解説が掲げられている。また隣には「天皇陛下行幸記念碑」が建てられている。
- 3-2.八軒とは
- 山鼻地区には東本願寺の農民が入植していたが、開拓使は山鼻地区に新市街地建設を計画していた。そのため、先住入植者たちを他へ移転しなければならなかった。代替地には円山、琴似が当たられたが、琴似には、8戸、24戸を分散して割当てた。琴似への移転者は、移転戸数をそのまま地名にした。そのため、八軒と呼ばれる。ちなみに24戸の方二十四軒という地名になった。
- 参考サイト
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4.琴似本通り
- 4-1.概要
- 北五条手稲通とJR琴似駅を南北に結ぶ1.2㎞の道路。正式名称は道道琴似停車場線。
- 4-2.屯田兵村中央道路
- 1874年の北海道初の屯田兵村設置に当り、兵屋の中央道路として設置された。当初幅10間で、208戸の兵屋の本通であった。隊員の集合場所や広場にも使われた。10間幅の道路の両側に整然と兵屋が並び、現在の西区役所横の西消防署あたりが兵村の中隊本部、区民センターや琴似小学校附近は練兵場であった。
- 4-3.兵村廃止後
- 1904年、屯田兵村が廃止されると沿道に多くの商店が並び、琴似市街地の中核道路となったので本通と通称されるようになる。
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5.桑園・発寒通り
5-A.通りから見るアイヌ語地名
- 5-1.桑園
- 1875年、開拓使が南1条以北、西8丁目以西の地域に桑を植えることになった。酒田藩の旧武士たち157人が21万坪の土地を開き、桑を植えて帰った。本州からの入植者には養蚕を進め、桑畑に指定されたので、桑園と呼ばれるようになった。
- 5-2.発寒
- 発寒の語源はアイヌ語の「ハチャム・ペッ」であり、「桜鳥川、ムクドリのいる川の意」と言われている。
- 和人にその名が知られたのは17世紀頃から。1669年のシャクシャインの乱後の蝦夷地調査で津軽藩隠密の牧只右衛門の聞取書に「はっしゃぶ」の地名が現われたのを筆頭に、1700年に松前藩が幕府に提出した『松前島郷帖』、『元禄御国絵図』や石狩13場所、松浦武四郎の探検日誌『後方羊蹄日誌』などに見られる。
- 「発寒」の漢字が当てられたのは1871年で、開拓使によって琴似とともに正式村名となる。
- 幕府による在住制度(旗本や御家人に土地や手当金を与えて北方警備と蝦夷地開発を行う)により、幕臣山岡精次郎、大竹慎十郎、永田休蔵らが先駆的に入植。1876年に琴似屯田兵村に続いて32戸の発寒屯田が入植し、発寒村の基礎を築いた。
5-B.琴似駅周辺のアイヌのコタン(琴似駅南西・琴似4条1丁目)
- 5-B-1.琴似駅周辺にはハッサムコタンがあった
- 「〔……〕ハッサムコタン跡地(西区琴似4の1附近)はJR琴似駅のすぐそば。近くには琴似発寒川の流れがあり、かつてはシカが多かったという。ここでも川とコタンが切り離せないことが分かる。80年(明治13年)の札幌-手宮(小樽)間の鉄道開通、続く琴似駅舎開設とコタンの消滅は時期を同じくしており、加藤さんは著書(※引用者註-加藤好男『19世紀後半のサッポロ・イシカリのアイヌ民族』サッポロ堂書店、2017年)で鉄道影響も示唆している。」(「明治に消滅 アイヌ民族の集落 コタン 札幌の一等地に」『北海道新聞』2017年9月14日、21頁)
- 6-1.概要
- 語源は上記「発寒」でも述べた「ハチャム・ペッ」で「桜鳥がいる川」。手稲山南部の山峡から発し、小支流を集めながら阿部山のすそで平和の滝にかかる新川水系の川。
- 6-2.発寒川と琴似発寒川は異なる河川である
- もともと発寒川は新川水系の河川ではなく、明治中期に新川大排水が整備されるまでは石狩川に注いでいた。現在の北区と石狩町との境界を流れる発寒川は琴似発寒川と明確に区別されていて、琴似発寒川は発寒川の本流となっている。
- 6-3.コンテンツツーリズム 京アニ版『Kanon』の美坂栞ルートでの登下校の場面として使用される。
- 配置的には、琴似発寒川の下流が学校であり、川の左岸を遡りながら南下して下校していく。長栄橋で左折し東(地下鉄東西線琴似駅の方向)へ行くのが美坂姉妹の家、上流へ進むのが祐一の居候している水瀬家という位置関係になっている。
- 京アニ版『Kanon』の栞ルートで重要な役割を果たすのが、この琴似発寒川。まず美坂栞とはどんなキャラクターか説明しておく。栞は末期のホスピスであり、それ故、姉の香里と姉妹問題を抱えているという設定である。主人公の祐一と出会った時にはカッターで自殺しようとしていたのだが、祐一と交流する中で、最後の時間を過ごすことになっていく。割と強い。その一方で栞の姉の香里は、妹の死に耐えられない。いつも仲良くしていた大好きな妹が死んでしまうという危機に直面し、精神が蝕まれた香里は、栞を無視することで自我の均衡を保とうとする。死生観を巡る題材の中で、姉妹問題を解決することが、栞ルートのメインテーマとなっているのだ。
- 京アニ版『Kanon』では、栞が末期のホスピスであることを、香里から知らされるのだが、その場面となっているのが、この琴似発寒川なのである。また、最後の時間を過ごすために学校へ行くことを許可された栞が祐一と放課後に一緒に下校するシーンにも使用されている。琴似発寒川沿いを歩くことで、栞が最後の時間を必死に生き抜こうとしている姿と香里のジレンマが思い返されるであろう。
7.長栄橋
- 7-1.橋の欄干がおススメ!
- 長栄橋の橋の欄干は琴似が屯田兵村であったことを題材にデザインされており、屯田兵屋や切り株、馬に乗った屯田兵、薪割りなどをモチーフしたものを目にすることが出来る。
- 7-2.『Kanon』で頑なに栞を拒む香里を説得したり、栞と寄り道や昼食で弁当を共にする約束をしたりする。
- 『Kanon』ではルートごとに攻略ヒロインと関係の深いサブヒロインが登場人物として配置されている。栞ルートで用意されているサブヒロインが姉の香里であり、上述のように美坂姉妹の関係性は拗れてしまっている。栞ルートは香里の問題点も焦点に挙がっており、愛する妹の死に耐えられない姉が、妹の存在自体無かったことにしようとしてしまう。祐一は最期の時間を精一杯生きる栞の生を悔いの無いものにしようと尽力し、これからの人生に残されてしまう香里のためにも、二人の和解を目指して奮闘するのである。
8.二十四軒手稲通交差点
- 8-1.地名「二十四軒」の由来
- 上記3-2の「八軒」参照。上述の通り、1871年に開拓使が山鼻地区の市街地化に伴い、既存の入植者たちの他地区移し替えを行った際に、移転戸数「24戸」がそのまま地名になったことに由来する。
- 8-2.地名「手稲」の由来
- アイヌ語の「テイネ・イ」(濡れているところ、湿地の意)を語源とする。明治初期までは北部一帯の原野が湿地帯であったことに由来している。
- 8-3.栞の名言「そんなこと言う人、嫌いです」
- 90年代末~ゼロ年代初頭の作品では、キャラクターの印象を強めるために独特な言い回しや口癖を付与することが多い。そのような中で、栞が繰り出す言葉は記憶に残るものとなっている。栞といえば「起きないから、奇跡って言うんですよ」と「そんなこと言う人、嫌いです」が有名であるが、このうちの後者を二十四軒手稲通交差点で述べるのである。弁当を作ってくると申し出る栞に対して、祐一がどんなに不味くても全部食ってやると請け負うと、栞がこの台詞を述べるのだ。普段、儚い雰囲気のある栞が年相応に祐一に甘えてくる様子が何とも微笑ましいではないか。
9.二十四軒・手稲通り
9-A.琴似トップレジデンス前
- 9-A-1.栞の溜息
- 京アニ版『Kanon』でここが背景となっているシーンは2種類あり、第1話の名雪による街案内で、名雪が祐一とじゃれてポカポカパンチを繰り出すシーンである。この場所は自販機が目印になるのだが、2019年6月27日現在、自販機は無くなっていた。聖地喪失のパターンである。
- もう一つのシーンは、祐一と次の日に会う約束をした栞が溜息をつく描写である。死期が近い栞が、最後まで生き抜く決意をし気丈に振る舞えども一人になった時に出てしまったであろう溜息だと思うと意味深である。
9-B.琴似3-5、2-4交差点
- 9-B-1.彷徨う香里
- この場面は電信柱の標識が目印なのだが、これまた2019年6月27日現在では剥がされてしまっている。また漢方の店は薬局に変わっている。作品ではどのようなシーンで出てくるかというと、妹と顔を合わせづらい香里が夜の街を彷徨う描写の背景として使用されている。香里の心情を表わすかのような電柱である。
10.琴似屯田兵村兵屋跡
- 10-1.兵屋番号133番
- 琴似は最初の屯田兵村が出来た地域であるが、現在兵屋が2軒残っている。そのうち、兵屋番号133番は当時とまったく同じ位置に復元されたものである。現地で入手したパンフレット、札幌市教育委員会『国指定史跡 琴似屯田兵村兵屋跡』によると、1875年の屯田兵入植時に、開拓使から宮城県亘理郡小堤村野出身の清野専次郎に住宅として与えられた第133号の兵屋であるとのこと。1970年に保存修理のために解体され、72年に復元され、ほぼ最初に造られたままの姿で残ってことが書かれている。兵屋の内部にも入ることができ、土間、いろり、縁なしの畳、雨戸が見られる。兵屋の裏手には当時の畑を再現して作物が植えられており、周囲にはメムが湧いていた。
11.琴似屯田歴史資料館
- 11-1.まちづくりセンターの2階の1室にあります。
- 琴似本通沿いに南下すると進行方向右側(西側)に琴似二十四軒まちづくりセンターが見えてくる。この建物の2階にあるのが、琴似屯田歴史資料室である。月・水・金の3日間しか開かず10時~16時という時間制限もあるので、訪問するのはなかなか難易度が高い。開拓当時の写真や、屯田兵使用の道具、農機具、生活用品などが展示されている。
12.屯田の森
- 12-1.屯田兵村時代を思わせる森林と碑文
- 琴似屯田歴史資料館の隣にあるのが屯田の森。現在の西区役所の場所には屯田兵の中隊本部があり、その前面に当時の面影を残すために森林が広がっている。ここには各地にあった屯田兵の碑文が集められている。
13.琴似神社(琴似屯田兵屋)
- 13-1.士族授産と戊辰戦争と御祭神
- 13-2.兵屋番号140番
- 現在、琴似には2つの兵屋が残っており、一つ目は上述した兵屋番号133番であるが、2つ目の兵屋番号140番は琴似神社内にある。これは1964年に移築されたものである。兵屋番号140番に居住していたのは佐藤喜一郎氏であり、屯田兵になる前からこの地に居住しており、1875年に屯田兵に応募して入所した。琴似神社で入手できるパンフレットには佐藤喜一郎氏は狩猟の名人であり熊を何匹も狩っていたことが紹介されている。ちなみに2018年の北海道の地震の影響で耐震性に問題があるらしく、2019年6月27日現在、中に入ることは出来なくなっていた。
- 13-3.カラスの襲撃
- ちなみに琴似神社ではカラスが猛威を振るっており、筆者は襲撃を受け、参道を逃げ回ることになった。カラス本当に怖い。鳥居の前にはカラス防御用のビニール傘が置いてあるので使用した方が良い。人を襲うカラスは『動物のお医者さん』で読んではいたが、本当に直接物理攻撃を受けるとは思いもしなかった。
14.北洋銀行琴似中央支店前
- 14-1.京アニ版『Kanon』第1話 名雪の街案内で北川&香里と遭遇する場面
- 名雪は主人公である祐一の従姉妹である。『Kanon』は祐一が叔母の水瀬家に居候するため、7年ぶりに雪国にやってくるところから始まる。京アニ版の『Kanon』では視聴者に雪国の生活実態を共感してもらい、作品に入りやすくさせるために、名雪による街案内が始まるのである。その際、同級生の北川、栞の姉である香里と遭遇するのが北洋銀行琴似中央支店前の道路を挟んで向こう側、現在イオンがある場所である。
- 札幌の地下鉄は札幌オリンピックのため!?
- ゴムタイヤ車両
- 札幌の地下鉄は、他の都市の鉄道とは異なり、二本のレールの上を鉄の車輪で走るのではない。一本のレール(中央案内軌条)を挟み込み、両側のゴムタイヤで走行する。
- 網棚が無い
- 札幌の地下鉄には網棚が無い。これには諸説あり、長時間長距離の移動を前提としておらず、利用区間が短いことを想定して作られたなどが伝聞として伝えられている(史料的根拠は無い)。
- この札幌の「地下鉄に網棚が無い」ことは、ハドソンのドリームキャスト参戦第1号となった北海道観光誘致をテーマにしたノベルゲーム『北へ。White Illumination』でもネタにされており、空港からヒロインの居住地(平岸)へ移動するシーンで出される選択肢のネタとして利用されている。