雑録

Summer Pockets REFLECTION BLUE「水織静久」シナリオの感想・レビュー

伝統芸能「自己の有用性」・「記憶リセット」・「親との和解」の三点セットが炸裂。
嫌なことを忘れてしまう静久に忘れたくない嫌な記憶を与えるというギミック。
そのために紬も主人公も静久との別離を選ぶというビターエンドがグッとくる。
主人公が部活問題や親との対立と真剣に向き合うのもこの静久ルートならではのもの。
比翼連理な相互依存の2人が自立して独自の道を歩むという切なさも情緒がある
終局部で夏の終わりに別れた3人のメタファーであるぬいぐるみを映す場面は破壊力抜群。

水織静久のキャラクター表現とフラグ生成過程

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  • 自己の有用性によるアイデンティティ
    • 水織静久は(学校では)成績優秀・才色兼備の完璧超人。しかしそれは周囲の空気を読んで他者から理想化された自分を演じてきた結果に過ぎなかったのです。期待されてそれに応えて喜んでもらえて嬉しくなってまた期待に応えるという無限ループ。これにより作り出されたものは虚像の自己像に過ぎませんでした。「自分が価値のある人間だ」という自己の有用性によって自己同一性を求めるというパターンはよくあることですが、当然のように限界があり、それに直面した際に一挙にアイデンティティクライシスを迎えるのです。静久も例外ではなくカラッポである自分に気付くのでした。そんな静久を癒すのが紬と主人公だったのです。二人は学校での静久を知らず、地を出している状態の静久から仲良くなります。それ故、世間での評価基準に価値づけされた静久ではなく、静久そのものを好きになったということが出来たのです。
    • また主人公が静久の心情を理解できた背景として、主人公の水泳部トラウマを上手く利用しているところも味わいがあります。本当は泳ぐことが好きで水泳を始めたはずなのに、結果を残して褒められて周囲の期待に応えるために泳ぐようになってしまい、結果を残せなくなると精神崩壊というメンタリズム。そんな二人だからこそ、静久は主人公を癒し、主人公は静久を支えることが出来たのです。比翼連理の相互依存。

 
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  • 記憶リセット
    • 静久ルートでは記憶リセットの問題を解決することが主な内容となります。静久はヒステリックな母親に虐待まがいのことをされていましたが、それでも母親のことを大好きであったため、母親を嫌いになることが出来ませんでした。幼少期の静久は自己防衛のため「忘却」を発動し、嫌な記憶は全て忘れるという方法で対処したのでした。この時のトラウマは成長した今でも尾を引いており、静久は嫌なことがあったらその記憶がすべてリセットされてしまうのでした。しかし嫌な記憶だけでなく、紬や主人公との楽しい思い出もリセットされてしまうので、主人公は愕然とします。特に恋人関係になった後の記憶リセットには堪えきれず、恋人になったことは本心では嫌な記憶だったのかと疑心暗鬼に陥ってしまうのです。しかし、この疑心暗鬼問題は解決方法がやや粗雑で、主人公が問題解決に至るのではなく第三者(鏡子さんや蒼)などによってアッサリと解消されます。主人公と恋人関係になったことまで忘れてしまったのは、静久の両親の仲が悪く罵倒しあう姿を嫌になるほど見せられたので、恋人などいらないと願ってしまったからというオチ。

 
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  • 親との和解
    • 静久が自己の有用性をアイデンティティの確立に求めたのは親からの愛情を受けられなかったため価値のある自分で武装する必要があったからでした。また記憶リセットも母からの虐待に耐えるための防衛機制でした。これらの問題を根本的に解決するためには母親と和解することが求められます。静久の母親と鏡子さんが先輩後輩の関係であったことから、主人公は静久の母親と接触し、なぜ虐待をしてしまったのかの理由を知ることになります。母親との和解に使われた手法は、しろはとの合作カレーチャーハン。子どもを束縛しコントロールしようとする母親に適度な距離感を取ることの大切さを説くためにカレーチャーハンの寓話が挿入されるのです。学園生活において生徒会長の静久はぼっちなしろはの世話を焼こうとしますがそのせいで二人の関係は微妙なものになってしまっていました。しかし二人が一緒に料理してカレーチャーハンを作った時にはお互いの距離感を見つけたためうまく行きました。人間関係にはそれぞれの適切な距離感が重要なのだということを、カレーチャーハンを作った時の思い出として母親に述べたのです。お互いのことを思うがゆえに、向き合って本音で話すことが出来なかった二人が、新たな関係を築いていこうと前向きになれた瞬間でした。

 
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  • 嫌なことを忘れてしまう静久に忘れたくない嫌な記憶を与える
    • 上記のように根本原因である家族問題を解消した静久でしたが、記憶リセット問題を解決するための更なるダメ押しが行われます。それは「嫌なことを忘れてしまう静久に忘れたくない嫌な記憶を与える」というものでした。ここで活躍するのが紬の役割であり、わざと静久に嫌われるために心にもない嫌いという言葉を紡いでいくシーンは泣きゲーの真骨頂とも言えるでしょう。紬の正体はくまのぬいぐるみの付喪神であり所謂奇跡によって顕現している一時的な存在に過ぎないため(紬√参照)、夏の終わりには別離が待っています。それを静久に嫌われてそのまま別れるという流れに持って行ったのは匠のワザマエ。
    • また、紬とだけでなく主人公とも別離エンドとなります。主人公と静久の距離感は比翼連理な相互依存でした。その関係は傷ついた羽根を癒すためには適切でしたが、傷が治った後では自立の足枷になるものでした(相互依存ぐちゅぐちゅエンドもある)。それ故、いったん二人は関係性を解消し、自分の力で生きていかねばならなかったのです。ここで主人公は紬に倣ってわざと静久に嫌われるような言葉を発し、恋人関係を解消したのでした。これもまた「嫌なことを忘れてしまう静久に忘れたくない嫌な記憶を与える」という形式美だったのですね。
    • こうして3人は未来の為に散り散りになったのですが、終局部では3人が離れていても一緒であったことのメタファーとしてぬいぐるみが用いられます。主人公と静久は疑似結婚式を挙げた際に、紬の発案でぬいぐるみを用いて誓いの言葉のシーンを再現していました。この時のアヒルと牛のぬいぐるみがくまのぬいぐるみを挟む形で提示された一枚絵は紬√と静久√を読んだプレイヤーを感慨深くさせること間違いなしと言えるでしょう。

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