『まいてつ Last Run!!』の「シナリオ」は本当に低評価だったのか?~その原因を探る~

現在ユーザーの評価を巡って炎上している『まいてつ Last Run!!』(11.22事件)。
評価規準は色々と分かれるかと思いますが「シナリオ」は低評価だったのでしょうか。
ここではまいてつLRのシナリオが低評価である理由を詳しく解説していきたいと思います。
実際にシナリオをプレイした上で分析すると決定的な低評価の原因として以下のものが挙げられます。

  • 1.ハチロク問題
    • ハチロクアフターなのに実質はオリヴィ√であり、ハチロクルートの主題は中華ルートで雑に回収された。
  • 2.オリヴィ問題
    • ハチロクアフターではオリヴィを主役に据え死生観を描いたのに、自らその主題を踏みにじった(アッサリ複製体と転生体が出現する)。
  • 3.凪ふかみ問題
    • 選ばれなかったヒロインの心情描写を描いたのに2人とも選ぶよエンドで台無しになった。
  • 4.日々姫問題
    • 個人的なエゴを解決するため、全体の目的を手段化し、私的に公共を利用する
  • 5.ハイパーご都合主義展開(グランドルート/中国ルート)
    • 国策レベルの課題に主人公の「思い付き」が悉く成功し賞賛される。

一応擁護しておきますとポーレットアフターやニイロクルートは(それなりに)良作だったと思います。

【目次】

1.ハチロク問題

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  • ハチロクアフターなのに実質はオリヴィ√であり、ハチロクルートの主題は中華ルートで雑に回収された。
    • ハチロクアフターの主題は「機械人形であるレイルロオドと人間の間の恋愛は成り立つのか」という問題でした。しかしハチロクアフターではオリヴィが主役になり代わり「例え子孫が残せなくとも想いは残せる」というテーマに挿げ替えられてしまいます。もしかしたら、これがハチロクアフターの主題に対する答えなのかな?とも一瞬思ったのですが、中国ルートまでプレイすると決してそんなことは無かったのだと分かります。中国ルートでレイルロオドと機関士の間の恋愛が題材となりハチロクアフターの主題がアッサリと解決されるのです。レイルロオドは機械などではなく別の生命体の「種」なのであり(ハチロクアフターでもやるけど)、機能解放すればレイルロオドの能力を失う代わりにフツーに人間としての生命を生きられるとのこと。これの何がプレイヤーの間で低評価となったかというと、当初はハチロクアフターの主題でレイルロオドと人間の間での恋愛問題をテーマにしていたのだから、中華でやらずにハチロクでやれよということ。しかも中華の間でこの機能解放は公然とした事実であり割とカジュアルに行われているものでした。ハチロク√であんなにも重々しい雰囲気を醸し出していたのは一体何だったのかと。さらにはハチロクの妹たちもシーリング解放して機関士たちと結ばれていたことが判明し、あまりに雑なテーマ回収にプレイヤーたちはショックを受けたのだと思われます。

2.オリヴィ問題

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  • ハチロクアフターではオリヴィを主役に据え死生観を描いたのに自らその主題を踏みにじった(アッサリ複製体と転生体が出現する)
    • ハチロクアフターでハチロクに取って代わって主役となったのがオリヴィ。テーマは「子孫は残せなくとも想いは残せる」であり、延命措置を図るのではなく最後まで自分の職務を全うしたいというオリヴィの心意気が描かれます。ムナカタから継承された保線技術が自分によってさらに伝達されていく・・・別に子作りをしなくても自分を受け継いでもらうことはできるというテーマは、ハチロクの恋愛劇に対するアンチテーゼでもありました。オリヴィが最後の命の輝きの中で、ムナカタと共に列車を走らせながら死んでいく様子はプレイヤーに感動と涙を与えたでしょう。しかしながらその感動はラストで粉々に破壊しつくされます。なんとオリヴィはアッサリ生き還ってしまうのです。しかも2体も。1体目はオリヴィの子どもとも言えるべき存在で新しい複製体でした。ここまででしたらモヤモヤ感は残りますがまだ許容されたかもしれません。しかし2体目はオリヴィの記憶を持っている転生体のレイルロオドだったのです。実質オリヴィは生きていたのです。ここでプレイヤー達は死んだんじゃなかったのか・・・死んでも想いが残せることがテーマだったのではないのか・・・と愕然とすることになったのです。こうしてライターさんは自ら描き出した感動を自ら踏みにじってしまったのでした。

3.凪ふかみ問題

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  • 選ばれなかったヒロインの心情描写を描いたのに2人とも選ぶよエンドで台無しになった。
    • 凪ふかみアフターでは機関士になる凪と車掌を目指すふかみの成長が描かれるのですが、選択肢分岐によってフラグへし折りを要求されます。どちらか一人を選ばなければならないのです。そして選ばれなかった方のヒロインの感情を読まなければならないのです。ただでさえ主要ヒロインの非ハチロク√において恋に破れたハチロクの心情描写が挿入されるので、マルチエンド式のゲームにおいてなかなかのストレスを課すことになります。それでもこれらは否定されるべきものではなく、ヒロインの悲しみや切ない情緒を表すという意味では成功していると思います。では何が低評価なのかというと、二人とも選ぶエンドがあるということ。あれだけ選ばれなかったヒロイン問題やっておいてハーレムエンドがあるとはこれ如何に!?しかも内容がぶっ飛んでいるのです。現在の婚姻制度を否定せずに三人で結ばれたいとか言い出しさらに社会からも承認を受けたいとのたまい法改正を目指すのです。そしてまたその解決方法がコネとかツテとか有力議員を巻き込むとかそんなの。最後はアッサリと法は通って新しい家族関係の在り方はLGBTの人々とかレイルロオドとかも家族になれるのでやったね☆となります。

4.日々姫√問題

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  • レイルロオドたちの雑な扱いと個人的なエゴを解決するための私的な公共利用
    • まいてつ無印の頃から色々と問題視されていた日々姫√について。社会保障と福祉を犠牲にした新自由主義路線を取りながら、利益誘導で自分たちのエゴは達成しようとする市政運営が当初から問題になっていましたが、この辺りは他の方々が論じているので、ここではレイルロオドたちの問題を取り上げます。
    • 日々姫アフターでは食堂車の新車両を開発し富裕階層向けの観光列車を走らせることがメインとなります。しかしながらレイルロオドたちの扱いがあまりにも雑。まずハチロクの妹分としてみくろが出てくるのですが、このみくろの扱いがオリヴィの独自性を食らってしまっているのです。オリヴィは合衆国出身であることを活かして専用の機関車を持たず、何にでも対応できるその汎用性がウリとされていました。しかしハチロクの妹分のみくろも割とサクッと自分の機関車ではないD51を扱えてしまうのです。確かにみくろの専用機関車はボイラー故障でもう二度と動かないという設定にしてしまったため、もう一度みくろを機関車に乗せるには致し方なかったかもしれません。しかしながら専門性と汎用性の違いとかをピックアップしてオリヴィ√で扱ったのは一体何であったのかと思わずにはいられないのでした。もしみくろを別の機関車に乗せるのなら適応するための苦難の乗り越えなどの描写が無いと非常に薄っぺらく感じられてしまうのでした(そんなシナリオの尺は無いか?)。
    • 日々姫アフターにおけるレイルロオド問題の二つ目が新食堂車付きのレイルロオド(の描写)の不在です。日々姫アフターのメインテーマに据えられていたのが新食堂車の開発であったことは上述しました。それならば新食堂車付きのレイルロオドは是非とも登場させねばならないでしょう。しかし立ち絵どころか描写すら殆ど無く、まるで不在のように扱われてしまっています。その原因として挙げられるのは、あくまでも新食堂車開発は目的達成のための「手段」にしか過ぎないこと。その本質は姉及び実家の酒蔵の首領から認められることだったのですね。そのため新食堂車、新食堂車と連呼しながら、それが単なる手段に堕してしまったのでした。だからこそ、新食堂車に随従するレイルロオドの存在は薄くなり、あんなにも新食堂車の開発を掲げていたのに、何やねんとプレイヤーたちは思ったのでした。
    • そしてこの問題の根本は市政運営の問題とも繋がるものでありました。すなわち、自分たちのエゴを解決するために公を私的に利用するというもの。日々姫たちが目指すものの途中に鉄道復興や地域振興、市政運営があるだけ。それ故、鉄道、地域、市政などの陳腐化が生じてしまっているので、日々姫√の評価は他の√と比較して、細部だけでなく√そのものの評判が良くないのでしょう。

5.ハイパーご都合主義展開(グランドルート/中国ルート)

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  • 国策レベルの課題に主人公の「思い付き」が悉く成功し賞賛される。(「ぼくの かんがえた さいきょうの てつどう かんこう しんこう」)
    • まいてつの前作はまだ地域振興レベルだったので、「思いつき」が全て成功するご都合主義でもそれほど目くじらたてるほどではありませんでした。しかしグランドルートでは「思いつきの成功」が九州ひいては日本全体、中国ルートでは中共の観光政策への提言にまで発展します。次々と成功する「思いつき」のラッシュにプレイヤーたちはついていけなくなってしまいます。特に中国ルートでは主人公の発言に対し「さすがです」「御明察です」「素晴らしいです」のオンパレードが炸裂します。あまりにも称賛され褒め称えられるので読むのはとてもしんどいです。そして中国の若者に鉄道を用いた観光に関心を抱かせるための政策として提言されたのが、スタンプラリーだったというオチ。プレイヤーたちは一体どんな政策提言をしてくれるのかとそれだけを頼りに必死に読み進めてきたのにスタンプラリー・・・。中国の方が高等教育機関のレベルも日本より数段上なのに(セイカ大学やペキン大学など)、観光政策においてスタンプラリーを思いつかないだと・・・。しかもスタンプラリーの提案が褒めちぎられるだと・・・ひょっとするとリップサービスで言っているのか?とプレイヤーたちは困惑。
    • そして中共の経済を扱うのに社会主義市場経済共産党一党独裁をスルーしてしまいます。主人公が中国の地方都市を視察するシーンがあるのですが、屋台におけるオンライン決済を体験し支払いシステムが完成しており経済発展だ☆とか言って無邪気に喜びます。現金だと偽札・釣銭誤魔化し・カネの中抜きが行われるという商業の腐敗問題は一切述べられず、さらに電子決済にすることで中共が個人情報を管理するという点もスルーされたのでした。

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Cf.各ルートの詳細はこちらをご覧ください


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