呉市の観光資源として旧海軍遺構はよく知られているし、日本遺産にもなっている。
だが呉市にはもう一つ日本遺産がある。それは北前船の寄港地であった「御手洗」の港である。
呉市の島嶼部は「安芸灘とびしま海道」として4つの島を一体化しサイクリングで観光振興を図っている。
「御手洗」はサイクリングのゴール地点、4つの島の東端:大崎下島の東端に位置している。
また「御手洗」の他にも歴史資源はあり、下蒲刈島の三之瀬という地域は朝鮮通信使の寄港地であった。
つまり「安芸灘とびしま海道」を巡ることで御手洗・三之瀬と2種類の文化遺産に触れることができるのだ。
それ故今回はレンタサイクルを借りて、安芸灘とびしま海道を訪問することにした。
【menu】
1.レンタサイクルでサイクリング
- ママチャリ勢はクロスバイクだとしんどい
- 安芸灘とびしま海道はサイクリングコースで地域おこしをしているので電話で予約しカネ(配車・返却各1000円)を払えば仁方駅まで自転車を持ってきてくれる。クロスバイク(2000円)と電動付きミニヴェロ(3000円)を選べるが、電動付きの方がいいかと思われる。私はクロスバイクを選んだのだが、所々にしんどい坂道があるので素人にはキツイ。あとクロスバイクは前傾姿勢を取らねばならずサドルに股間(袋の付け根あたり)があたって鈍痛がくる。瀬戸内海を見ながら優雅にチャリを漕ぎたい層は電動機付きにした方が良い。あとスタート地点の安芸灘大橋からゴールの御手洗までそれなりに距離があるので復路で絶望しかけた。
- 島内は信号が一つしかなく、サイクリストのためにブルーラインが敷かれてコース取りまでされているので、サイクリング観光としてかなり力を入れて整備されていることが分かる。この事業を体験するだけでも色々と勉強になるので、レンタサイクルを地域の周遊に取り入れようとする/取り入れている人々は体験してみるのも良いかもしれない。
2.三之瀬と朝鮮通信使
- 松濤園
- 安芸灘大橋を渡って一つ目の島、下蒲刈島にはいってすぐの三之瀬という地域に松濤園という文化施設がある。ここには富山県砺波市・山口県上関町・広島県宮島町の日本建築が移築されており、それぞれ朝鮮通信使資料館、灯火器を集めたあかりの館、陶磁器を集めた陶磁館となっている。(上記の建築が三之瀬とどのような関係があり何故移築されることになったのかは謎であったし、灯火器と陶磁器を集めたのも謎であったので知っている人がいたら教えてください)。陶磁器館は初心者も分かりやすく陶磁器を学べるようになっており、染付、赤絵、色絵の違いや関ヶ原に敗れた鍋島藩が将軍家に取り入る為に採算度外視で陶磁器制作に取り組んだことなどを知ることができた。
- 朝鮮通信使資料館は、ユネスコの「世界の記憶」に登録された「朝鮮人来朝覚御馳走船行列図」を目玉にしている。朝鮮通信使の饗応の様子がメインであり、当時出されたもてなしの食事の再現が主な展示品であった。広島藩の財政的な負担や文化人の交流などにも触れられてはいたが、広島藩における朝鮮通信使の歴史的意義などの側面がもう少し分かれば良かったかもしれない。当時の食文化などに関心がある人にとっては興味深い展示なのかもしれない。
3.御手洗と北前船
- 江戸時代中期~幕末維新の歴史
- 江戸時代になると航海技術が発達し、従来の「地乗り」に変わって「沖乗り」が行われるようになるのだが、そのための「潮待ち・風待ち」に使用された港が「御手洗」であった。1666年に広島藩により町割りが行われて江戸時代中期~幕末維新にかけて繁栄したものの明治以降は急速に衰退。しかしその分、江戸時代の町割りや建造物が多く残されることになり、国から重要伝統的建造物保存地区として選定を受けている。
- 御手洗の日本遺産の構成要素の中でも特に推されていたのが、「若胡子屋跡」であった。港町のために人工的に形成された地域では必然的には性的消費が求められ花街が発生する。御手洗には広島藩から認可された4件の茶屋があったが、現存している建物はこの「若胡子屋跡」だけである。諸国色里番付においては西前頭11番目にランクするほど隆盛を誇っており舟に遊女を乗せてサービスを消費させる独自の船舶などが紹介されていた。
4.安芸灘とびしま海道とコンテンツツーリズム
- 『モヒカン故郷に帰る』と『たまゆら』
- レンタサイクルを借りた時に最初に渡されるサイクリングマップにコンテンツ作品のロケ地が記されている。安芸灘とびしま海道が公式として認めているのが、『モヒカン故郷に帰る』と『たまゆら』。アニメツーリズムでは『たまゆら』の聖地は竹原市として登録されているのでは?と思って調べたら主要登場人物の一人「桜田麻音」というヒロインの実家が御手洗で旅館をやっているという設定とのこと。アニメ内では御手洗港・恵美須神社・石の高燈籠・歴史の見える丘公園・七卿落遺跡・乙女座などが出て来るそうな。この辺も観光資源としてもっと掘り起こしが出来そうだが、呉市は『この世界の片隅に』推しであり、アニメツーリズムとは距離を取っているように感じられる(艦これとのコラボを公式ホームページで情報を流さない等)。