【感想】ウマ娘 シンデレラグレイ 第三章「1989年群雄割拠編~イナリワンの編入・メジロアルダンの奮闘・スーパークリークの成熟~」(77話~101話)

有馬記念タマモクロスは引退し新年を迎える。
笠松のオグリに続けと言わんばかりに、新年度には大井からイナリワンが参入する。
だがオグリたちは怪我に泣かされ、イナリとの対決は秋に持ち越させる。
そして季節は秋となり怪我から復帰したオグリたちとイナリワンの対決が始まった。
毎日王冠ではアルダンに焦点が当てられるがオグリキャップが勝利を飾る。
秋天ではクリークとシングレオリキャラトレーナー奈瀬文乃の絆が描かれクリークが1着となる。
領域対決となりがちだった本作で領域を捨てたクリークが作戦とスタミナで勝利した感動的な戦いとなった。

【目次】

イナリワンの中央編入とオグリたちの怪我

イナリワン東京大賞典に勝利して中央へ殴り込み!

大井に所属しているイナリワン。彼女はオグリキャップに続く中央編入を目指していた。彼女が大井で最後に出ることになったのは東京大賞典(1988.12.29)。カサマツの全日本ウマ娘カップ(全日本サラブレッドC/1988.11.23)ではフェイスノーモアに負けてしまったが、大井では一発勝って景気づけにすることを目指していた。イナリワンが中央へ行くことを良く知る顔馴染みたちは何としてでもイナリワンを勝たせまいとあの手この手を仕掛けて来る。リズムを崩されると弱いイナリワンはカッカしてしまい敗北コースへまっしぐら。だがそこへBBAトレーナーの一括が入り冷静になったイナリワンは郷土愛を炸裂させ大井の名を中央に轟かせる夢を思い出す。こうしてイナリワンは領域(ゾーン)の入口に達し見事1着となる。東京大賞典で勝利したイナリワンは堂々と中央へ殴り込みを仕掛けるのであった!一方でオグリたちは怪我人続出。オグリを始め、クリーク、ディクタストライカと怪我に悩まされる療養の日々が続く。そんな彼女たちが不在の中央では、イナリワン春天(1989.4.29)で勝利するなど大暴れをしていた。
 

毎日王冠(1989.10.8)~オグリVSイナリVSアルダン~

メジロアルダンと紅茶の話

療養を経て季節は秋へ。オールカマーで復活を遂げたオグリは秋天を目指すが、その前哨戦として毎日王冠に挑む。毎日王冠は2度目であり今度のライバルはイナリとアルダン。アルダンは個別回が挿入される程の優遇っぷり。怪我に泣く場面でばあやから紅茶をメタファーとして人生訓を語られる。このシーン結構好き。「苦みが残る紅茶を美味しく頂くにはどうするかご存じですか?今一度じっくり寝かせるのです。すると渋みが落ち着き丸みを帯びてくる。セイロンやダージリン。茶葉ごとに適した熟成期間があり開き方も変わる。最高の状態に至る道筋はそれぞれ違うということですね。たとえ時間がかかっても美味しく頂きたいものです。最高の味というのは心に残りますから」。ばあやの助言に力を得たアルダンは例えガラスの脚だとしてもレースメイクのセンスで勝負を仕掛けてくる。ビデオ研究を経てオグリの弱点を見つけたアルダンは、レース終盤まで巧みなレース運びを展開。最後はアルダンとオグリの一騎打ちとなるかに見えたのだが……なんとここで覚醒したイナリワンが領域を発動。これにオグリも呼応してアルダンは置いて行かれてしまう。激しいトップ争いの結果、オグリが勝利。アルダンは悔しい思いをし、領域に至れていない自分を再認識する。それでもチヨノオーやディクタストライカから励ましを受け、諦めることなく雪辱を誓う。

心に残る味を目指すアルダン

 

秋天(1989.10.29)~スーパークリーク物語2「奈瀬文乃×スーパークリーク」~

ステイヤーであるスーパークリークの体力削り作戦

シングレ第三章ではアルダンやクリークなどオグリのライバルたちのキャラが掘り下げられる。また本作ではキタハラや六平など魅力的なトレーナーたちが出て来るが、とりわけスーパークリークのトレーナーである奈瀬文乃は彼女自身が物語の主役となる。この秋天こそが奈瀬文乃とスーパークリークが掴んだ何物にも代えがたい勝利だったのだ。奈瀬文乃は幼少期より優秀でありトレーナーである父親に憧れて自身も同じ道に進路を進めた。だが現実は厳しく世間は文乃自身を見てくれず親の七光りと言って遠巻きに噂するのである。文乃はついに耐え切れなくなりトレーナーを辞めようとしていた。その時ちょうど、クリークが文乃に声をかけるのである。当初その名声を期待して声をかけたのではないかと警戒するが、その理由は熱心に見ていたからという純粋なもの。そして文乃のアドバイスを熱心に聞き、自分の悪癖を改善しようとするクリークのその姿は文乃にとって救いとなったのである。アプリ版のクリークはバブミ系ママキャラとして描かれることが多いが、シンデレラグレイではトレーナーの方がクリークを引っ張っている感があった。だがその背景にはクリークママが親からの愛に飢えていた文乃に愛を与えたのであった。それ故、文乃はクリークを勝たせるために熱心に寄り添っていく。かつてガラスの脚と言われたクリークをケアして克服させ、さらに体力とスタミナを増強させて、最強のステイヤーに育て上げたのである。またクリークも覚醒し領域に至るが、ステイヤーであるクリークにとって末脚勝負のゾーンは不利であり、敢えてそれを捨てる戦略に出る。クリークが取った手法は消耗戦。体力お化けであるクリークは早々にロングスパートを仕掛けて全体のペースを強引に引き上げ、隊列を操作することによってスタミナを根こそぎ削り取ったのである。類稀なるレースメイクにより内側から追い上げたメジロアルダンを除いてライバルたちは疲弊状態。最後は「条件付け」によりゾーンを発動させたオグリキャップとの戦いになるが、スーパークリークが勝利を飾る。領域(ゾーン)のバーゲンセールになり必殺技対決となっていたシンデレラグレイだが、ここでゾーンを捨てたスーパークリークが戦略とステイヤーとしてのスタミナとトレーナーとの絆で勝利するという熱い展開になった。

ウマ娘だけでなく個別トレーナーの掘り下げも行われる奈瀬文乃
スーパークリークの母性の発露
秋天で勝利したのはスーパークリーク