グリザイアの楽園「ブランエールの種」の感想・レビュー

何にせよ、やっぱり面白いなぁと思ってしまうグリザイアシリーズ。
グリザイアの楽園の「ブランエールの種」√は、「少女救済のその後」のはなし。
前作で主人公によりトラウマから解放されたヒロイン達が、今度は逆に主人公を救済するというパターンです。
「痛快アクション」の中に「生きる意味・アイデンティティの確立・自己肯定感・他者受容願望」等が盛りだくさん。
さらに物語の終結部では、「世界構造論と戦争による管理社会」が語られます。

物語の概要


  • デザイン・ソルジャー計画とタナトスシステム
    • 物語は主人公の雄二さんが国家に拘束され、対テロ組織用の交渉材料となってしまったことから始まります。そのテロ組織の目的は二つです。一つ目が「雄二さんの遺伝子」で、死を恐れず命令を遂行する兵士を量産する「デザイン・ソルジャー計画」のために、優秀な軍人である雄二さんの遺伝子を欲していたのです。そしてもう一つが、タナトスシステム。これは一姫お姉ちゃんの脳の複製を利用した通信傍受による諜報活動網のことで、インターネットが発達した情報化社会である現代世界を情報操作で牛耳れるシロモノでした。つまり、テロ組織は風見姉弟をよこさなければ、大量破壊兵器で東京爆発しちゃうぞ☆といってきたのです!!これに対し、国家は雄二さんの身柄をテロ組織に売り渡すことで、国防を成し遂げようとしていたのでした。この事態に対し、大切な男を救うため、我らがヒロインズは立ち上がったのです。



  • 風見雄二奪還計画
    • ここからは愛する男を取り戻すために戦うヒロインたちの挑戦が描かれます。一姫お姉ちゃんに導かれ、国家VSテロ組織の構図にヒロインズ女子挺身隊が躍り出ます。「社会から弾き出された脆弱な不適合者が今まさに己が牙を研ぎ澄ましつつ世界に噛みつく」のです。ヒロインズはそれぞれの得意分野で雄二さん奪還作戦に尽力します。頭脳労働担当の由美子は情報操作戦、カーアクション担当の天音はカーチェイス、狙撃兵担当の蒔菜はガン・アクション、万能クソメイドの幸は特攻隊、そしてアホの子みちるは周囲からいじられることで潤滑剤の役割を果たしていきます。各サブキャラたちも雄二さんを助けるために女子挺身隊の手助けをしていき、まさにフル出演。



    • 雄二さんを奪還するためのシナリオは以下の通りです。国は都心からの核爆弾除去を条件に雄二さんの身柄を売ります。しかし、直接引き渡すとマスコミからの批判がうるさいので、移送する際にテロ組織に奪わせるという方法を採ります。政権維持のための大衆迎合的な政治判断の隙をついて、我らが女子挺身隊は付け込もうというのです。移送の際に国家とテロ組織の間に割り込み、蒔菜の狙撃で車を襲い、幸が特攻強襲して雄二さんを救い出すと、天音が軽トラに積んで逃走という流れです。カーチェイスの末、武装したヘリにまで追いかけ回される冒険活劇が繰り広げられます。


  • ブランエール計画
    • エロゲの構造として挙げられるのが「少女救済」というモチーフがあります。問題を抱える社会不適合者の少女を救済することによって男のマッチョリズムを満たすというものです。次に、その少女たちの個別的な問題は、社会的な問題に起因したものなので、根本的な解決を目指して現代社会の病理に立ち向かうことになります。そして、救われた少女とともに社会的な問題に立ち向かうなかで、自身もまた社会不適合者である男を肯定し、その人生が許され生きる理由が与えられるのです。流れとしては、「ヒロインの個別的な問題を解決することでフラグ構築」→「ヒロインの個別的な問題を通して社会的な問題を捉える」→「主人公が社会的な問題を解決することで肯定される」というパターンです(分かりやすいチャート方式)。この作品はこの「エロゲーの構造」をメタ的に認識しており、一姫お姉ちゃんの口を通して「ブランエール計画」という名で表現しています。以下本文引用。
      • 「これはある意味原点回帰というか、壮絶な過去を持つあの子(※引用者註:雄二さん)が美浜学園にやってくることから計画が始まったのよ。あの子が自らの壮絶な過去故に、貴女たち(※引用者註:天音たち)の問題を解決していって全てのフラグメントが終結した時点で、あの子の過去が明らかになる。そしてあの子が過去のこととして、置き去ってきた問題が"ツケを払え"と言わんばかりに追いかけてくる。勿論ユージは一人でもその"ツケ"を支払うことはできるけれども、その代償はあまりにも大きい。人生そのものを投げ出す必要もあるでしょう。あの子がそれだけの"業"を重ねてきたのも事実……。それでもあの子が歩んできた人生で得たのは"業"だけじゃない。あの子を愛し、あの子を仲間とし、あの子が居たからこそ今の自分があると考える人間達もいる……。そんな人間たちが、今度はあの子のために、自分にできることをしようと立ち上がった。本当に苦しい時は、たった一杯の水をもらった相手のことを一生忘れないと言うわ……。あの子が師匠である日下部麻子にもらった恩を他人である貴女たちに返していったように、あの子が蒔続けた種はいつか花が開き、果実を成す。そうして実った果実は、自分がしてもらったことを今度は他人に返していこうと立ち上がり、再び種を蒔く。それこそが今回の"ブランエール計画"の核心である"楽園"で、あの子が渇望しながらも諦めていた物の正体……」

  • 風見雄二のテロリスト殲滅戦
    • ヒロインズに救出された雄二さんは過去の清算に向かいます。このまま逃げ続けることも出来るけれど、過去と決着をつけずにはいられないのです。そして、この戦いの中で、自身の複製であるデザイン・ソルジャーと死闘を繰り広げることになります。複製と対峙することで、雄二さんは悟りを開きます。「自分が過去に葛藤し続けた経験があるからこそ、自己肯定感を持つことが出来るようになった」と、過去の煩悶を乗り越えるのでした。単身、テロリストの拠点に進入し、ナイフとガンアクションでチャンバラを繰り広げます。その強さたるは鬼神の如く、まさに雄二さん無双!並み居る雑魚をなぎ払い、自身の複製を経験で圧し、さらにはラスボスのヒース・オスロも打ち倒します。そんな雄二さんの前に現れたのが、世界管理論主義者でした。テロ組織が国家に対して戦争というガス抜きをするので、世界大戦が起こらずに現在に至るという論理でした。この提案を断ると雄二さんは南の島に自分の楽園を築き上げ自給自足の暮らしをしながらハーレム生活を送ることになります。一方、この提案に乗ると一姫お姉ちゃんと二人きりで、戦争管理人として世界の業を背負うことになるのです。私としては後者の方が好きだなぁと思う。『装甲悪鬼村正』と同じようなテーマになるしね。
    • 世界構築論と戦争管理人
      • 「この世界を何度も滅ぼせる軍事力を持つ国があり、今も数多くの戦争が発生する中で、この世界をひっくり返すほどの大惨事が起きないのは何故だと思う?それはね、私たちヒースオスロが戦争をコントロールしているからだ。この世の中は3割の悪意、1割の善意、6割の偽善でできている。そして偽善は簡単に悪に変わる。戦争なんてものは、いつでもどこでも簡単に始められるものなんだ。偽善から変化した悪意に背中を押され、振り上げた拳の落としどころを見失う国は多い…。だから戦争を上手に終わらせることができる組織が求められるのだ…。武器を取り上げるだけでは戦争はなくならない。痛い目に遭うまで何も学ばない。それが人間だ。知っているだろう。武器を与え続けなければ、この世界は機能しなくなる。そして痛みから学ぶことをキミなら理解もできよう。人間など世界を蝕む害虫でしかない。だから適度な痛みを与え続け、発生し続ける害虫の駆除と管理をする存在、戦争管理人ヒースオスロが必要なのだ」



  • 教育論とかのはなし
    • この作品では人間としていかに個人的な能力を伸ばすために努力をするかが扱われるところが多く、教育心理的なネタも描かれています。そんな中で、物語の終末に出てきたテストの話は、常々思っていただけに激しく同意。
      • 「テストというものはね、生徒がどこまで理解しているかを試すものなのよ。先生というのはテストの点数をつけるだけではダメなの。生徒が何処で躓いたかを理解して、そこで初めて指導プランを組み立てるものなのよ」