まいてつ Last Run!!「仲国ルート」の感想・レビュー

中国(大陸)からの誘致で視察に行き、鉄道復権のための観光国策を提言する話。
しかし中国における鉄道制度やその位置づけに関する説明は一切なし。
中国経済を扱うのに社会主義市場経済共産党一党独裁も完全にスルー。
「ぼくの かんがえた さいきょうの てつどう かんこう しんこう」という側面が強い。
ライターの思いつきが賞賛されながら採用されていく様子を読まされることになる。
中国の若者に対し鉄道に興味を持たせる方法として「スタンプラリー」をドヤ顔で提言。
ライターの経済発展観=「屋台におけるスマホ決済」を例とした支払い取引システム。
観光国策の提言などと大風呂敷を広げず、普通に観光するだけじゃダメだったのかしら。

中身の無い思い付きが観光国策としてひたすら賞賛されるので読んでいてとてもしんどい

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  • ライターの力量と扱うテーマの規模の乖離
    • 【1】仲国√では、主人公・日々姫・ハチロクの三人が中国からの誘致で視察旅行に行くことになります。出来るだけ白紙の状態で来て欲しいという設定にすることによって、中国の鉄道制度と位置づけを無視する口実にしています。彼らが呼ばれた目的も事前知識による偏見を持たせないためと秘匿されているのですが、結論をあらかじめ述べれば「鉄道復権のための観光政策の提言」です。主人公たちにありのままで中国の鉄道旅行を楽しんでもらい、その上で所見を述べてもらおうとすることで意義付けを行っています。こうして読者たちは、主人公たちの目線を通じて中国旅行を追体験していくことになります。北京駅の様子や四川省への寝台列車成都でのパンダ観光や現役での蒸気機関車の活用などが巧みに紹介されています。フツーに観光するだけで充分面白いよ!
    • 【2】本作のライターは家族や地域などの狭い関係性を描くのは本当に素晴らしいです。そのためポーレットアフターは娘の成長に焦点を当てた夫婦の物語に鉄道旅行を上手く絡めることができたため大変面白く読ませて頂きました。また、中国の鉄道という扱うのが難しいジャンルにも積極的に取り組むなど新規性を生み出そうとしている点も評価できます。仲国ルートのシナリオも観光や視察だけならとても興味を惹く内容となっています。
    • 【3】しかしながら、なぜ「観光国策への提言」などという大風呂敷を広げるのか。いや広げても良いのだけど、そうすると政府の観光政策や旅行会社の経営戦略、大学での観光学など産学官における大きなテーマをきちんと踏まえる必要性が生じてきます。これらを扱うには執筆者に力量が要求されるのです。中国経済について扱うなら社会主義市場経済共産党一党独裁について触れねば非常に薄っぺらいものとなってしまうことでしょう。主人公が中国の経済発展に驚くシーンがあるのですが、屋台での買い食いでスマホQRコード決済する程度で経済発展を実感☆とかいうレベルです。また中国の蒸気機関車19号との会話における文化財の活用に関しても、保存と活用の相克を取り上げることなく、活用のためには実利を重視するスタイルを取ります。
    • 【4】前作はあくまでも人吉市に関する地方での話だったのでそこまで綻びは目立ちませんでした。しかし本作は日本を越えて、中国における観光振興にまで手を出してしまっているので、到底ライターが捌ききれるものでは無くなっています。そのため「思い付き」レベルの内容しか出せず、しかもそれが物語の展開上、賞賛されまくることになるので読者たちは興醒めしてしまうのです。ヨイショ要員による「御明察です」「素晴らしいです」のラッシュが来てウンザリしてしまったプレイヤーも多かったのではないでしょうか。最終的には中国の若者をして鉄道に興味を持たしめるために出された提言が「スタンプラリー」ですよ・・・(富裕層・高齢者向けには豪華クルーズトレイン)。さらに日中が技術提携して新幹線などの超高速鉄道を走らせましょうという夢物語が語られ、そのためには偉くなってトリクルダウン理論してくださいエンドとなり幕を閉じます。
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トリクルダウン理論エンド
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文化財の保護と活用の相克
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中国の経済発展とは・・・