雑録

すみれ(体験版)の感想・レビュー

現実社会に適応できない人間たちがネトゲコミュニティの社会的連帯に実存を見出すはなし。
日常に埋没できずに救済を求めているが、何をすることもできず日常に埋めれていく悲哀。
主人公くんは社会人2年目として設定されているがオッサンがふと感じる虚無感の病者が巧み。
オッサンのむなしさを描いた作品がもっと出てもいいのにねぇと思うこと限りなし。
ヒロインたちも良い感じに歪んでいて愛着も湧くというもの。

体験版 面白かったところ


  • 日常の繰り返しと埋没
    • 社会人2年目の主人公くんは、もう既に毎日の繰り返しに辟易するようになっています。仕事を始めたばかりの時には緊張感もあり、仕事を覚えることで精一杯なので疑問も湧きません。しかし、慣れてくると「どうしてこんなことを?」と疑問を抱くようになってくるのですね。毎日、毎日、同じことの繰り返し。これを死ぬまで続けるのだろうか?と自問自答してしまうのです。だからといって、薄給だけれども仕事を辞めたいわけでもなく、日常に埋没していってしまう自分に一抹の寂しさを感じていきます。この日常への埋没は永井荷風の一節を思い起こしますね。

朝九時から午後の五時まで、事務所に働いているうちは良いが、一足その以外に出ると、ニューヨークは広いが、自分の身には無味乾燥な下宿の一室より外に行き処がない。それも学校出たての若い書記共ならば、一夜の馬鹿話に憂さ晴らしも出来ようが……外面の体裁が気にかかり、そう相手選ばずに冗談も言えぬ。……さらば静かに読書でもしようかと、といって既に学校を出た後、幾年浮き世の風に吹かれた身は、新思潮、新知識に対する好奇の念漸く失せて、一時はちょっと物珍しく感じた外国の事情さえ、それほどまでにして研究する勇気はない。……で一日、三月半と経てば経つほど、日常生活の不便、境遇の寂寥を感ずるばかり。……何とも言えぬほど愚かしく感じられ、忙しい会社の事務を取っている最中にも、折々、影の如く、烟の如く、何やら訳も分からぬ事が胸の底に浮かび出て、ハッと心づいて、我に返ると、急に全身の力が抜けてしまったような、物寂しい心地になるのであった。


  • 社会人が今までの趣味を捨てる時
    • 別に隠しているというわけでもありませんが、職場で同僚とヲタ系の話などしません。大学院時代からはアニメは殆どみなくなりましたし、マンガも買わなくなりました。かろうじて薄い本の流し読みとテキストゲーだけはいまだに嗜んではいますが、周囲の人々に公言しているわけでもありません。どうしてこうなったかと言われても、自然とそうなったとしか言いようがないのもまた事実。上記は私の場合ですが、本作品はこのような「かつて情熱を捧げていた趣味がこぼれ落ちていく悲哀」が巧みに表現されているのです。これが本作品の魅力の売りなのです。仕事に疲弊した主人公くんが絶望していく様子は多くのプレイヤさんが共感できるのではないでしょうか?主人公くんがキャラモノのクリアファイルを捨て去り無地のものを選んだ際の回想シーンで、未開封のまま売り払うこともなくグッズを処分した際の決別はグッとくるものがあります。



  • 現実社会というものは どうしてこんなに生きるのが辛いものか
    • 生きるのが辛いけれども生きなければならない系の話がとても上手い。メインヒロインは友達いなくて休み時間は机に突っ伏して寝た振り・登下校のバス停は遠回りしてから乗る・ネトゲだけが人生の慰め!学校行くのが苦痛でしょうがない気持ちはよく分かる。周囲と馴染めないのは辛すぎる。今では笑い話なのですが、かつては真剣に研究職を目指していた頃もあり、遊び目的で大学通ってるちゃらんぽらんなリア充大学生には勝手に嫌悪感を抱き、複雑な感情に苛まされながら汚泥にまみれた大学生活を送ったものでした。こっちがまぁ一方的に悪いのだけれどそれを認めてしまうとアイデンティティが崩壊するので決して認められないというジレンマ。そんな現実に適応できない社会不適合者たちがネットで社会的連帯を形成し、なんとか現実で生き抜く力を得る主人公くんたちやヒロインにはとても愛着が湧くなぁと。