歴史-文献

深谷克己「公儀と身分制」 原秀三郎他編著『体系・日本国家史3 近世』東京大学出版会 1975年 147-185頁

はじめに 本稿の目的 封建制のアジア的一類型とされる幕藩制の封建王権である公儀と、この公儀の政治的主導によって創出され存続せしめられた幕藩制国家の社会編成の一環としての固有の身分制秩序についての考察 固有の身分制秩序とは?:土地所有を究極の基…

石井寛治「戦後歴史学と世界史 ―基本法則論から世界システム論へ―」歴史学研究会編『戦後歴史学再考』青木書店 2000年 29-71頁

はじめに 本稿の目的 「戦後歴史学」において「世界史」がどのように扱われてきたかを跡付ける 現時点において「世界史」の把握の仕方を歴史家としてどのように考えるべきかを述べる 本稿における「戦後歴史学」の定義 戦後民主主義の精神に立って歴史を研究…

吉田孝「イへとヤケ」『律令国家と古代の社会』岩波書店 1983年 71-122頁

本稿の趣旨 ヤケという語が担っていた機能的な側面がイへという語に移った イへが社会の基礎的な単位として確立してくる以前に、後世のイへが担う重要な機能の一部をヤケがはたしていた段階があった 一 イへとヤケ 古代の「家」とは何か。この「家」に古代社…

成田龍一「「戦後歴史学」の自己点検としての史学史」『歴史学研究』第862号 2010年 19-26頁

Ⅰ 「戦後歴史学」の再検討が提唱され具体的な著作物が刊行 →歴史学の「いま」を、史学史的な視点と方法で測り、「戦後歴史学」の自己点検を行なう様相を見る いずれの著作物も現時における歴史学の大きな変化に直面し、あらためて「戦後歴史学」の特徴を論ず…

吉田孝「「律令国家」と「公地公民」」『律令国家と古代の社会』岩波書店 1983 25-69頁

一 古代日本の歴史的環境 7世紀前後の東アジア 発展段階・社会構造を異にする諸民族が隋・唐を中心とする国際的交通によって結ばれる。 「倭」から「日本」へ 倭人は歴史上はじめて体系的な機構を持つ「国家」を形成。中国からの呼称である「倭」を捨て「日…

加藤陽子『それでも日本人は「戦争」を選んだ』朝日出版社 2009年 187-408 頁(3、4、5章、おわりに)

3章 第一次世界大戦 日本が抱いた主観的な挫折 植民地を持てた時代、持てなくなった時代 世界が総力戦に直面して 第一次世界大戦で何が変わったか? 世界:3つの帝国の崩壊=ロシアのロマノフ朝、ドイツのホーエンツォレルン朝、オーストリアのハプスブルク…

加藤陽子『それでも日本人は「戦争」を選んだ』朝日出版社 2009年 3-186頁(はじめに/序章/1章/2章)

はじめに 著者の専門;1929年の大恐慌、そこから始まった世界的な経済危機と戦争の時代、なかでも1930年代の外交と軍事。 30年代の教訓は2つある。 ひとつは、1937年の日中戦争の頃まで、当時の国民は、あくまで政党政治を通じた国内の社会民主主義的な改革…

籠谷次郎「国民教育の展開」井口和起編『近代日本の軌跡3 日清・日露戦争』吉川弘文館 1994年 170-195頁

1 児童の就学 小学校の修業 1886(明治19)年小学校令 小学校を尋常小学校(修業4年)と高等小学校(同4年)の二つに分ける 尋常小学校までの就学を「義務」。義務としたのは同令が最初。授業料が必要 土地の事情により小学簡易科(修業3年以内)を設けてよく、授…

松村寛之「戦争と国民意識」歴史学研究会・日本史研究会『日本史講座 第9巻 近代の転換』2005年 243-264頁

一 はじめに 日本人と愛国心 15年戦争は「誰一人、愛国心などには興味がない」ような人々によって遂行されたか? ←玉砕、特攻に象徴される狂信的愛国者たちというイメージ 愛国心、ナショナリズムとは何か ホブズボーム;近代のナショナリズムとは、民族的・…

住友陽文「大衆ナショナリズムとデモクラシー」歴史学研究会・日本史研究会『日本史講座9 近代の転換』東京大学出版会 2005年 29-56頁

一 はじめに デモクラシーとナショナリズムの相互補完の関係 両義性が成り立つのはなぜか? because. 近代=「欲望の解放」が悪徳ではないという前提において自由意志が支配する世界=自らに向けられるあらゆる強制も自らの自発性に由来することが自覚されな…

古矢旬「アメリカニズム ―「理念国家」の形成と変容―」『アメリカニズム』東京大学出版会 2002年 1-52頁

一 はじめに ― 問題の所在 アメリカニズムの変容 19世紀以前:アメリカを孤高の希望の地と見なす、隔離的、防御的なアメリカニズム 19世紀末:アメリカを人類社会全体の変革の旗手と見る、より積極的、攻勢的なアメリカニズムに転換 本章の課題 新たな世紀を…

和田光弘「アメリカにおけるナショナル・アイデンティティの形成―植民地時代から1830年代まで―」『岩波講座世界歴史17』岩波書店 259-281頁

はじめに アメリカとアイデンティティ 植民地から人工的に国民国家を創り上げたアメリカ合衆国→ナショナル・アイデンティティの形成は見果てぬ夢 本稿の目的と方法 国民意識の問題を俎上にのせ、植民地時代から1830年代までを射程に、時間軸に沿いつつ考察す…

尾粼耕司「近代国家の成立―軍隊・学校・衛生」歴史学研究会・日本史研究会編『日本史講座8』東京大学出版会 2005年 55-86頁

一 はじめに 本章にあたえられた課題:軍隊・学校・衛生といった国家装置を取り上げ、そこから日本という場に現れる近代国家像を展望する 軍隊・学校・衛生といった国家装置を、それらがいかに総体として国家のなかに組み込まれるかはもちろん、逆に何を国家…

谷川稔『十字架と三色旗』 山川出版社 1997年

近代フランスの歴史をカトリックと共和派の文化的ヘゲモニーをめぐる観点から描き出す。 19世紀以降、カトリックと共和派の文化的ヘゲモニーをめぐる闘い 強行主義と反教皇主義の対立 「国家の世俗性」:ライシテをめぐる対立。 フランス史の概念 ヴォルテー…

松沼美穂「戦争終結とフランス再統一を見据えて」『帝国とプロパガンダ』山川出版社 2007年

ヴィシー政権とそれに代わるドゴール首班の臨時政府が共にプロパガンダ政策として植民地を重視しており、フランス再生の基盤たる帝国、偉大で忠実な帝国と一体性であるゆえに偉大なフランスという命題を掲げていた、としてそれぞれの意図について書かれてい…

増田四郎・今井圭子「南アメリカ諸国の独立」増田義郎編『ラテン・アメリカ史Ⅱ南アメリカ』山川出版社 2000年 171-202頁

独立運動の背景 アメリカ大陸をめぐる抗争 スペイン、ポルトガルが独占するアメリカ大陸は、英仏蘭などのヨーロッパ諸国の攻撃の的 理念的には1494年のトルデシリャス条約によって、理念的にはポルトガルがブラジルを、スペインがそれ以外の南北アメリカ大陸…

山田睦男「植民地時代のブラジル」増田義郎編『ラテン・アメリカ史Ⅱ南アメリカ』山川出版社 2000年 130-170頁

パウ・ブラジル 1500年以後、ポルトガル、インド洋の香料貿易の独占狙う⇒沿岸各地にフェイトリア(武装交易基地)建設、「インド領域」の確立に力を注ぐ ブラジルはあまり関心払われず ⇒赤色染料材、高級家具材としてヨーロッパで需要のあるブラジルの木(パ…

大津透「宮廷社会を支えたもの」『道長と宮廷社会』講談社 173-236頁

宮廷は経済的にどのように支えられてきたか 平安時代中期に国家がなかったわけではなく、その時代なりの政治や財政運営が行われた。 受領支配の成立 摂関期の宮廷社会を支えたのは、受領国司による任国支配。 公田を名に編成し、そこに耕作する人を負名とし…

梶田孝道『統合と分裂のヨーロッパ』岩波新書 1993年

EC統合のもとで進む「国境なきヨーロッパ」とそれに反発するナショナリズム。東欧・ソ連における「民族の噴出」と「国民国家」化。外国人労働者や移民をめぐる文化摩擦や排斥運動……。統合と分裂が交錯し、複雑な様相を呈する「民族と国家」の構図を国際社会…

古田元夫『アジアのナショナリズム』山川出版社 1996年

アジアのナショナリズムは植民地主義に終止符をうつうえで、大きな歴史的意義を担った。しかし、同時にそれは、「やつら」を排除して「われわれ」の国民国家をつくるという、国民国家の論理がはらむ問題をひきずらざるをえないものだった。孫文・ガンディー…

柄谷行人『世界共和国へ』岩波新書 2006年

「資本=ネーション=国家」という接合体に覆われた現在の世界からは、それを超えるための理念も創造力も失われてしまった。資本制とネーションと国家の起源をそれぞれ三つの基礎的な交換様式から解明し、その接合体から抜け出す方法を「世界共和国」への道…

大澤真幸『不可能性の時代』岩波新書 2008年

「現実から逃避」するのではなく、むしろ「現実へと逃避」する者たち―――。彼らは一体何を求めているのか。戦後の「理想の時代」から、70年代以降の「虚構の時代」を経て、95年を境に迎えた特異な時代を、戦後精神史の中に位置づけ、現代社会における普遍的な…

岸本美緒「「中国」とは何か」尾形勇・岸本美緒編『新編世界各国史3中国史』所収、山川出版社、1998、3-23頁

中国というまとまり 「中国」というまとまりは、数千年にわたる人々の政治的・経済的・社会的な営みの中で変動しながら形成されてきたものである。そして「中国」という概念は、人々が自らの過去をたえず解釈しながら構成・再構成されてきたものであるという…

増田四郎『ヨーロッパとは何か』岩波新書、1967年

ヨーロッパという概念;「ギリシア・ローマ、キリスト教、ゲルマン民族」をフランク王国に求める。 この本のねらい 「ヨーロッパ」という舞台の成立とその構造の特殊性 古代世界の没落してヨーロッパ社会が成立することの意味、歴史の転換とは何か ヨーロッ…

雨宮昭一『占領と改革』(岩波新書)のメモ

戦後のサクセスストーリー史観を、総力戦体制と無条件降伏モデルによって相対化する。 総力戦体制:総力戦体制は私有財産と家族制度を解体した 1920年代(自由主義体制)から40年代(翼賛体制・総力戦体制)への移行 1950年代:総力戦体制から戦後体制への移行 …

ウォーラーステイン/山下範久訳「資本主義的世界=経済としての近代世界システム―生産・剰余価値・両極化」(『入門世界システム分析』藤原書店)

世界経済概念について 近代世界システム―16Cにその起源 世界=経済とは? 分業+資本・労働+諸財の交換が行われているような大規模な地理的領域 単一の政治構造によって境界づけられていない システムとしての資本主義 「無限の資本蓄積」を優先するシステムが…

ウォーラーステイン/山下範久訳「世界システム分析の史的起源―社会科学の諸ディシプリンから史的社会科学へ―」(『入門世界システム分析』藤原書店)

内容:世界史システム分析という分析の史的起源の説明 世界システムの出現:19C半ば 資本主義的経済世界=経済の論理が要請する不断の資本蓄積 近代世界システムの3つの重要な転換点 長い16世紀:資本主義的な世界=経済として近代世界システムが形成された時…

姜尚中・小森陽一「『正しい戦争』はどう作られたか」(『戦後日本は戦争をしてきた』角川oneテーマ21)

大学の講義関連(4年の後期でまだ講義とってんのかよ!!というツッコミはなしで) 対談集。この対談の意図 「テロ」という概念と「戦争」という概念を問い直すこと。 1)「テロ」とは:現在、多くの人々はテロという概念が良く分からないまま無責任に使っ…

南塚信吾『世界史なんていらない?』(岩波ブックレット、2007)のメモ

世界史は各国史の寄せ集めではない。 じゃあ何が世界史なんですか?⇒新しい世界史の試み。 ウォーラーステイン「世界システム論」 ホブズボウム「二重革命」 世界史を学ぶ意義 歴史的考察力 歴史認識 日本史を相対的にする 大学の歴史学は日本史・東洋史・西…

今枝由郎『ブータンに魅せられて』(岩波新書) の感想

ブータンという国は、チベット文化圏のなかで政治的独立を守りぬき、社会的・経済的にも外部からの影響に押し流されず今に至っている唯一の例外であるそうだ。国王が自ら親政を放棄したことで有名で、2008年に議会制民主主義に移行する。人生の充足を目標と…