歴史-文献

遠山茂樹『明治維新』(2018年、岩波文庫) 雑考

戦後歴史学・階級闘争史観・明治維新は単なる封建勢力内の権力移動という論調の明治維新。 この1冊だけ講読するのではなく、近年の新書などではどのように明治維新が描かれているかとかの対比をすればよかったかもしれない。 大衆向け新書⇒講談社現代新書(板…

遠山茂樹『明治維新』(岩波文庫、2018年) 第五章「明治維新の終幕」(313-334頁)

明治維新を、天保12(1841)年の幕政改革から明治10(1877)年の西南の役の期間における、絶対主義形成過程と捉える歴史叙述。 概要 倒幕派の背景には尊攘思想があったので、明治新政府は対外膨張を孕んでいた。征韓論は、対外膨張VS国内統治の対立ではなく、権…

遠山茂樹『明治維新』(岩波文庫、2018年) 第四章「天皇制統一政権の成立」(225-312頁)

概要 王政復古の大号令の思想は公議政体論と共通するため、慶喜の新政府への参加の是非が問われたが、薩長は強行的に旧幕府との戦争を引き起こした。故に新政府は批判を受けたため、自己の権力を正当化するため五箇条の御誓文や政体書を出した。だが、それら…

遠山茂樹『明治維新』(岩波文庫、2018年) 第三章「幕府の倒壊」(125-223頁)

概要 尊王攘夷運動は8月18日の政変、禁門の変により挫折した。第一次長州征伐に際し、奇兵隊などを組織したことで、藩主を擁する藩庁側に銃火を浴びえることができ、封建道徳的名分論に関して倒幕派は尊攘派よりも深みを増した。一方、条約勅許により開国は…

遠山茂樹『明治維新』(岩波文庫、2018年) 第二章「尊王攘夷運動の展開」(59-124頁)

概要 欧米列強の外圧よりも幕末日本にブルジョワ的萌芽があったという内在性を重視している。 当初、尊王攘夷論は幕府を強化するための理論的根拠だった。尊王攘夷はいつから反幕府となったのか。それは継嗣争いに敗れた改革が井伊攻撃の口実を違約調印に求…

遠山茂樹『明治維新』(岩波文庫、2018) 第一章「天保期の意義」(pp.37-58)

戦後歴史学・階級闘争史観・明治維新を絶対主義革命と捉える。 第一節 問題の所在 明治維新の起源は天保期(p.37) 「19世紀3,40年代の天保期の政治過程の中に、すでに明治維新の政治的本質の原型が形成されていた」 天保期の特徴(p.37) 「封建的土地所有と耕…

三谷太一郎『日本の近代とは何であったか』(岩波新書、2017) 第三章「日本はなぜ、いかにして植民地帝国となったのか」(pp.143-204)

植民地帝国日本の始まり 「遼東半島還付が日本政府や国民に与えた深い挫折感は、日清戦争後に出現した植民地帝国の実体そのもの(いわば即時的な植民地帝国)を、自覚的な植民地帝国(いわば対自的な植民帝国)に変える内面的動機となりました。これによって日本…

遠山茂樹『明治維新』(岩波文庫、2018年) 序論(pp.19-36)

この本を読むにあたっては戦後歴史学についての知識が必要。 一 明治維新史の学問的確立の条件 明治維新史を含め日本近代史が最も未開拓な分野であった理由 「〔……〕第一に基礎史料が充分に公開されなかったこと。公開された少数のものも、その多くは、学界…

加藤聖文『「大日本帝国」崩壊』(中公新書、2009)

本書の趣旨 大日本帝国とは何だったのか、その本質はどこにあるのか、どういうかたちで滅亡していったのか、そのことが現在のわれわれにとってどう関わっているのか、これらを明らかにする。 以下 参考になった箇所抜き書き 満洲国崩壊の意義 「満洲は朝鮮や…

鈴木多聞『「終戦」の政治史1943-1945』(東京大学出版会、2011) 第四章「ポツダム宣言の受諾」(151-214頁)

本章の趣旨 日本降伏の要因に、原爆要因やソ連要因だけではなく、本土決戦要因と条件要因を加えて考察する。 本章の視覚(1) 昭和天皇の決断に最も大きな影響を与えたのは、実は本土決戦要因であった。 実際、8月10日の御前会議において、昭和天皇は、降伏理…

鈴木多聞『「終戦」の政治史1943-1945』(東京大学出版会、2011) 第三章「鈴木貫太郎内閣と対ソ外交」(109-149頁)

第3章の趣旨 米ソの軍事的圧力が、日本をソ連に接近させたという観点から、日本の軍事・外交政策の双方を再検討する。 そして、その政策は戦争終結の時期や条件の問題とどのような関係にあり、その中で、昭和天皇はどのような政治的役割を果たしたのかについ…

鈴木多聞『「終戦」の政治史1943-1945』(東京大学出版会、2011) 第二章「東条内閣の総辞職」(57-107頁)

第二章の概要 1944(昭和19)年7月7日、絶対国防圏の一角であるサイパン島が陥落し、7月18日、東条内閣は総辞職する。第二章は、反東条内閣は必ずしも和平運動ではないのではないかという疑問からスタートし、東条内閣瓦解の原因を明らかにする。 第二章で明ら…

鈴木多聞『「終戦」の政治史1943-1945』(東京大学出版会、2011) 第一章「統帥権独立の伝統の崩壊」(9-56頁)

第一章概要 1944(昭和19)年2月11日、陸軍大臣東条英機(首相、陸相)は参謀総長を、海軍大臣嶋田繁太郎は軍令部総長をそれぞれ兼任(併任)したが、これは異例の事態であり、統帥権独立の伝統に反したものだった。一章では、統帥部(大本営)の改革論に着目し、国…

細谷千尋『両大戦間期の日本外交』(岩波書店、1988) 第一章「二一ヵ条要求とアメリカの対応」(pp.19-45)

まえがき(pp.19-20) 概要 一九一五年の「二十一ヵ条要求」に対応してとられた、アメリカ政府の政策についての研究。 論点 中国政府から支援の多大の期待を寄せられたアメリカ政府が「二十一ヵ条要求」をめぐる日中交渉にどのような対応を示すか。 目的 1.先…

長勢了治『シベリア抑留』(新潮選書、2015年)より「第二章 昭和二〇年八月九日、ソ連軍、満洲に侵攻す」(pp.60-107)

『シベリア抑留』の第二章。第二次世界大戦中における日ソ関係、日ソ戦争、樺太・千島への侵攻、引揚げまでが書かれている。 以下、参考になったところなどのメモ ドイツ降伏後、日本が和平交渉の仲介役として選んだのはソ連 仮想敵国のソ連に仲介を依頼する…

小谷賢『日本軍のインテリジェンス』(講談社選書メチエ、2007年)より「第四章 情報の分析・評価はいかになされたか」(pp.109-140)

1 陸海軍の情報分析 分析とはどのようなプロセスか(pp.110-114) 情報分析の重要性 分析・評価は、収集したインフォメーション(生情報やデータ)の断片をつなぎ合わせてインテリジェンスを生み出していく過程。 収集したインフォメーションを生かすも殺すも情…

小谷賢『日本軍のインテリジェンス』(講談社選書メチエ、2007年)より「第三章 海軍の情報収集」(pp.79-107)

1 通信情報 X機関の設立(pp.80-84) 通信情報への着目の始まり 日露戦争中、ロシアのウラジオ艦隊「ロシア」、「クロンボイ」二隻が東京湾口外に出現した際、ウラジオ艦隊の発信電波を傍受。 組織的暗号解読活動の始まり 1929年、軍令部第二班(情報)に四課別…

長勢了治『シベリア抑留』(新潮選書、2015)における「まえがき」「第一章 ロシアの領土拡張およびソ連共産主義」(pp.22〜46)

この本の特徴 日本の戦争を欧米の侵略に対する抵抗であったと正当化し、シベリア抑留がソ連の国家的犯罪であるとする論調。 1.内容の要約 まえがき 本書の目的 シベリア抑留が少しでも多くの現代人に知られること。 シベリア抑留とは何か 概要 ソ連の対日参…

山中恒「「少国民」たちの植民地」(『岩波講座 近代日本と植民地7』岩波書店、1993年、pp.57-79)

本稿の趣旨 少国民世代に付与された植民地教材(教科書や児童書)は、植民地が内包する様々な問題を見て見ぬ振りさせる効果を持つものであった。 以下本文より 1930年代の少年向け娯楽小説及び漫画事情(pp.67-69) …1930年代というのは、大日本雄弁会講談社の少…

加藤陽子「大政翼賛会の成立から対英米開戦まで」(『岩波講座日本歴史 第18巻』岩波書店、2015年、1-48頁)

本稿の趣旨(p.1) 1940年9月の日独伊三国同盟調印、翌10月の大政翼賛会成立から、41年12月の対英米開戦決定に至る日本の政軍関係の特質を、国際関係をふまえつつ明らかにすること… 以下気になった箇所まとめ 太平洋空間における自由貿易から大陸空間の計画経…

後藤乾一「アジア太平洋戦争と「大東亜共栄圏」――1935-1945年」(『岩波現代全書044東アジア近現代通史(下)』岩波書店、2014年、1-46頁)

文章の趣旨 盧溝橋事件(1937年7月7日)を端緒とする日中戦争。それに先立つ2年間にその後10年の日本の原基が形作られた。それまでの時代との史的連続性をふまえつつ、1935年からの10年間、「アジア太平洋戦争と「大東亜共栄圏」」の時代を考察する。 以下気に…

山室信一「新秩序の模索 1930年代」(『岩波講座 東アジア近現代通史 第5巻』岩波書店、2011年、pp.1-41)

概要 世界恐慌の打撃により「危機の時代」を迎えたアジアにおいて模索された新たな地域秩序と国際体系が論じられている。 30年代の世界状況(pp.4-5) 30年代を世界恐慌から始まって一直線に第二次世界大戦に至った時代と短絡的にみることはできない。また、ド…

小林英夫『帝国日本と総力戦体制』(有志舎、2004年)

本書の趣旨(pp.2-3) 日本と中国・東南アジアのを複眼的に見ながら、ファシズム型総力戦体制の形成と崩壊(満州事変勃発から日中戦争・アジア太平洋戦争終結)の過程を、総合的・構造的に明らかにしていきたい。 その際、戦前・戦中のファシズム型総力戦体制と…

源川真希『総力戦のなかの日本政治』(吉川弘文館、2017年)

この本の視点(p.9) 筆者は、総力戦体制のもとで機能するいくつかの政策が、もともとは当時の資本主義的経済秩序の問題点を克服するための処方箋として提起されたことを重視する。そしてこれが読み替えられて、総力戦に転轍されていったものと考える。そして…

白木沢旭児『日中戦争と大陸経済建設』(吉川弘文館、2016年)

本書の趣旨 筆者は日中戦争の目的を中国の経済開発と捉え、日中戦争の重要な側面である長期建設、経済建設の実態を解明することを目指している。 第1部 貿易国家から生産国家へ 第一章 貿易構想の転換-英米依存体質からの脱却- 英米依存から東亜自給へ(p.59)…

ディビッド・ウルフ/半谷史郎訳『ハルビン駅へ 日露中・交錯するロシア満洲の近代史』(講談社、2014)

ハルビンはロシア帝国の外部に位置したので、リベラルな思想が育まれ、それが帝国にフィードバックされたという内容。 本書の概要 鉄道建設を主題とする「鉄道帝国主義論」。 主たる特徴は東清鉄道がひきおこした国際競争。満洲問題はある種の「競争植民地主…

立石洋子「ロシアと第二次世界大戦の記憶」(2017年度成蹊大学後期公開講座)のまとめ

概要 ソ連/ロシアの各政権における第二次世界大戦に関する歴史認識の変遷 話の要旨 戦時中は戦争勝利のためイデオロギーが希薄化し愛国心が利用された。だが戦後のスターリン時代には思想統制が行われる。フルシチョフの雪融けにより戦争の見直しが行われた…

立石洋子「現代ロシアの歴史教育と第二次世界大戦の記憶」(スラヴ研究 62号 2015 pp.29-57)

はじめに 論文の趣旨 1990年代から現在までのロシアにおける第二次世界大戦の記憶をめぐる政治を、歴史教育と教科書を題材として分析すること。 1990年代の歴史教育政策や教科書の記述と近年の歴史教科書に関する政策を概観する。 2013/14年度に教育科学省の…

池上俊一『王様でたどるイギリス史』(岩波書店、2017年)

この本の趣旨 イギリス王を辿ることを通して、イギリスの歴史に一貫して流れる文化や心性の特徴をあぶりだすこと 気になった箇所てきとうなメモ 集権的封建制度(pp.19-21) ノルマン朝初代ウィリアム征服王の時代。当初は地位が安定せず諸侯の反乱に悩まされ…

富田武『シベリア抑留』(中公新書、2016年)

この本の趣旨 従来の「シベリア抑留」概念を、歴史的にはソ連による自国民の強制労働から繙くことで深め、地理的には南樺太や北朝鮮など「ソ連管理地域」に、検討対象も軍人・軍属の捕虜中心から民間人抑留者に広げることによって、抑留研究を前進させようと…